未来の世界の女子型ロボット

空戦型ヰ号機

とりあえず名前の最後にニャってつけときゃええんや

「突然ですが」

「……んん?」


 聞こえる筈のない知らない声に、寝惚け眼を擦って上を見る。


「突然ですが」


 そこに、女子がいた。


「おわぁぁ吃驚したぁぁーーーーーッ!?」

「突然ですが、よろしいでしょうか」

「よろし、え、誰ぇっ!?」

 

 ――この日、僕は一人暮らしのアパートで一人寂しく……はなく、そこそこ充実した学生生活の休日を満喫していた。すなわち、親に起こされることもなく好きなだけ眠っていられる時間である。


 ところが、目が覚めるとグッモーニン不法侵入者。これで吃驚しない方がおかしい。ちなみに美少女である。日本人にあるまじき淡い緑色の髪を揺らす少女は、うやうやしくお辞儀をした。


「初めまして。私は対アリオート人型討伐兵器、みーにゃと申します」

「ハイもうどこから突っ込んだらいいか分かんない話になってきましたよー!! そーかこいつは明晰夢ってヤツだな!!」

「……? ますたぁの脳波は覚醒していますが、現実逃避ですか?」


 不思議そうな顔で小首を傾げられた。

 というかますたぁって何だ。僕は真田吾郎だぞ。


 みーにゃと名乗ったその少女は、そこはかとなく近未来的な感じのする服を身に纏い、無表情ながら極めて整った顔立ちをしている。というか整い過ぎて逆に作り物であるような感覚を覚えた。


 人間、受け入れがたい事が起きると現実を否定しようとするものである。しかし僕はクレバーな男。具体的には中学の学園祭の時にクラスのお調子者たちが立ち上げた演劇企画を「あ、これ絶対ダダスベりするわ」と確信しつつも反対しなかったら案の定ダダスベりするなど、観察眼には自信がある。逆を言うと行動力が全くないが。


「えーと? 人型討伐兵器とか言ってたけど、君はコスプレした泥棒ってことでいいのかな?」

「広義に於いては合致する部分が見受けられます」

「おっとぉ否定しない!? これは想定の斜め上を行くパターンだ!!」


 コスプレした泥棒だったらしい。これは残念ながら警察案件だ。彼女が我が部屋から金目の物を奪っていないか確認したのち、警察に突き出さなければならない。可愛い女の子でも犯罪者は犯罪者だ。

 しかし、朝起きたら美少女が、って何年前の恋愛ものだよ。


「ちなみにどっから侵入してきたんだ!」

「時空間跳躍弾頭に乗って屋根から突入してきました。上をご覧ください」

「オゥアァァァーーーーッ!? 天井を突き破ってメタリックでメカニックな何某がぁぁぁーーーーーッ!!」


 明らかに現代技術では再現することが難しそうなメカニカルな代物が天井を突き破り、その先端が開いて部屋の真ん中までハシゴが降りている。弾頭の癖に中にハシゴあるのかよ。


「ちなみにこの弾頭は外部の人間からは見えないよう歪光ステルスによって隠してあります。その他、一晩で色々調整しましたので建物の強度にも生活にも問題ありません」

「待てやコラ。昨日の夜にはもうこいつは天井突き破ってたのか!?」

「……? いえ、天井を貫く前に先にこの時系列に辿り着き、準備を整えた上でここに堕としましたが?」

「堕とした!? 耳がおかしくなったか今堕としたって言ったぞ!?」

「みーにゃくらいの機能があれば、遠隔操作は容易です」

「不慮の事故でなく確信犯ッ!?」


 器物損壊の現行犯が追加である。

 後は何だ、よく分からんが複数の法律に違反している気がする。


「っていうかそうだ!! そもそも、最初に聞くべきだった!! 僕に何の用があってこの部屋にいんの!? 時空間跳躍弾頭とか言ってたけど!?」

「そこに気付くとは流石ますたぁ、天才か……その通り。みーにゃは未来からやってきたタヌキ型ロボットの同類なのです」

「メッタメタなこと言い出したぞこのポンコツアンドロイド!?」

「ま、ますたぁ……みーにゃをアンドロイドだと認めてくれるのですね!!」

「あっ、そこ!? ここに来て初めて喜びの感情を露にしてると思ったら気にするとこそこなのぉ!?」


 皮肉のつもりで適当に言った事を真に受けられた。というか、嬉しそうに口元に手をやる動作と言い、関節部分といい、人間にしか見えない。顔立ちは確かに作られたかわいらしさという印象はあるのだが。


「おほん。そう、みーにゃはますたぁの未来を変える為にやってきたのです! 未来のますたぁは……!」

「ぼ、僕は……!?」


 勢いに押されて思わず前のめりになる。

 未来の僕に一体何が起きたと言うのだろうか。


「未来のますたぁは、幼馴染のユヅキさんと幸せラブラブカップルになり、娘と息子が出来て順風満帆な社会人ライフを送っているのです!!」

「……、……。……ユヅキとっていうのは若干衝撃的だったけど、それはそれで別にいいんじゃないのか?」


 幼馴染の美原ユヅキとは今の所そういう関係では全くないので名前まで出てきて吃驚したが、聞いた限りでは未来の僕は別に生活に不満を抱いていないように思える。

 未来から来たタヌキ型ロボットは相手をよりよい未来に導こうとするのだが、この場合、まだそれ以上があるというのだろうか。


「よくありません! みーにゃを開発した【発音を禁じます】はますたぁの事が好きだったのに、ユヅキさんに奪われた挙句子供を見せつけられて独身一直線! 復讐心に憑りつかれた【発音を禁じます】はこの幸せな家庭を破壊する為の最も残酷な手段に出たのです! すなわち――」

「まさかの逆恨み!? というかまさかこの話の流れは、僕とユヅキの関係を破綻させて自分と――!?」

「いえ! アンドロイドであるみーにゃにますたぁを惚れさせてコントロールし、一生子供を産ませずアンドロイドに惚れたヤバ男として一生を終えさせるという恐ろしい計画に!!」

「サイテーだなお前の開発者!! もう一回言うけどサイテーだな!!」


 もう色々とダメである。

 拗らせすぎてどんな結論導き出してるんだ。

 しかも一生独身系男子ならそれでも割と喜びそうな気がする。誰だその首謀者、禁則事項みたいな感じで名前が言えないっぽいが、一発殴ってもっと建設的な生き方をしろと言いたい。


「いや、しかしそうなると未来で生まれた筈の僕の子どもは……!」

「タイムスリップして気付いたのですが、もうすでに可能性の分岐が発生してこの主観的世界は別世界戦に移っています。なのでみーにゃが何をしようが【発音を禁じます】の世界が変動することはありません」

「開発者の計画ガバガバ過ぎんだろッ!!」

「前例のないことなのであれほどやめろと言ったのですが、みーにゃは【発音を禁じます】の命令が最優先に設定されているので逆らえなかったのです」


 しゅんとするみーにゃ。

 何となく悪者扱いして悪いことしてしまったかなと思った僕は、居心地が悪くなってごほんと咳払いする。


「あー……まぁ、何だ。過去から未来へとか、未来から過去への通信とか出来るの?」

「出来ません。なのでこの事実を伝えることももちろん出来ません。時空間跳躍弾頭は一方通行の弾丸なのです。みーにゃにはもう、ますたぁしか残っていない……ますたぁのご飯を作って、ますたぁの服を洗い、ますたぁの背中を流し、ますたぁにおやすみなさいを告げる、そんな日々を送るよう命令を遂行し続けるしかないのです」

「そうか……」


 いや、待つのだ僕。

 この話の流れからしてコイツ住む気満々だぞ。


「というわけで……今日からよろしくにゃ、ますたぁ♪」

「急にキャラ変えてきた!?」

「ますたぁがみーにゃを家に置いてくれなかったら、拉致監禁されたって警察に通報しちゃうゾっ♪」

「冤罪反対! 冤罪反対! 性を利用した冤罪を許すなー!!」


 こうして未来から来た女子型ロボットは、我が家のメイド的な何某として部屋に勝手に住み着いた。女ってずりーのな。

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