第2話 ビューティーファイブ出動

 ここは宇宙ステーション大鳳。位置は月の外側、ラグランジュポイントL2に位置している。月と一緒に地球を公転している関係上、ここから地球を望むことはできない。


 その大鳳にあるカフェで二人の少女が寛いでいた。


 テーブルの上には空になったグラスが二つ。その中にはストローと細長いスプーンが寂しげに並んでいた。


 窓から見える月を眺めながら、一人の少女が呟く。


「リーダー早く復帰してくれないかなー」

「無理だろ。今は産休取ってるけど育休も取るって話だ」

「寂しいよね」

「寂しいっていうよりは暇だろ。どうして四人で出動させてくれないんだろうな?」

「そうだよね。四人でも問題なく任務こなせると思うんだけどね」


 そこへ颯爽と登場したのはビューティーファイブ副隊長の相生香織だった。中肉中背の見事なプロポーション。青いミニスカートから覗くスラリとした長い脚は、女性からも羨望の的であろう。


「黒田星子と綾川知子。緊急事態発生だ。招集がかかっている。ブリーフィングルームへ集合しろ」

「了解」

「やったー。出動だぁー」


 落ち着いて返事をする知子だが、黒子の方は両手を上げてはしゃいでいた。飛び跳ねるたびにその豊かな胸が揺れる。


「浮かれるな、黒子くろこ。今度の行先は遠いぞ」

「何処なの」

「カロンだ」

「カロンって何? マカロンの仲間かな。美味しい?」

「はあ」


 とぼけている黒子に香織はため息をつく。

 黒子は常にこんな調子なのだ。いわゆる天然であり、故意にふざけているわけではない事は香織も承知している。


「馬鹿だな黒子。カロンは冥王星の衛星じゃないか」


 突っ込みを入れたのは知子だった。

 天然の黒子に突っ込むのが彼女の大事な役目になっている。長身でスマートだが、やや筋肉質で胸元は寂しい。黒子とは対照的な体形をしている。


「そうだっけ。じゃあ遠いんだね」

「約四十天文単位だ。光速で飛んでも五時間半かかる。馬鹿みたいに遠い」

「うひゃあ~。凄く遠いね」

「無駄口を叩くな。急げ」


 三人は速足で通路を移動していく。


 ブリーフィングルームにはレスキュー部隊総司令の三谷朱人みたにあけひとが腕を組み、しかめっ面をして立ちすくんでいた。既に着席していたのはもう一人のメンバー有原羽里ありはらはりと、メンバーではない男性が一人だった。


「揃ったな。冥王星基地より次元共鳴通信機にて救助要請が送られてきた。知っての通り、この通信方式では通信のタイムラグが発生しない。事故の発生場所は、冥王星の衛星カロンだ。そこに設置されている有人観測所で事故が発生した。要救助者は二名。冥王星基地から救助船は出発しているが、到着まで六時間かかる見込みだ。観測所に残された酸素は三時間分しかない。ビューティーファイブ出動。光速を越え彼らを救うのだ!」


 虚空を指さしその方向そちらを見つめる三谷司令だったが、香織は額に手を当てて俯いた。冥王星はそっちじゃないと言いたかったようだ。


「指令、私たちは四人ですが出動させてもらえるのでしょうか?」


 メガネをかけている羽里が挙手をして質問する。三谷は腰に腕を当てにやりと笑った。


「そこにいる田中義一郎たなかぎいちろう飛行士が新しい隊長だ。彼に従え」


 四人の少女が一斉に義一郎を見つめる。

 筋肉質で厳つい体形をしている。短く刈り込んだ頭髪と併せ、格闘家のような雰囲気を漂わせていた。


「田中義一郎です。保安課で艇長をしておりました。これからよろしくお願いします」


 頬を赤らめた義一郎恥ずかしそうに一礼した。


「この方は私とリーダーの先輩だ。見た目はともかく中身は優秀だから安心しろ」


 香織が捕捉する。


「見た目は悪くないというか、結構イケメンさんだと思います。筋肉ムキムキなところは素敵かも」

「どうして男性なんですか?」


 黒子と知子が相次いで発言した。

 香織がそれに答える。


「この度の人事は能力主義で決定した。見た目と性別は考慮していない」

「なるほど。機構の宣伝よりも実務を優先するという話なのですね」


 右手でメガネをつまみながら羽里が発言する。


「そういう事だ。君たちの活躍に期待する。スーパーコメットの発進準備は終了しているぞ」

「了解!」


 三谷総司令の言葉にその場にいた全員が敬礼した。そして、壁に仕込まれた筒型のカプセルへと入る。五つのカプセルは特殊な力場で高速移動し、スーパーコメットのブリッジへと乗員を運ぶのだ。

 地球で唯一、光速を超える能力があるスーパーコメット号。五人の勇者は今、困難な救助作戦へと向かうのであった。

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