第20話 初の対人戦の後にはメンタルケアが必要だと思います

 街から出て直ぐにキリカの刀の修復作業が出来なかったのは痛い。

 しかし能力が馴染むまでは、どんな能力があるのか理解が出来ない。


 そもそも修復能力だと知らなかったのだし。ドライガーの他の能力を把握していたからこそ、ここまで早く把握出来たとも言える。


 それでも今回は、タイミングが悪かったとしか言いようがない。

 それにまだここは、王都から半日にもならない距離なのだ。

 だからこそこのタイミングでの邂逅は、天文学的な確率と言えるだろう。


「ゲハハハハハハハハッ!死にたくなけりゃ裸になって男は逃げな。女は俺達が気持ちよく幸せにしてやブベロォッ」


 そう、2人は盗賊に囲まれたのだ。

 最初は大人しく、盗賊のリーダーらしき男の話しを聞いていた2人だったが。

 途中でフーライが男に向けて火の玉を放ち、火ダルマにしたのだ。


 キリカは盗賊が動揺した瞬間に、背後の囲みを破るべく走り出した。

 フーライは棒立ちのまま。キリカが背中を向けている盗賊を焼いていった。

 通算3人焼かれた時点で盗賊の誰かが叫ぶ。


「先に男を殺せ、魔道士だ!鎧は見かけ倒し接だ、近戦に弱いぞ!!」


 フーライは防御を気にせずに。

 キリカは背後を気にせずに、両者とも攻撃し続けている。

 20に近い剣が連続でフーライを襲う。


 先に攻撃した仲間から切られ吹き飛んでいく

 が、盗賊は反撃しているのだとしか考えない。

 これだけの数の攻撃から、無傷でいられるわけねえ。と。


 僅かな時間でフーライを囲った盗賊は、全員重症を負って倒れた。

 キリカと対峙していた盗賊達も、程なくして文字通り全滅した。



 ※ここから残酷なシーンになります。

 次話の頭にあらすじを書くので、ここからは読まなくても大丈夫にしておきます。













 キリカに周囲の警戒を頼むと、フーライは重症の盗賊を集め地下トーチカに一緒に入る。


「今からお前達を痛めつけて殺す。楽に死にたかったらアジトの場所を話せ」


 フーライは楽しんで悪事を犯す者に、容赦は無用だと考えている。

 暴君に税だと全てを奪われ、死ぬか奪うかとなった者とは違い。

 目の前に居る者達は、罪を楽しんでいる。

 だから殺す。


 だがこれだけの人数が居るなら。移動してきた当日でないなら、アジト持ちだと推測したのだ。

 もしかしたらそのアジトには、囚われた人が居るのかもしれない。

 回復魔法で放置しても死なない程度まで、されど戦えない程度に盗賊達を癒やす。

 治療を終えたらドライガーの全身から刃を出して、満足に動けない盗賊達を脅していく。


「手前から聞いていく。話す意思のある者は保留、ない者はこいつで切って刺して回復し続ける。最初の10人くらいが死ぬまで抵抗してくれると、後半のヤツ等は素直にしゃべってくれそうだよな?お前はどう思う?ん?」


 1番手前に居た盗賊にフーライがはなしかけると、酷く怯え始めた。


「ヒイィィィィィィッ!わかった、話す。話すから殺さないでく」


 最後まで言わせずに右拳の刃を振り下ろし、その盗賊の体は左右に分かれる事になった。


「そう言った人達を、何人殺してきたんだ?」


 足裏の刃を収納して、死体を盗賊に向けて蹴り飛ばす。

 死体に抱きつかれ臓物を浴びる盗賊達から悲鳴が上がる。


「さあ。楽に死にたければ話すといい」


 それからはとても簡単に、盗賊達は自分達のアジトの場所を吐いた。

 念の為に全員狭い個室を作って入れてから聞いたので、事前に打ち合わせしていない限り間違いないだろう。


 フーライは地上に上がるとトーチカを盗賊ごと埋めた。

 盗賊に対して言葉足らずなだけで、フーライは嘘は言っていない。


(お前が殺した人達よりも、楽な死に方だろう?)



 キリカと合流してアジトを聞き出した。

 誰か閉じ込められてるかもしれない、見に行こう。

 そう言って歩き出そうとすると、キリカに左手を掴まれた。


「某の前で無理はしないで下さい。殺人は初めてだったのではないですか?手も体も、こんなにも震えています」


 フーライは指摘されるまで、自分が震えているのに気付かなかった。

 自覚すると急に吐き気がこみ上げてきた。

 キリカの手を振り離すと兜を解除して、茂みの向こう側で吐いた。


 胃の中が空っぽになっても、吐く物がなくなっても吐き気は収まらず血まで吐いた。

 途中から涙まで溢れ、泣き始めた。

 喉が焼けて満足に声も出せないのに、それでも泣き続けた。

 自分でもよく分からない感情が胸中を渦巻き、膨れ上がり続けた。

 盗賊のアジトに誰か待っているかもしれないと思うも、心が理性的な行動を拒絶して体が動かなくなっていた。


泣き疲れたフーライは、気絶する様に眠りについた。

その姿はまるで、幼子の様にも見えた。

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