第2話 真の目的は

 ブリッジに入る。

 メンバーは全て配置についていた。


 今回の調査に関して、俺は疑問を持っていた。

 私的な理由でビューティーファイブを出動させるのではないかと。


 事の発端は、美沙希の娘がある難病にかかっていたからだ。

 美沙希の娘、真由まゆ。生まれたばかりの彼女は宇宙放射線病だった。原因不明の宇宙病で、余命はあと半年と宣告された。

 その病気を治す唯一の方法が存在していた。

 エンケラドゥスに生息する希少な生物が持つ希少な結晶、エンケラドゥス・サファイア。この結晶が持つ固有振動を利用した治療法なのだという。


 その、エンケラドゥス・サファイアを入手する為、ビューティーファイブの出動が決まった。

 三谷司令は即決した。

 公私混同になるのではないか。そう渋っていた俺に喝を入れたのは香織だった。


「人命救助に公私混同などありえません。助けを求めている人がいれば即行動する、それが私達ビューティーファイブです」

「それにな。今回の調査が成功すれば、同じ病気に苦しむ多くの人を救う事ができる。迷う必要はない」


 三谷司令も後押しをした。


 確かにそうだろう。

 自分のこの切ない恋心を消すことができれば割り切れるはずだ。


 土星の衛星エンケラドゥス。

 土星の環の最外E環内を周回している衛星だ。21世紀には間欠泉のような現象が確認された。現在では、土星のE環は全てエンケラドゥス由来であることが分かっている。

 エンケラドゥスの表層は氷に覆われ、その氷の下に広大な海洋が広がっている。そこに生命が存在するのではないかと期待されていたのだが、今世紀に入ってからの調査でそれが証明された。地球で言えば古生代に属する生物が多数発見されている。自分たちが求めるものはエンケラドゥス・サファイア。それは水中をジェット噴射で移動する巨大な二枚貝、エンケラドゥス・アコヤの体内で作られる物質だ。今回は、この氷床下の生態系の再調査、そしてエンケラドゥス・アコヤの生体サンプルを持ち帰ることが期待されている。従来の宇宙船では、この生物を捕獲しても地球へ戻るまでの時間がかかりすぎてしまい、サンプルを死なせてしまっていた。しかし、ビューティーファイブの使用するレスキュー船〝スーパーコメット〟であれば光速を超えられる。つまり、生体サンプルの輸送に最も適している宇宙船なのだ。


 香織がこちらを向き目配せをする。そろそろ発進時間である。

 モニター上の三谷司令が号令をかける。


「スパーコメット号発進。ビューティーファイブ、アーゴーAre Go


 スパーコメットはゆっくりと動き始めた。


 行先は土星の衛星、エンケラドゥスである。

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