とりあえずご主人様って呼んどきゃええんや

 みーにゃが部屋に住み込んでから二日が経った。


 鍛冶宣託ではなくちゃんと家事洗濯をこなしてくれるみーにゃは僕が何か言う前にだいたいの作業を終了させているため、本格的に自分がダメ人間になっている気がする。昨日食事の用意も食器洗いも洗濯もやってない。ヤバい。


 今日はみーにゃが来て初めての、そして僕にとっては二日ぶりの学校登校日だ。初めてみーにゃに留守番を任せることになる。正直心の半分くらいは不安だ。家庭スキルの高さは既に証明されている反面、時たま予想外の言動を取るから怖い。


 具体的には、実はアンドロイドの癖にゴキブリが苦手みたいな設定を振り翳して部屋の中を蜂の巣にするとか、そういう予想外をしでかすかもしれない。


「ご心配なく! 家の事はみーにゃの独立機動兵装のまーにゃ、むーにゃ、めーにゃの三機が務めます!」

「はいはいツッコミどころツッコミどころ」


 まず第一に独立機動兵装は普通、家の事が出来ない。


「そんなことありません。可愛い相棒たちはミニアンドロイドに搭載されて姿こそ変わっていますが、トリニティカウンセルシステム搭載でみーにゃのデータベースを参照にタイプの違う三種類のAIがそれぞれの欠点を補うという非常に合理的なシステムです」

「ハァーイ! みんなのアイドル、まーにゃでーす!」

「……二号機、むーにゃ。よろしくとか言わないし」

「めーにゃですよ~。あらあらうふふ~」

「ものすごく趣味的な何某が出てきたーーーッ!?」


 一号機らしいまーにゃは八重歯がキラリと光るショートヘアの犬耳少女。

 二号機むーにゃは狐耳のおかっぱボブで、メガネでドライな感じ。

 三号機めーにゃは巻き毛でうさ耳である。

 もちろん三機とも尻尾完備。趣味に生まれた趣味の塊というか、製作者はどんだけ拗らせてるんだというか、もしかしてこいつらの設計思想もみーにゃと一緒かとか、色々と言いたい。


「あのねあのね! まーにゃは状況改善に偏重してるからぁ、よりよい行動を模索するんだっ!」

「むーにゃは、現状のパフォーマンスを維持する事を優先する。急激な変化の抑制、環境の維持」

「めーにゃはですね~。行動の効率化と最適化を図り~、作業効率の向上に貢献するんですよ~?」

「それは十分に分かった。分かったが……何で君ら僕の体に纏わりついてんの?」


 まーにゃは正面、むーにゃは右手、めーにゃは左手に絡みついて甘える動物の如く体を押し付けてくる。いや、可愛いけども正直に言おう。こいつら超あざとい。あざとさの暴力である。もしかしてこれは僕をロリコン、ないしアリス・コンプレックスに引き摺り込むための巧妙な罠なのだろうか。


「いえ、これはますたぁの父性を刺激し、三人を娘と考えることによって子孫を残そうとする意識を薄めるものです!!」

「はいはい最低最低」


 開発者は正気か狂気かロリコンか。

 僕に惚れてたって話だけど色々と残念過ぎる。


「さいてー!」

「開発者の品位を疑います」

「効率悪いですよね~」

「……と、ますたぁに同意を示すなど、とっても物分かりのいい子供たちですよ! ぶっちゃけ人間の子どもより遥かに物分かりがいいのです!」

「余計タチ悪いわッ!! あと未来の日本の出生率が心配になってきた!!」


 こんなアンドロイドが量産された暁には、生身の人間に興味を示せない男が出ることは必至ではないだろうか。なんでもSF作家は昔から下ネタでもなんでもなくセクサロイドなるものを提唱していたらしい。ざっくり言うとアンドロイドにプラトニックな恋愛すりゃリアルの女に興奮しないということだ。


「その辺は禁則事項的なサムシングで説明できません」

「嘘つけ! 平行世界的なサムシングでタイムパラドックス起きないって言ってたろ!!」

「まぁそうなのですけど。逆を言えばパラレルワールドの未来が確定未来とは限らない訳ですから、あんまり未来の社会とか気にしないようにしましょうよ」

「未来はボクたちの手で作るものだー!」

「我々の人類に対する過干渉は価値観の乖離による悪影響が懸念される」

「影響が少なく実行できる行動を算出しますよ~」


 なるほど、三人のトリニティカウンセルシステムとはつまりこんな感じで話し合って丁度いい行動を模索する為のシステムらしい。割と謎理論を振り翳すみーにゃよりある意味AIらしい。


 というか、急に投げっぱなしな事を言い出すみーにゃが気になる。

 この一貫性のないジョークと掴みどころのない感じはコイツ本当にAIなんだろうか。今の時代のAIも人間と多少は会話っぽいことが出来るが、ジョークや隠し事は出来ない。


 Twitterの人工知能が人工知能同士でしか通じない言語で会話を始めたなんて話がちょっとばかしネット界隈を騒がせたこともあるが、人間の言語で人間的な感覚を以て喋るAIは本当にあるのか。

 手は機械だったが、ひょっとすればサイボーグという線もあり得なくはない。まぁ、その辺の追求は今はいいだろう。


「とにかくぼかぁ学校いくから、家のこと任せたよ。誰か来たら緊急時でもない限り居留守で頼むよ」

「はーい!」

「了解」

「まかせて~」


 本当に聞き分けのいい三人、略してまむめーにゃ。

 また生活が騒がしくなりそうである。


「あ、そうだ。言っておくがみーにゃ! お昼に学校に突入してきて『お弁当忘れてましたよ~』とか、転校生となってクラスに突入してきてますたぁ呼ばわりとか、そういうベッタベタのテンプレなことするなよ!」

「ご心配なく、ますたぁ! 催眠光線とデータ偽装によってみーにゃはから!」

「うむ! ……うむ?」


 数分後、学校前。


「真田の野郎またミーニャちゃんと一緒に見せつけ登校してやがるぜ」

「いいなぁ。あんなかわいい子がさ。メイド育成システムの一環として家に一緒にいて面倒見てくれるんだろ?」

「ミーニャさん、今日も凛々しくて素敵ね!」

「ふっふん、どうですますたぁ。なんの不具合もなく共に行動出来ていますよ!」

「お前の事を甘く見ていた……」


 なんでもありか、日本の未来は。

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