第4話こうして僕たちはこの状態に至る

こうして僕たちの間には子供が生まれた。


子供が生まれた直後はまりんの容態が悪化して、しばらく油断ができない状態ではあったが、現在は容態が安定して、無事まりんは生まれた子供と対面することができた。


正直、まりんの容態が悪かったこと、今後の生活に対する不安、世間にこのことがバレないかという懸念など、さまざまな重荷が僕にのしかかっていて、僕自身かなり憔悴してしまっていたが、まりんの腕の中で安らかに眠っている我が子を見ると、そんなものは一瞬にして取り払われてしまい、僕は絶対にこの子を守って見せるという決心を僕に抱かせた。

しかし、このちっこい手やぷにぷにのほっぺ、そしてまりんから遺伝した青藍色の髪の毛が本当にかわいくて、ついついデレデレしてしまった。

あまりのデレデレさにまりんからは白い目で見られてしまったが、それも仕方がないと思う。


「ほら、見てみて、一生懸命おっぱい吸ってるよ!」

「そ、そうだね。」


彼女は子供に母乳を飲ませて、それを僕に見せようとしていたが、別に付き合っているというわけではない僕はなんとなく彼女のそれを見ることが憚られて別のほうを向いた。それに関係を持ったとはいえ僕自身そういうことに免疫があるわけではないし。彼女も僕と同じはずなのだがあまり気にしている様子は見えなかった。


ちなみに、生まれた子供は女の子で、まりんと話し合った結果『かもめ』という名前にすることにした。

理由は、まりんと同じ青藍色の髪をしていたため海に関することを想定して、世界を自由に飛び回ってほしいという思いを込めてその名前にした。


若年での出産は障害のある子を産みやすいと聞いていたが、奇跡的にかもめはいたって異常は見られなかったため、僕たちは心の底から安心した。


こうして僕たちは無事退院をすることができた。

まりんはお腹が膨らみ始めてからすでに休学しており、今は予定通り子育てに専念していた。やはり子育てというのはすごく大変らしいが、子育て経験のあるなぎささんがサポートしてくれているおかげで何とかなっているようだ。やはり子育て経験のある母のアドバイスはすごくためになると言われているくらいだし、すごく助かっているようだった。ちなみにまりんが学校を休んでからは、学校中では軽く騒ぎになってしまった。やはりあんなに人気のあった人物がずっと学校に来なくなったのだ、そりゃあそうなるかという感想が湧いた。それに関して憶測が憶測を呼んでいたが、奇跡的にまりんが子供を産んだという事実はバレていないようだった。


僕はその日からまりん家でお世話になり、学校に通いながらも中学生でもできるバイトをして、暇さえあれば子育ての手伝いや家事の手伝いをした。

僕も手助けがしたいと思って少し前から料理や家事の勉強を死ぬ気でやったおかげで、家事はあらかた一人でできるようになったし料理の腕前はかなり上達したと思う。


ちなみに、子供の顔を僕の両親に見せてみたら僕と同じようにすっごくデレデレになっていた。これはおそらく血なのであろう。

なぎささんは、「私ももう孫を持つほど年老いたのね…」と意味の分からないことを遠い目をしながら言っており、そしてまりんの父はというと…いや、これはあの人の名誉のために言わないでおこう。一言だけ言うと、誰だあんたと思わず思ってしまうようなことである。


こうして僕たちは子育てをしながらもなんとか生活を送っていくことができた。最初は色々懸念されていたことはあるものの、周りの人たちがすっごく支援してくれていたおかげで、問題なく子育てに専念ができた。


しかし、僕はふと今の彼女との関係はなんであるかを考えていた。僕たちの間に子供ができたわけだし、流石に赤の他人を名乗ることは出来ないであろう。だからといってお互いに関係を確認する暇がないほどに中学の頃は忙しかった。お互いの子供がいるにも関わらず、付き合っていない、ましてや結婚をしているわけでもないこの状況で、僕たちの関係とは一体何なのであろうかと考えだす。

あのときは、告白を断って、それ以降それに似たことは何もなかったため付き合っているわけではないと思う。あの頃から僕たちの関係は歪であったというのに、今回子供ができたことによってますます歪んだ関係になってしまった。

一番考えられるのは、婚約…であろうか。公的な関係の証明がないだけでここまで不明瞭になるなんておかしな話だ。一応認知届は出したため父であるというのは認められたわけだが、今後の僕たちの関係を機会があったら話し合ってみようと思う。



そして月日は流れて、現在に至り…


「おいしー!」

「えへへ、こぼさずに食べてえらいねー!」


「なぎささん、こっちは終わりました。そっちはあとどれくらいで完成しそうですか。」

「んー、あと3分くらいかしら?その間に他のをもう並べちゃってちょうだい。」


まりんはかもめのご飯の面倒を見ており、かもめはお箸やスプーンを器用に使って一生懸命ご飯を口に運んでいた。

僕となぎささんは先にかもめ用のごはんを作って、今は僕たち用のごはんを作っていた。今日はかもめのお父さんは帰りが遅いらしく、僕たち3人の分を食卓に並べて、僕たち3人は席に着いた。


「それでねー、かもめったら私の化粧品を勝手に使っちゃってねぇー。」

「あはは!かもめもやんちゃだなー!」

「パパ!はい、あーん!」

「わあぁー!かもめありがとぉー!かもめは優しいなぁ!あむっ。」

「えへへぇ~。」

「あ!かもめずるい!わたしもー!はい、あーん!」

「うえぇ!?だ、大丈夫だよ一人で食べれるから!」

「…私のあーんは食べられないって言うの……?」

「わぁー!食べます!食べるから箸をそんな持ち方しないで!」

「うふふ。」


食卓では今日も和気あいあいと食事をしていた。


中学の頃こそ色々大変ではあったものの、現在はかなり落ち着いてある程度の余裕は生まれていた。

娘は4月生まれの3歳で、来年からは幼稚園に通うことになり、現在は僕たちが昼間学校にいる間はなぎささんが面倒を見てくれていた。


娘はすごく賢くて、元々夜泣きも少なかったし1歳になるころには僕たちのことを『パパ!ママ!』と呼んでくれていて、今では完全に僕は娘に絆されてしまっていた。ひらがなもしっかりと読み書きすることができるようになっていてしかも簡単な漢字であれば書くことは出来なくてもスラスラと読んでしまう。娘は本当に賢いんだよこれが!


まぁそんなこんなで、子育ては特に問題なくできており、僕は心の底から安堵している。

僕も週3回はバイトをしているがそれ以外の時はこうして手助けしているし、まりんも料理だけは少し苦手ではあるがそれ以外については文句なしにこなしてしまうため、彼女が完璧少女であるということを改めて実感させられた。


こうして今後もこんな感じで月日を過ごして、僕たちは生きていくのだろう。

その後は……そのあとは?そういえばあまり考えたことがなかった。

僕自身は高校を出て働くつもりだ。親は子供の面倒は見るから大学に行けと言われている。確かに僕はまりんほどではないがテストではいつも上位にいるし、いまから受験勉強を行っていけばそれなりの大学は行けるかもしれない。でも、流石にそこまで迷惑はかけられないし、早く職についてかもめが困るようなことを早くなくしてあげたい。だから本人たちは僕が大学に行くと思っているが、僕は今度しっかりと就職するつもりだとはっきり言おうと思う。


あとは…高校を出れば僕も結婚ができる年になる。だからこのままいけばすぐにでも籍を入れることになるであろう。暗黙の了解として、僕たちは将来結婚することを決められていると思う。別に僕が結婚したくないと言えば、もしかしたら別に結婚しなくても良いことになるかもしれない。でも、ここで断ってしまえば、まりんを路頭に迷わせる結果になるかもしれないし、第一ここまで支援をしてくれたまりんの両親に恩を仇で返すことになってしまう。別に僕が結婚したくないと言っているわけでは無い。僕は、まりんのことを…実はまだどう思っているのか分からない。結局成り上がりでこんな関係になってしまった。じっくりと進むべきだった手順をすっ飛ばしてまでここまで来てしまった。考える余裕すらなかったのだ。

でも、僕はまりんと一緒にいられるのも悪くないと思っているし、結婚することも別に良いと思っている。思っているのだが…

どうしても僕はまりんについてよくわからないことが多すぎる。

まりんはどうして僕がすきなのか。どうしてあの時あんな行為に及んだのか。どうしてまりんは子供を産みたいと思ったのか。そして、学校生活を犠牲にしてまで子育てに励んで、高校生らしいこともあまりやれなかったまりんは、果たして今本当に幸せなのか。そして…まりんは、一体どういう意思を持っているのか。

分からないことだらけなまりんのこと。4年間一緒にすごしてきて、まだまだ分からないことだらけだ。でも、実は何回も聞こうと思ったときがある。でも、僕はあの日の、狂気の表情をした彼女のあの表情が怖くて、聞くことができなくなってしまった。普段の彼女は、果たして本当の彼女なのかわからなくなってしまった。


願わくば、心の底からまりんと分かりあえて、このまま何事もなく幸せに過ごしていけたらと僕は思っている。







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