PART4

 次は奴自身の事だ。


 あの少年ガキは、一体どうやって被害者おきゃくの情報を知り得たのだろう。


 行き当たりばったりに探しているとは思えない。


 今度は所沢だ。


 上野五郎が9歳前後から15歳で姿を消すまで暮らした場所である。


 当たり前のことだが、いい顔はされなかった。


 ああした『施設』というのは、収容されている『子供』のプライバシーを保護しなければならない。


 例え『卒業』したとしても同じだ。


 しかしここで引き下がる訳には行かない。

 

 俺だってプロだ。


 金を受け取り、仕事を引き受けた以上、中途半端な真似は出来ない。


 その結果、何とか職員から聞き出せたことは。


・子供の頃から機械いじりに矢鱈に詳しかったこと。

・それ以外には趣味らしい趣味はなかったが、本と新聞を読むことにかけては人一倍の情熱を燃やし、施設に配達されてくる新聞(三紙はあったという)を隅から隅まで読んで、職員の許可を貰い、スクラップするか、コピーをして貰っていたこと。


 それだけだった。



 いや、正確にはもう一つあった。それは施設に『学習指導』にやってくる、某私立大学の教育学部の女子学生から得た情報だった。


 彼女は大学に入学した一年の頃から、ここで子供たちに勉強を教えている。


 上野五郎とも、約一年だけだが、勉強を教えてやってことがあったという。


彼女は『上野君は水商売に行ってるんじゃないか』と前置きし、

(こういう施設を出た子って、どんな職業に多く就くと思いますか?勿論真面目に働いている子もいるんですが、一番多いのは、、つまりは水商売なんです)


 彼女は決して偏見でそう言った訳ではない。


 長年子供を主観的な目で眺めてきて、そういう結論に達したのだという。


 どうしてそうなるのかは彼女自身にもまだ分からないが、彼女はそう付け加えるのも忘れなかった。


 言われてみれば確かにそうだ。


 普通の会社なら、履歴書が必要だし、家族関係や前歴みたいなものだって問われるだろうが、水商売ならば、そういうものはあまり問題にされないからな。


 それに上野は乳児院からずっとこういう環境で育っている。彼の性癖がどうであれ、ああいう子は大人の顔色を見極めるのに長けているのだそうだ。

 

 (上野君はそういう意味では水商売に向いているタイプだと思います。大人の話を素直に聞くし、文句も言わず、相手の先を読んできびきびと行動する。それに誰にでも好かれる・・・・長続きするかどうかは別にしても、私の予想は、間違いないと思いますよ)


(お水、か・・・・)


 一つのきっかけになるかもしれないな。


 探偵の仕事ってのは、些細な事でも、決して見逃してはならない。その点は警官おまわりとも似ちゃあいるが、あっちは『職務』、俺はこれでを喰っているのだ。


 メシの種になるなら、何でもやってみる必要があるだろう。



『燈台下暗し』とはまさにこのことだな。


 俺はカウンターの端に腰かけ、苦笑した。


 そこは新宿二丁目、言ってみれば俺のというわけだ。


 その中にあるゲイバー『雲母キララ』に、そいつはいた。


 そこは二丁目に於いても、あまり大きな店ではなかったが、妙に繁盛しているので知られていた。


 まずは自分の足元と、新宿を歩き回り、やっとここに行き当たったのだ。


 ジントニックを舐めながら、カウンターの向こう側で微笑むその人物、


 微かな微笑みを口元に浮かべて客の相手をしている・・・・。


 間違いなくあの男・・・・上野五郎だった。


 


 





 

 



 

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