第14話 ビートランドのミュージシャンのレベルの高さに

 ★『BEAT-LAND Live alive』


 斉藤健吾(ゲスト枠出演 Bad Creaturesパフォーマー)



 ビートランドのミュージシャンのレベルの高さに度胆を抜かれっ放しの俺達。

 朝から緊張してたせいか、Deep Redの後の映像で少し眠気が来てた所に…


「次が最後だよな。」


「サインもらいに来てくれた人達、最後って言ってたけど…どんなバンドだろ。」


「Deep Redって大御所の後なんてさ…やりにくいだろうな。」


 みんなで口々にそんな事を言ってたが…


「えっ…」


 そのオープニングで…全身の毛穴が開いたし…

 目も覚めた。



「えっ…えっ?」


「あれ…さっきの女の人…?」


「色紙持ってたのはベースじゃね?」


「はっ…?ボーカルは…赤毛の人?」


 全然違う!!

 黒髪はウィッグだとしても…

 顔付が!!

 ふわっとしてた印象なのに…何だ!?

 この、獲物を狩るような目!!


「や…やべー…超かっけぇ…」


 真吾が真っ先にステージ前に走った。



 たぶん…メンバー六人の中で、俺が一番音楽好きだと思う。

 このバンドの存在は知らなかったけど、相当レベルが高いのは…分かる。


 ボーカルが圧巻過ぎて、他に耳が行きにくいけど…ギターの二人、恐ろしくピッタリだな。

 それに、ステージングもカッコいい…て言うか、見た目がイケてる。

 おっさんなのに、…かっけぇな…


 それに、ドラムも…すげー迫力だ。

 腹にくるようなバスドラ…この人、Deep Redでも叩いてたよな。


 あー…何で今日出演者全員のプロフィールとか配られないんだ?

 写真撮影も一切禁止だし…

 このステージ…すげー切り取りたい…!!



「俺達…ずっと自分達が一番だって思いながらやって来たけどさ…上には上がいるって自覚持ってもいいよな…」


 もちろんジャンルは違うけど…同じ音楽をしてる身として、強く思う。

 一瞬で、こんなに鳥肌を立たせる事の出来るミュージシャンって…そんなにいない。


 社長には、常に自分達がトップだって自信を持って、上から見下ろすつもりでいろって言われ続けて来たけど…

 それには限界が来てる事にも気付いてた。

 考えを改めないと、俺達は時代に取り残されるだけだ。


『こんばんは!!SHE'S-HE'Sです!!』


 そう言って、ボーカルの人は笑顔になった。

 ああ…さっきのふわっとした人だ…って思って、俺も笑顔になった。


 …ん?


「…今…SHE'S-HE'Sって言った…か?」


 誰にともなく問いかける。


「ああ…そんな名前に聞こえたけど…知ってんのか?」


「SHE'S-HE'Sって…世界に出てるバンドじゃん!!」


「えっ!?」


「しかもメディアに一切登場しないんだよ!!顔も出してない!!」


「……」


 俺達…とんでもないイベントに呼んでもらえてるんだ…って、改めて感じた。

 もう…こうなりゃ…


「前行って盛り上げようぜ!!」


「おう!!」


 先に前に出てた真吾の隣に行って、みんなで跳んだ。


 なんだよ…

 自分達のステージより楽しいなんて…



 …ビートランド、サイコー!!






 ★『BEAT-LAND Live alive』


 東 瞳



 知花ちゃんのアカペラが始まって…

 その透明感のある声に…あたしはしばらく客席で聴き入った。

 それは隣にいるさくらさんも同じようで…


「…素敵…」


 小さくつぶやいてる。


 …うん。

 知花ちゃん…すごく集中してるのが分かる。

 リハもすごかったのに、その時より…断然いい。



 会場中がそれに聴き惚れていると、一斉に音が入って…知花ちゃんがシャウトした。

 それと同時に幕が落ちて…


 …鳥肌、これで何度目だろ。


 SHE'S-HE'Sは本当にすごい。

 今まででも十分評価されてたのに、里中さんのスパルタで…さらに進化して…

 …新しいアルバムが、楽しみで仕方ない。



 あたしは夫である圭司がギタリストだからか、どのバンドもついギタリストを注目してしまう。

 陸君と早乙女君…この二人のツインリードって、ちょっと他で見た事ないぐらいのレベル。

 ステージングもそれぞれ違うんだけど…カッコいいんだよね。


 圭司はやたらと跳ねたがるんだけど、陸君は自分がどういう角度で弾いたらカッコ良く映るか分かってるんじゃない?ってぐらい…

 とにかく、弾く『角度』が…いいのよ。


 早乙女君は立ってるだけで雰囲気があるというお得な人で。

 それでも少し腰を落としただけで、なぜか胸がキュンとするという…

 あの長髪を縦に揺らしてる姿なんて…よだれもの。


 …圭司、ごめん。

 これは恋とかそういうのじゃないから。

 アイドルに憧れる気持ちに似てるやつ。


 この、タイプの違うギタリスト二人が醸し出すソロがまた…

 ほら…この曲のソロなんて…


「瞳ちゃん、そろそろ出番かも。」


 ギターソロに釘付けになってると、さくらさんがあたしの腕を引いた。


 あ。

 そうだよ。

 あたし…このすごいバンドに…参加させてもらうんだ。


「…行こっか。」


 あたしは立ち上がると、さくらさんと共に千里が用意してくれてたステージの端の階段に向かった。



 それまでステージの中央にあった視線が、少しだけ…あたし達に向いた。

 知花ちゃんが左手であたし達を迎えてくれるポーズを取ると、客席からは驚きの声が上がった。


 さあ…

 思い切り歌うわよ!!


 少し長めのギターソロが終わった所で、サビの繰り返しに入る。

 あたしとさくらさんは、アイコンタクトを取って…バックボーカルのパートに入った。


 …ああ…

 自分で歌って鳥肌なんて…初めてかも。


 まこちゃんのストリングスは優しい音色のはずなのに、なんでこんなにハードな曲を盛り上げるんだろ。

 朝霧君が刻む16分のハイハット…軽快だなあ…

 聖子は今までシンプルなベースライン専門だったけど、臼井さんに弟子入りしてからは…かなり。

 かなーり…激しいベースを弾くようになった。

 里中さんに絞られる前から、変わろうと意識してたのは聖子が一番かもしれない。


 ステージ袖に圭司の驚いた顔が見えた。

 …ごめんね、内緒にしてて。



 知花ちゃんが圧巻のハイトーンで真っ直ぐに歌って。

 あたしは…その上を行く。

 客席は少し呆気にとられてるようにも見えたけど…


 どうよ。

 あたし達…姉妹のハイトーン…最強でしょ。


 サビを歌うあたし達に被せるように、さくらさんがをイントロのメロディに歌詞を乗せて歌う。

 あー…いきなり一曲目から、こんな壮大な曲やるなんて…

 超…

 超…超…


 気持ちいい。




 ★『BEAT-LAND Live alive』


 東 圭司



「……」


 俺は、ポカーンと口を開けてステージを観ちゃったよ…


 だってさ…

 SHE'S-HE'Sのステージに…瞳が。

 まるで遊びに来ちゃったーみたいな感じで、知花ちゃんのお母さんと出て来て…

 …歌い始めた!!


 なんでー!?


 一緒にステージ袖にいる神を振り返ると。


「サプライズだ。」


 腕組みをして言われた。


 サプライズ?


「…俺に?」


 俺、誕生日じゃないよ?


「みんなに。」


「…みんな知らなかったんだ?」


「朝霧さんと俺とナオトさんしか知らない。」


「…高原さんは?」


「言ってない。」


「……」


「驚いたか?」


 …瞳と…知花ちゃんのお母さんが…

 あの、『あの』SHE'S-HE'Sのステージで歌ってるんだよ…?

 驚くに決まってるじゃん!!


 だって、瞳…

 お義母さんのトリビュートアルバムで歌った後は、もうやり切ったみたいな顔してさ…

 やっぱもう歌わないのかなあ…なんて、残念に思ってたのにー!!


「ねえ、知ってた?知ってた?」


 俺、ちょっとこの驚きを共有したくて…

 周りにいるスタッフに問いかける。


「い…いえ…知りませんでした…瞳さん、すごいですね…知花さんの上歌ってる…」


 スタッフもまん丸い目をしてステージを見てる。


「だから、みんな知らないって言ってんだろ。」


 神は腕組みしたまま俺の身体をドンって押した。


「……」


 俺と同じで、知らされてない身内の高原さんに会いたくなった。

 映はクールだから、驚きを共有するには高原さんだ!!


「…高原さん、どこにいるのかな。」


 俺みたいに、口開けてるかな。

 だって、きっとビックリだよ。

 瞳の隣には…

 知花ちゃんのお母さんがいるんだよ!?


 いつの間にか、瞳と仲良くなってたさくらさん。

 もしかして、こういう経緯があったから仲良くなったの!?

 知らなかったー!!



 それにしても…

 里中さんがSHE'S-HE'Sのプロデューサーになって、スタジオでスパルタしてたのを噂に聞いたけど…

 そのおかげ?

 ただでさえ上手かったのに…

 陸君と早乙女君、また上手くなってるじゃーん!!

 俺なんて、もう足元にも…


「アズ。」


 急に神が俺の身体にピッタリ寄り添うようにして言った。


「…高原さん、どこかで観てるよな…?」


「…どしたの…神…」


 神…涙ぐんでる…


「こいつら…すげーよな…」


「う…うん…神…どした?」


「…高原さんに、観てて欲しいんだよ…」


「……」


 神をこんな風にしちゃうとか…

 いったい何があったんだろう?

 俺、とりあえずさっきまで高原さんがいた控室に走ってみる。

 SHE'S-HE'Sのステージも気になったけど…

 きっとDVD化されるよね!?って、勝手に決めつけて…高原さんを探しに行った。


「…あれっ。」


 控室はもぬけの殻。

 モニターだけが賑やかについてて…

 俺は入口に立って、部屋の中をキョロキョロしてみた。


 …会長室かな?


 急いでエレベーターに乗って最上階に行ってみる。


「高原さー…あれっ。」


 ドア、鍵がかかってる。


「……」


 もしかして、モニタールームかゲストルーム?

 俺、また急いでエレベーターでホールに降りると、モニタールームとゲストルームにも行ってみた。

 でもそこには、小さな子供ちゃんを連れた人達がいたり…

 ゲスト枠で出てるアイドルの事務所の人達がいたり…


 …高原さん?

 どこ行ったんだよー!!





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る