第5話  ハーレム勇者 ゴブリンのダンジョンへ行く

 ゴブリンのダンジョンは、町から歩いて一日かかる山の中にあった。この洞窟を拠点にして、近くの村の家畜を襲ったり、作物を荒らすという。最近は人間への被害も報告されている。

「さて、どうする。穴にめがけて炎の魔法を使えば一撃だけど……それはないよね」

 一応、サイトウはそう尋ねてみた。自分が使える最強クラスの魔法を1つ、ダンジョンの中へめがけて放てば、恐らく瞬殺であろう。だが、それではパーティを組んだ意味がないし、サイトウも面白くない。

 出るだけ長くこの美少女三人のパーティで、冒険を楽しみたいというのは、これまで女の子と話したこともないサイトウの願いでもある。

 一撃で終わらせないということに関しては、女戦士ジャスティも同じ考え。それでは自分たちの経験値も上がらないし、もしかしたら、ダンジョン内にあるかもしれないお宝まで焼き尽くされてしまう。

「サイトウさんは、あたいたちのサポートをお願いするわ」

「うん。そうだね。じゃあ、ダンジョンは暗いからライトの魔法を使うよ」

 サイトウは無詠唱で『ライト』の呪文を唱えた。それを先頭を歩くレンジャーのジゼルの弓の先端。次に歩くジャスティの剣、神官ルミイの杖の先だ。

 サイトウの使った『ライト』の呪文は最上級の『コンティニュー・ライト』。ダンジョンから出るまで輝き続ける魔法だ。

 その明るさは、ほとんど昼間のようである。これなら不意打ちなんてありえないだろう。

 さらにサイトウは召喚魔法の『プラズマボール』を使う。これは明るいボールのようなモンスターで、空間を漂って辺りを照らすだけでなく、襲い掛かってくる敵に反応して自爆する。後方を警戒させるにはもってこいである。

 ダンジョンは昔の廃坑の跡のようであり、入り口付近は大人三人が横に並んで歩いて行ける幅がある。

 奥に行くと徐々に狭くなるが、それでも大人二人は並んで歩ける幅だ。時折、広い空間に出ることができる。

「くんくん……獣の臭いがする……」

 そうジゼルが立ち止まって止まるように手で合図した。ジャスティがそっと剣を抜く。ルミイも杖を両手にもって身構える。

 やがて足音が聞こえてくる。かなりの数の足音だ。このダンジョンに住むと言われるゴブリンのものと思われた。

「20はいる……」

 そうジゼルは長い耳をぴくぴくさせた。レンジャーの耳は足音から数を推察することができる。

「ルミイはいくつ聖魔法が使える?」

「3回です。回復魔法と毒消し魔法、麻痺の解除魔法に守りの魔法です」

 そうルミイが答える。4種類の魔法から任意に3回使えるらしい。

「ん、じゃあ、ルミイは下がって待機。回復に徹して」

「はい、わかりました」

「ジゼルは弓を放って。2,3倒して」

「了解……」

「あたしはどうする……」

 そうジャスティが剣を抜いて少しだけサイトウの方を向いた。ジャスティの出番も作らないといけない。

「俺が魔法で大半を倒すけど、すり抜けた奴を頼むよ」

「オッケー」

 シュパ、シュバ、シュバ……。

 ジゼルの目に留まらない速さの弓攻撃。3連撃する。そして悲鳴が3回聞こえる。足音が乱れるが、それは怒りの叫びと共に近づいてくる。ライトの呪文で明るくなったダンジョンにその姿を現した。イボイボの皮膚の恐ろしい顔をした小鬼たちの登場だ。

「ライトニングフレア」

 サイトウはそう叫んで、右手を前へ突き出した。炎の渦が一直線に飛んでいく。先頭のゴブリンを灰に変え、その炎は集団を一撃で灰へと変えた。

「おらあああああっ~」

 残ったゴブリンは2,3体。仲間が一瞬で消えたことで、恐怖で体が動かない。そこへジャスティが剣で斬りかかる。

 ゴブリン共はなすすべなく、女戦士の刃の前にゴミクズと化した。だが、これだけでは終わらない。その後ろから、3倍の大きさはあると思われる体の大きなゴブリンが現れた。ホブゴブリンである。石器でできた斧は破壊力がありそうだ。

「こりゃ、歯ごたえがあるな」

 ジャスティはそういってマントをひるがえした。打ち下ろされた斧を除けて斬りかかる。まずは一撃。苦痛の声を上げるホブゴブリン。

「ぐぎゃああああっ……」

 めちゃくちゃに巨大な石斧を振り回す。ジャスティは、それを避けようとして右にステップしたが、ついた足元にゴブリンの血糊があった。ズルっと滑って態勢を崩してしまった。

「しまった!」

 ホブゴブリンの大きな石斧がジャスティの頭に落ちてくる。

「爆裂!」

 サイトウは瞬時に爆裂の魔法を放つ。魔法で召喚された球体のエネルギーの塊は、ホブゴブリンに次命中すると小爆発して吹き飛ばす。3mは後ろへ飛んでそこで尻もちをつくホブゴブリン。その戦意を完全に奪い取る。

「このおおおおおおおっ!」

 弱ったホブゴブリンめがけて、シャスティは剣を水平に構えて急所である喉元を刺した。

「ぐおおおおおおっ……」

 断末魔の声を上げて絶命するホブゴブリン。戦闘は終了である。

「やっぱり、すごいです、サイトウさん。ゴブリン20体を瞬殺なんて……」

 結局、何もすることがなく、後方でただ眺めていただけの女神官のルミィは、そう感嘆の声を上げるしかない。

「思ったよりもたくさんいたね」

 サイトウはそう淡々と答えた。だが、心の中では女の子たちに最高にカッコいい姿を披露出来て(俺、最高にカッケーじゃん)と大満足である。

 燃え尽きた奴もいたから正確な数は分からないが、20どころではなかったかもしれない。ジゼルが弓で3体倒したが、足跡からして30体以上はいたようだ。

「サイトウさんがいなかったら、あたしら全滅だったかも」

 ちょっと、震えてそう話すジャスティ。いつもの勢いがないのは、予想外のゴブリンの数とホブゴブリンの強さを体験してのことだろう。

 正直、サイトウの爆裂の魔法がなければ、ホブゴブリンにジャスティが勝てた保証はない。

「これくらいなら楽勝だよ。それより、探索を続けよう」

 サイトウはそう促した。

 ゴブリンのダンジョンはさして広くもなく、戦闘のあった場所から100メートルほどで行き止まりとなっていた。そこはゴブリンたちの巣。どうやら、全員、先ほどの戦いで討ち取ったようだ。

「銀貨2枚にしょぼい食器か……大したものはないなあ」

 こういった場合、予想外の宝があったり、次にクエストにつながるアイテムが見つかったりするものだが、あっさりとしている。やはり、金貨5枚の仕事だ。

 それでもダンジョンを出ると昼過ぎ近くになっていた。広くないダンジョンでも探索しながらだと思ったよりも時間が経つ。

「それじゃあ、町へ帰るとするか」

 ダンジョンを出たサイトウたちに複数の声がかすかに聞こえてきた。ここは山の中の廃坑。人は滅多に近寄らない。

「なんだか、争う声だね」

 耳を澄ませていたジャスティもそう言った。人間よりも、もっと耳のよいジゼルは指を差した。

「あっちの方向だよ……」

 サイトウたちは争う声の方へと進んだ。近づくにつれて、それは激しい戦闘が行われているのだと確信した。

「何をしている!」

 サイトウの目に入ったのは、銀色の鎧を身に付けた騎士とドレス姿の女の子。それに襲い掛かる黒づくめの男たち。恐ろしいことに羽の生えた石造みたいなモンスターが2体飛び回っている。

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