匂いと味がわからない

 ちょうど一週間前から引き始めた風邪は治りつつある。

 ただ、匂いと味が微妙にわからない。風邪のときには嗅覚と味覚の異常を引き起こす場合があるらしい。完全に感覚が消えたわけではない。先ほど試してみたら、缶ピースの匂いを感じなかった。コーラの匂いもわからない。味も同様にだ。だから料理をするとき味を濃く作ってしまう。

 僕は思った。


 これは仮面ライダーOOO(オーズ)ごっこをするべきだと。


 ※ここからは仮面ライダーOOO(オーズ)のネタバレを含みます。


 オーズ世界にはグリードと呼ばれる者がいる。グリードは欲望の塊だ。身体は全てメダルで出来ている。そのため五感に異常がある。グリードの見る景色は灰色に近く、正確な色を知ることができない。視覚と聴覚だけは不完全ながらも備わっているのだ。

 だが、味覚に関しては完全に無いような描写をしている。

 グリードは基本的には敵だ。敵だけど一人だけオーズの味方をしている奴がいる。彼の名はアンク。アンクは人間の身体を借りることで感覚を手に入れた。彼の好物はアイスだ。アイスはとても冷たい。感覚を得たということを実感しやすいのかもしれない。

 アンクは人間世界に馴染み、段々と人間らしくなっていく。

 一方、主人公オーズ・火野映司はある出来事をきっかけにグリードになってしまう。火野映司は人間としての感覚が薄れていく自身の変化に恐怖する。初めに狂ったのは味覚だった。味のないガムを噛んでいるような気分だと言う。

 熱い物を食べて「まだ熱いのはわかる」と残る感覚を噛み締めている。


 嗅覚と味覚に異常が出たのを良いことに、僕は火野映司になりきって食事することにした。

 熱々のパスタを作る。それを熱いまま口に運ぶ。熱い。舌がヒリヒリと痛い。「うん、まだ熱さと痛みはわかる」と呟く。味がよくわからないパスタをそのまま勢いで口に運び、咀嚼していく。ただそれだけの遊びだ。こうでもしなければ味覚と嗅覚が薄れた状態の食事など何も楽しくはない。

 食後はキンキンに冷やしたコーラを一気に飲む。冷たさと炭酸が心地良い。これだ! これこそがアンクがアイスを欲した理由なのかもしれない。温度と刺激によって自らに感覚が備わっていることを実感できる。これが生きているということだ。僕は放送当時にはよくわからなかった彼らの気持ちを理解した気がした。


楽しかった。

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