第26話 考えごと


「掃除、しなきゃ」


 天井を見上げると机に置いた蝋燭の明かりを反射させ白く輝いていた。木材と煉瓦での建築がメジャーなこの世界に蓄光ちっこうの壁紙など存在しない。ならばなぜ、ユイの部屋の天井が光り輝いているのかというと張り巡らされた蜘蛛の巣が存在しているからだ。絹の糸を重ね合わせるように作られた巣の真ん中には小さな駒サイズの母蜘蛛がどっしりと構えて、その周りをちらちらと囲む黒胡麻サイズの子蜘蛛達。巣も人数に見合った大きさの豪邸で、子育ても巣作りも母蜘蛛は頑張ったんだな……とひと事のように思った。


(明日、起きてすぐ部屋の掃除しないと)


 凄いとは思うし、この一家の持ち家を壊すのは少し申し訳ないが蜘蛛と相部屋なんてごめん被る。この部屋の新しい主人は自分なのだから蜘蛛一家には速やかに退去願おう。


(やることいっぱいあるな……)


 まずはこの部屋の掃除だ。埃っぽいシーツを洗い、干した後の時間で集めた魔核を売りにいく。メイアの見立てでは二千ベニーにはなるということだ。娼婦として働くよりも魔物退治の方が効率よく金を稼ぐことができそうだがメイアから「一人で草原行くことがあれば絶交するから」と冷たく宣言されてしまったため諦める。せっかくできた友達を失うなんてことはしたくない。それに、時間があれば手伝ってくれるとも言っていたのでその時、集中して魔物退治にいそしもう。


(無限ループはしたくないけど、みんなに会うためだもの)


 今日のような地獄の無限ループは二度とやりたくはない。

 が、目標金額として設定した十万ベニーを集めるためには我慢も必要だ。逸れた四人は恐らくだがこの街にはいないため、探すには膨大な費用と時間がかかる。一刻でも早くお金を稼がないと。

 そのためには魔核を多く集めることができる無限ループが一番効率がいい。

 なぜか戦闘に対してはスパルタ指導をするメイアにも慈悲の心はあるらしく、ユイが本当に無理だと感じた場面では幾度となく手を貸してくれた。だから、どんなに場面でも命の危険を感じることはなかった。


(おかげでレベルもたくさん上がった)


 枕裏に隠した魔導書に手を伸ばし、ページを捲る。そこに書かれた文字を見てユイは頬を綻ばせた。




『基本ステータス

 レベル:26

 体力:31

 魔力:213

 攻撃力:27

 防御力:28

 知力:33

 運:39』




 メイア監督の地獄の無限ループのおかけで大幅にレベルが飛躍した。まさかたったの半日でレベルが3から26にまで上がっているとは思わなかった。この数値が平均かどうかは比較するものがないので分からないが最初の一桁よりかはマシになったと思う。

 またそれに伴い、スキルが三つも増えたのは僥倖だ。




『スキル:

【戦う者〈C〉】

 習得方法:魔物討伐総数五十体以上

 必要レベル:20

 必要魔力:–

 効果:全魔物への通常攻撃が1.5倍になる。


【インセクトハンター〈C〉】

 習得方法:蟲型魔物の討伐総数三十体以上

 必要レベル:10

 使用魔力:–

 効果:蟲型魔物を討伐した際の経験値が通常の1.2倍になる。


【魔力感知〈C〉】

 習得方法:戦闘時、敵の位置を捕捉する。

 必要レベル:10

 使用魔力:–

 効果:高濃度の魔素の感知が可能になる』




 ……使えるかどうかはさておき。


「もう少しの我慢」


 閉じた魔導書を胸に抱えたまま寝返りを打つ。

 まだ、この世界の常識の半分も理解はしておらず不安な部分もあるが着実に目標までの一歩を進んでいる。


「もう少ししたら、みんなに会える……」


 大きく欠伸あくびを噛みしめた。アリスの治療のおかげで疲れも痛みもないが精神的な疲労は蓄積されていく。眠たくて仕方がない。


「……みんな、無事だといいな」


 自分のように優しい人が手を差し伸べてくれていればいい。怪我もなく、健康でいてくれればいいな。そう願いながらユイは眠りの沼へと落ちていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る