第16話 ステータスオープン勇者 隠し扉

「もう少し先へ進もう。地図と現れるモンスターの種類は次回にも役立つからな」

「ここ……隠し扉がある……」

 先行していたジゼルが立ち止まり、右の壁を手の甲でコツコツ叩き始めたのは、ミノタウルスとの戦闘を終えてから30分ほど経った頃であった。そこの壁の色が微妙に違うのは、ジゼルしか気づけないものであった。


「隠し扉となると、お宝があるのでは?」

 ホーキンスが僧侶らしからぬことを言う。このアリエラ教の僧は金に目がないことはここまで一緒に行動してきたタカギには薄々分かってきた。

「隠し扉となると、罠も警戒しないといけないよ」

 シエラがそう警告する。ジゼルは両手で撫でるように壁を触る。隠し扉の解除方法を探っているようだ。そしてその方法が分かったのか、視線をタカギに向けた。


(大丈夫、大丈夫、ジゼルちゃん。もし、罠で怖いモンスターが出てきても俺が全部やっつけちゃうからね)

 心の中でそんなセリフを言いながら、タカギは頷く。ジゼルはそれを見てから今度はリーダーのベルドモットへ視線を移した。ドワーフの髭男は力強く頷いた。

 コツン……ギギギ……。

 何かが外れる音がして壁が押し込まれた。ジゼルが看破したようにそこには隠し部屋があった。10m四方の部屋。中央に宝箱が置いてある。それは蓋が少し開いていて、中には宝石やら金貨がぎっしりと入っているのが見えた。

「うおおおっ……。これは大儲けじゃないか!」

「待て、ホーキンス!」

 ベルモットが右手で駆け寄ろうとしたホーキンスを止めた。それはジゼルが同様に動かないように手で合図を送ったから。


「あ、あれは……なに?」 

ホーキンスの後ろにいたシエラは震える指で指示した方向。宝箱の上に青い炎が浮かび上がったのだ。そしてそれは青黒い霧に包まれてやがて姿を現した。オス山羊の角に足。するどい爪とクマのような毛に追われた邪悪な怪物。

「レ……レッサーデーモン!」

 思わず唸ったのはパーティリーダーのベルドモット。彼は目の前の敵と戦った経験がった。それは彼がまだこのパーティを結成する前の駆け出しの頃。


 ベテラン冒険者パーティの見習いとして参加していたベルドモットは、別のダンジョンで深く進攻しすぎたために出会ってしまった恐ろしいモンスターを今でも忘れることはできない。あの時はベテランパーティも戦わずに逃げることを選択した。

 おかげで駆け出しの自分は命を失うことはなかった。しかし、追撃の魔法攻撃で1人が命を落としたという暗い過去を思い出したのだ。


「ダメだ……あいつには勝てない」

「へえ……。そんなことはないと思うけど」

 ベルドモットの言葉を難なく否定するタカギ。タカギに見える。目の前のモンスターのステータスが。


レッサーデーモン 攻撃力352 防御力385 魔力224

悪魔族の中では低レベルのモンスター。魔法無効能力は30%。悪魔なので通常の武器では傷つけられない。


「いや、いくらタカギでもあいつには勝てないのだ」

 確信をもってそう話すベルドモット。まだ完全に顕現していない今の状況なら、急いで逃げれば逃げ切れるかもしれないが、動けば攻撃されるかもという恐怖で判断に迷っていたのだ。

「俺が勝てない?」

「ああそうだ。お前の武器では奴にダメージを与えられない。それはわしのバトルアックスでもだ」

「ああ、そういうこと。魔法の武器じゃないと倒せないって奴ですか。あと、魔法の無効化も低確率だけどやって来るからね」

「な……なんでお前は知っているんだ?」

「大丈夫ですよ。僕には武器を強化する魔法も使えます」

 タカギは自分のステータスを開くと数値と封印してあった魔法を解除する。解除したのは武器を一時的に魔法化する『エンチャットウェポン』。


 それを自分の初心者用のロングソードにかける。たちまち、爛々と光が輝き始めた。タカギの行動を驚きをもって見つめるパーティメンバー。

「あらよっと!」

 タカギは軽く跳んで、姿を現しつつあったレッサーデーモンを真っ二つにした。何もできずに姿を消し、大量の金貨をまき散らしたレッサーデーモンであった。


「タ、タカギ…すごい!」

 目はタカギに釘付けで、帰ったらすぐにでも誘ってというオーラでまくりのシエラ。何が起こったかの理解できずに放心状態のベルドモット。レッサーデーモンの残した金貨と宝箱に魅了されているホーキンス。その宝箱に罠がないか冷静に調べているジゼル。


 タカギは満足そうに剣を収めた。ステータス的にかなり強いモンスターであったが、まだまだ自分よりは弱い。瞬殺レベルである。

「宝箱には罠はない……中には宝石に金貨。銀貨と銅貨もかなりあるから金貨だけを持って行った方がいい。そして……」

 ジゼルは小さな指輪を取り出した。それは古びてはいるが、古代の魔法が創り出した魔法

マジック

アイテムで、魔法具の店でたまに置いてある冒険者垂涎の指輪だったのだ。

「ジゼルちゃん、この指輪がなんだい?」

 タカギはそう聞いてみた。指輪のステータスも分かるタカギではあったが、あえてジゼルに聞いてみたのだ。

「これは脱出の指輪……使えばこのダンジョンの入り口まで一瞬で連れて行ってくれる」

「使い捨てだが、魔法道具屋で買えば軽く金貨1000枚はする高価なアイテムよ。但し、使えるのは1回だけ」

 そうジゼルに補足したのはシエラ。こういうアイテムは普通、自分たちで使うよりも売るのが定番らしい。もっと上級冒険者になり、かなり危険なクエストに参加しないかぎりは費用対効果が釣り合わないのであろう。

「ふ~ん」

 タカギはダンジョンから脱出魔法がないか、自分のステータス画面を開いてみたが、さすがにそんな魔法は習得していなかった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る