第23話 体育倉庫に閉じ込められて
今頃、教室では授業が行われている頃だろう。
科学の授業は今日、移動教室となっていた。
教室での席順に従って四人一班になり、実験をするはずだった。
僕と友江がサボりをかましたため、白石さんと女子が二人班となる。
今頃、班のテーブルはもの寂しい様相を呈していることだろう。
「まだ間に合う可能性はある。ここから抜け出すことができれば……」
すでに遅刻は確定しているが、実験には参加できる。
「えー。別に良いじゃん。サボっちゃえば」
「ダメだ。白石さんたちに迷惑を掛けるわけにはいかない。たった二人で実験を進めるとなると単純に手間がかかるだろ」
「白石さんなら、要領いいから大丈夫だって。私らの穴くらい埋めてくれるよ。第一、私は出席してたとしても、どのみち戦力にはならないからねえ」
「情けないことを堂々と言うなよ」
確かに白石は手際が良いから、僕たちがいなくても問題ないかもしれない。それどころかむしろ、足かせがいない分、実験が捗るまである。
ただ迷惑を掛けてしまっているのは事実だ。
もしかすると心配もされているかもしれない。
「とにかく、ここでじっとしてるわけにもいかない。出る方法を探さないと……」
僕は体育倉庫の中をぐるりと見回した。出入り口は入り口の扉しかない。外に続く隙間らしきものも見当たらない。
「あそこに明かり取り用の窓が一つあるな……」
もしかすると、抜け出すことができるかもしれない。
ただ、僕の身長よりも高い位置にあるのがネックだ。
仕方ない。ここは協力プレイでいこう。
「友江。僕が踏み台になる。上に乗ってくれ」
「ん? どったの急に。上に乗って欲しいとか性癖を暴露し出して」
「違う! 僕一人じゃ明かり取りの窓に届かないから。協力しようってことだよ!」
「あーなるほど。そゆことね。――だが、断る」
「ええ!? どうしてだよ?」
「別に私、ここから脱出したくないからねー。利害の不一致。同じ状況下に置かれているからって味方だと思うなよ?」
「ぐっ……。このサボり魔が……」
「まー。ただし」と友江が言った。「守谷が私の言うこと聞いてくれるのなら、協力してあげてもいいけどね」
「何だよ。いつも言うこと聞いてるだろ」
「あ。それもそうか。じゃあ、これからも言うこと聞いてくれるなら。末永く私の介護をしてくれるのならいいよ」
「事と次第によるだろ。クラス替わったら無理だし」
「私の介護役が務まるのは守谷だけだ!」
「世の中で一番いらない名誉だな……」
「そんじゃ言質も取れたところでボチボチやりますか。守谷。肩車してちょ」
「肩車? 僕が踏み台になるんじゃなくて?」
「私の身長的にそれじゃ届かなさそうだし」
「そういうことなら……」
僕はその場へ片膝を立てたまましゃがみ込んだ。
友江が背後から僕の両肩口に足を差し込んでくる。
彼女の臑を両手でしっかりと握りしめると、靴裏に力を込めて立ち上がる。途中、よろめきそうになったが、どうにか立脚することができた。
と、その時だった。
体操着の半ズボンからすらりと伸びた友江の太もも。
それが左右から僕の顔を挟み込んできた。
「――はあっ!?」
「おらおらー。どうだ。JKの生太ももに挟まれた気分は」
めちゃくちゃ柔らかかった。
それに何だか良い匂いがする……!
「ふっふっふー。それに加えて――喰らえっ」
次の瞬間、僕の視界が閉ざされた。
友江が体操服の裾を伸ばし、僕の目元へと被せてきたからだ。
そう気づいたのは、視界を奪われた僕が状況を把握しようと視界を忙しく動かし、上部に二つの膨らみを見つけたからだ。
黒のブラに包まれた乳房が、前に張り出している。
「友江っ――何やってるんだよ!?」
「ただ肩車をするっていうのも興がないでしょ。こうしてスイカ割りみたいに目隠しした状態の方が楽しいかなーって」
「脱出に楽しいとかいらないからな!?」
「ほれほれ。私が指示してあげるから、その通りに動きなって。そしたらちゃんと、窓の前に辿り着くからさー」
こいつ……僕が抵抗できないからってやりたい放題か!?
女子特有の甘い匂いと汗の匂いが入り交じって、理性を失いそうになる。
ダメだ。正気を保たないと。
僕はここから脱出しないといけないんだ……!
昂ぶる気持ちに理性の蓋をしながら、一歩一歩、友江の指示に従いながら明かり取りの窓の元へと進んでいく。
「おおー。やるねー。ちゃんとたどり着いたじゃん」
「さっさと窓を開けて、脱出してくれ。……言っておくけど自分だけ出るなよ。体育倉庫のカギを開けるのを忘れるな」
「はいはい。わかってますって」
友江は「んしょ……」と言いながら、腰を浮かした。しばらく時間が経つ。しかし友江が外に出た様子はなかった。
「どうかしたのか?」
「……守谷。残念だけど、これムリだわ」
「は?」
「鍵ついてないから。この窓からは出られない」
「…………」
ええ……。じゃあ、全部徒労だったってことか?
遠くに見えていた一条の光がふっと消え、僕は脱力して膝から崩れ落ちる。僕と友江の身体は足元のマットに投げ出された。
窓から脱出するのが不可能な以上、お手上げだ。
もうどうしようもない。
落胆する僕とは裏腹に、友江は気持ちよさそうに伸びをしていた。
……まあ、友江は元々、サボりたかったみたいだし。脱出できないとなったら、むしろラッキーという感じなのだろう。
「ねえ。守谷が頑なに脱出しようとしてるのって、白石さんのためでしょ?」
「えっ?」
「あの子に迷惑をかけまいとしてるのは、気があるからなんじゃないの?」
友江はにやりと笑う。
「守谷。最近、白石さんとやけに仲いいもんねえ。休み時間に話したり、自習の時は机をくっつけたり、いっしょに帰ってたりもするんでしょ?」
そこまで知っていたのか……。
「けど、白石さんはあんたのこと、別に好きじゃないと思うよ?」
友江は僕に釘を刺すように言った。
「それにあの子は別格だしさー。付き合うと周りから色々と比較されそうだし。面倒臭いことしかないと思うけどなー」
確かにそれはあるだろうなと思った。
特に僕のようなクラスでは目立たない生徒ならなおさらだ。つり合わない。周囲からの嫉妬の炎に焼かれること必至だ。
「その点、私と付き合ったとしたら楽だよ? 比較されることもないし。守谷の身の丈にもちょうど合ってる。周りからは好き好んで面倒な外れくじを引いた奴として、同情の目で好感度が上がるかもしれないし」
「友江は何か勘違いしてるみたいだけど」
僕は言った。
「僕は友江のこと、面倒な奴だとは思ってるけど、女子として外れくじだと思ったことは一度もないからな」
「あはは。嬉しいこと言ってくれるじゃん」
友江はにっとはにかむ。
「じゃあさ、もう、私と付き合っちゃいなよ」
「それとこれとは別問題だろ」
「ちぇっ。薄暗い体育倉庫で二人きりだし、吊り橋効果あると思ったんだけど。そう簡単にはいかないかー」
友江はごろんと仰向けになると、頭の後ろで手を組む。
「こりゃ長期戦だなー」
本気なのか冗談なのか分からないことを言っていた。
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