第10話 再び発進☆ビューティーファイブ!

 ここは宇宙ステーション大鳳内のブリーフィングルーム。太陽系開発機構が救助信号をキャッチし、ビューティーファイブに出動命令が発せられた。

 しかし、そこに集まっている全員が厳しい表情をしている。それは、救助信号が発せられた場所に問題があった。近年宇宙のサルガッソーと噂され、宇宙船の遭難事故が多発している場所。すなわちケレス特異点だったからだ。


「今回の任務、私とララの二人で向かいます。他のメンバーは待機させてください」


 神妙な面持ちで進言する田中義一郎。しかし、他のメンバー四人はそれに対して猛烈に抗議した。


「確かに危険な宙域であることは理解しております。しかも謎が多く、対処法は近寄らない事だと言われていることも承知しております。しかし、私たちが行かねば誰が行くのでしょうか」

「危険は承知の上だ」

「その謎を解けば危険を除去できます。今後の宙域の安全確保のためにも出動させてください」


 副長の相生香織、航海士の綾川知子、機関士の有原羽里が相次いで発言する。一人残された操舵士の黒田星子はきょろきょろと辺りを見回し、一呼吸遅れて発言した。


「私はララちゃんと一緒ならどこにでも行きます」


 何故か一人だけ論点が違うのだが、それも平常通りである。

 三谷総司令が義一郎へ向かって話し始める。


「田中隊長。貴方が心配されていることは重々承知している。しかし、ビューティーファイブメンバーの言う通りなのだ。彼女たちが最適なレスキューチームであることに変わりはない。そして、今回は特別に機構軍の巡洋艦を派遣することが決まったのだ」

「話は聞いております。だからこそ彼女たちを連れていけないのです。戦場になるかもしれない」

「仮ニ戦場トナッタ場合デモ、我々ガ最強ダ。ソノ理由ハ」

「光速突破のビューティーファイブだからです!」


 アンドロイドのララと黒子が宣言した。黒子もたまにはいい事を言う。香織は頷きつつそれを肯定する。


「たとえ戦闘となったとしても、私たちが常に主導権を握ることができます。派遣される巡洋艦が足手まといにならぬよう、釘を刺しておいてくださいね。総司令」

「ごもっともな意見だ。巡洋艦M・ラミアスの風庭かぜのにわ艦長にはそう進言しておこう。では諸君。早速発進してくれ。M・ラミアスは5時間後に合流できる予定だ」

「遅イナ」


 三谷の説明にララがボソリと呟く。三谷はもじゃもじゃの頭を掻きながら弁明する。


「ララちゃん。最も近い位置にいる艦艇を最優先で派遣しているんだ。君達のスーパーコメットと違って光速は越えられないんだよ」

「ワカッテイルサ」


 プイっと横を向きカプセルに入るララ。そして、メンバー全員がそれぞれのカプセルへと入る。そのカプセルは特殊な力場で乗員をスーパーコメットへと転送する。そして、カプセル内では平時の制服から宇宙用のスーツへと装備転換されるのだが、その様子は公開されていない。

 あのような狭い場所で、どうやって着替えるのか。それはビューティーファイブの謎として有名である。


「光り輝いて全裸になってそれから不思議な魔法みたいな感じで宇宙用スーツが装着されるのだ。全裸だが見えない。それがお約束だ」


 ビューティーファイブファンクラブの公式回答がこれである。全然、謎を解明していない。機構からはもちろんノーコメントだ。

 カプセルはブリッジ内に転送され、宇宙用スーツに装備を換装したメンバー全員が所定の席へと着いた。円筒形のカプセルはブリッジ内で消失している。

 宇宙用スーツの色は義一郎が赤、香織が青、知子がライムグリーン、羽里が黄色、黒子がピンク、ララがオレンジとなっている。

 ブリッジ正面にメインモニター。そのすぐ後ろ、左側に操舵士の黒田星子。右側がララ。黒子の後ろが機関士兼レーダ技師の有原波里。ララの後ろに航海士の綾川知子。波里と知子のやや後ろ中央に副長の相生香織。そして香織の後ろに隊長の田中義一郎。ブリッジ内の配置はこのようになっている。


「隊長。発進準備完了しました」


 香織の進言に義一郎は頷く。


「ケレス特異点へ向け発進する。ビューティーファイブ。アーゴー」

「進路クリア。障害物はありません」


 羽里の報告に義一郎が頷く。


「機関出力2パーセント、微速前進」

「機関出力2パーセント」

「微速前進」


 義一郎の指示に羽里と黒子が復唱する。

 スーパーコメットが動き始める。宇宙ステーション大鳳の格納庫内をゆっくりと進んでいく。


『ゲートオープン』


 管制からの報告に義一郎が頷く。

 正面のゲートが解放され、スーパーコメットは速度を上げた。外の宇宙空間が視界に入ってくる。


『進路クリア。ビューティーファイブ優先航路に他の船舶や衛星は確認できません』

「了解」


 管制の報告に義一郎が頷く。そして一言漏らす。


「これは他の宇宙船が航路を譲ってくれてるんだ」

「私たち、救急車みたいね」


 黒子の一言に失笑する香織と知子。


「僅カナ航路変更デモ莫大ナエネルギーヲ消費スル。航路ヲ譲ッテ下サッタ方々ニ感謝スルノヲ忘レルナ」


 アンドロイドのララに突っ込まれる黒子。


「ううう。分かってるのに……」


 何時ものように頬を膨らませる黒子だった。


「ワープ準備」

「了解」

「航路算定ハ終了シテイルゾ」


 義一郎は笑いながら頷いている。


「対Gフィールドを展開。一気に加速しろ」

「了解」


 香織の操作でブリッジ内は薄いピンク色の力場に覆われる。


「機関出力100パーセント」

「機関出力100パーセント」


 義一郎の指示に羽里が復唱する。

 凄まじい加速度でスーパーコメットは宇宙を進む。マッコウクジラに似たシルエットの船体は虹色に輝いていた。


「ワープ開始」

「ワープ開始します」


 義一郎の合図を知子が復唱する。その瞬間、スーパーコメットは虹色の光に包まれて四次元空間へと突入する。そしてすぐに通常空間へと回帰した。


「ワープアウトしました」


 知子の報告に頷く義一郎。そして羽里に指示を出す。


「羽里。周囲の状況を把握しろ。この宙域はデブリが極端に多い」

「了解。捜索開始、デブリ情報は黒子へと転送します」


 小天体やデブリ捜索を開始する羽里。そしてそのデータを受け取った黒子が張り切って返事をした。


「待ってました。いくぞお~」


 黒子は空間認識能力に優れている。それは、目的地までの最適な航路を直感的に把握できる能力である。黒子の操作で航路を微調整するスーパーコメットは、その船首をケレス特異点へと向けた。

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