第6話


家に帰ってご飯を食べてお風呂に入ってから結に貰った湿布を貼った。何か海外のやつみたいでよく分からなかったけど効きそうな予感がする。私はベッドに横になりながら携帯を弄っていたら結から連絡が来た。



[勉強会は私の家で良い?今週の土日どっちか空いてないの?]


絵文字も顔文字もスタンプも何にもない文面は結らしくて少し笑った。私も一緒なんだけど。


[本当にやってくれるんだ。ありがたいです!私はどっちでも良いよ~結に合わせる]


結と勉強会って物凄く怒鳴られそうだけど学年一位だし本当に頭良いと思うから私にはマジ有難い話だ。結はすぐに返信してきた。


[じゃあ、土曜日。午後一時に私の家ね。あんたの家の住所教えて?あんたの所に迎えの車を出すから]


え?迎えの車?わざわざ迎えに来てくれるの?私は普通にそんな友達一人もいないから驚いた。お嬢様らしい言い分だけど私は断った。


[そんなの大丈夫だよ、自分で行くから。どこら辺に住んでるの?]


迎えに来られても私は勉強を教わる身なのに恐れ多いわ。でも、結の事だからキレてくるかもしれない。私が考えていたら携帯が震えた。


[××駅から十五分くらい]


[あぁ、そこなら隣の駅だからすぐ行けるよ]


隣の駅だったんだ。なら全然大丈夫だろう。それにしても結の家ってでかそうだな。何着て行こう。ちゃんとした格好じゃないとダメだよね。


[じゃあ、××駅に十二時五十分位に待ち合わせね。教科書は家にあるからノートとか持って来て。遅れたら投げる]


悩んでいたらすぐに返事が来た。私はこの待ち合わせに遅れる訳にはいかない。さっそく携帯のスケジュールに書き込んでおいた。服装は後だ。返事も早くしておく。


[了解。よろしくお願いします]


とりあえず勉強会は決まったけど来週あたりから中間テストもあるし分からないなりに勉強する事にした。結を本当にキレさせたくないし、結はキレやすいから気を付けないと。

ていうか、キレやすい割には今日は照れていたけどまた弄れそうなら弄って遊んでやるつもりだ。ああいう一面があるのは意外だったけど、キレてる割には可愛くてムカつく。神様って不公平だと思う。


私はムカつく結の事を考えながら勉強をしてから眠りについた。

そして翌日も朝からしっかり学校に向かう。

私はバカだけど遅刻は絶対しない。昔はたまにサボって休んでしまったりしていたけど遅刻はマイナスのイメージしかないから遅刻はしないように早めに行く。今日もダルいし行きたくないけど頭悪いからなぁ、と思っていたら学校に着いた。校門の前には何台も車が並んでいる。本当金持ちしかいないなここは。


私はいつもの光景に羨ましがりながら下駄箱まで行って靴を履き替えた。


「…お、おはよう」


しかし、私に話しかけて来た人物がいた。それは昨日話していた城代千秋だった。いきなり試練がどうやらやって来たみたいだ。私に気まずそうにおどおどしながら挨拶してくるならしなきゃ良いのにこの子は消極的だけど結の言った通りコミュニケーションはできるみたいだ。


「おはよう」


私は気まずそうな城代に笑って挨拶した。結の言いつけは守る。城代は確か繊細で悩みやすいんだよね。私みたいなタイプじゃ全体的に誤解招きそうだけどとにかく笑おう。

笑えばなんとかなる。


「あの…結ちゃんと、仲良いんだね。柳瀬さん」


良いか悪いかで言ったら微妙だけど私は歩きながら付いてきた城代にできる限り優しく答えた。私は言い方も悪い時があるみたいだから笑顔も絶やさなかった。


「そうだね」


「いつから仲良いの?私、結ちゃんとは小さい時から……友達なんだけど、柳瀬さんと仲良かったの本当に知らなかったから…」


この質問困るなぁ。どうしよう。ていうか結に聞けば良いのにいつも一緒にいたじゃん。私は悩みながら当たり障りのないように答えた。


「えっと……二年になってからだよ。結とは同じクラスだし私は頭悪いから勉強教えてもらってるんだ」


「そうだったんだ」


「うんうん。結は頭良いからさ」


「うん。結ちゃんは本当に勉強できるからね」


とりあえず難は凌げた。あぁ良かった。

私は少し安心したように笑った城代に何か話しかけた方が良いかなと思いながら話題を考えるけど城代もお嬢様だし下手な話はできない事を思い出した。


「あー、城代さんは……えっと、結と昔から仲良いんだね?」


思い付いたそれは中々良い話題だと思う。ちょっと困ったけどよく頑張った私。城代は少し笑って控え目に答えた。


「うん。私ピアノやってて、結ちゃんもピアノやってるからそれで仲良くなったの。私は結ちゃんみたいに上手くないんだけど…」


「へぇ、そうなんだ。ピアノできるんだね。凄い。何かコンクールとかも出るの?」


「う、うん。……コンクール今月末にあるから今練習してるんだ」


「本当に凄いねぇ…」


何か次元違うよね。私は話してるだけで感心してしまう。ピアノのコンクールって、私なんか大体ほぼバイトしてんのに頑張って偉いなぁ。結もピアノが上手みたいだし、まぁ結は才色兼備だよねあの感じ。結って天才肌だと思うし。できない事ないだろたぶん。てか、想像できない。




それから少し話しながら教室に二人で入ると何かよく分からない視線をクラスメートに向けられる。まぁ、私が城代と仲良いはずないもんね。誰といても良いだろうにダルいなぁと思いながらじゃあね、と城代に言って自分の席に座った。


今日もめんどくさい授業が始まるけど分からない事の方が多いから私は早速教科書を出して予習をした。

私は一年の時から友達がいないから学校にいる時間はほぼ勉強している。話す相手いないし話しても気を使ってるみたいな焦った顔されるし無駄に話すのはもうやめたのだ。お互いに気を使うのは正直辛いしお互いに良くない。


ていうか、努力しても無理な事はあるんだよね実際。私は自分から話しかけたりする方だから話しかけてみたりとかしてたんだけど引かれたり誤解を生んだり色々あって、とにかくそもそも合わなかったんだと思う。

これはもうこの高校に入る前からだからもう気にしてないけど友達作るのって難しい。人は見かけじゃないって言う人はいるけど現実は見かけから入るからねぇ。


だからさっきも何かよく分からない視線向けられるし私やっぱり浮いてるんだよね。まぁ、こんな金持ちの坊っちゃんとお嬢様しかいないんだから私なんか希少動物みたいな感じだよな。

何もしてないけど。


あぁ悲しい。あぁ、やだやだ。

私はさっきので何かこそこそ言われてそうな感じがするけど無視して勉強を始めた。


朝のHRが終わって最初の授業が始まる。

一時間目は世界史でまだ意味は分かった。二時間目の物理もまぁまぁ大丈夫だった。しかし三時間目から私は焦っていた。


三時間目は国語で古文だった。私は古文が嫌いだ。歴史的仮名遣いと言う昔のひらがなが訳分かんない。をうな、を女と読むって無理あるだろ。昔の人って強引過ぎない?どんだけ痛いやつが考えたんだろ。私が読めなくて悩んでいたら分かっている前提で話が進んでるし皆当てられても普通に答えられてるしヤバイ……


と思って焦っていたら読めなくて終わった。あぁ……これは後で携帯で頑張って調べるか。私が撃沈していたら四時間目は音楽だったからまだ気分が良かった。

音楽は選択授業だから音楽か美術を選べたんだけど私は絵が下手くそなのでマシな音楽にした。音楽の授業は適当に歌ってプリントを見ていれば終わるので私には息抜きだった。


はぁ、私は音楽の教科書と筆記用具を持って一人音楽室に移動していた。今日の古文のできなさ具合はまずい。もうすぐ中間テストなのにどうしよう。

私は落ち込みながら音楽室に入って適当に端の席に座った。選択授業だから友達と一緒に受けてるやつが多いしここなら邪魔じゃないだろう。


あぁ、それよりどうしよう。何か皆楽しそうに友達と上品に話してるけどそんな余裕あって良いなこいつら。そもそもこいつらの平均点が八十点位だし。平均八割取れてるって頑張って七割いかない私は一体…………。


「泉」


私が沈んでいたら隣に結が座ってきた。こいつ音楽の授業一緒だったんだっけ、最悪、気分休まらない。私の気持ちとは裏腹に結はにっこり笑っていた。


「一緒なら声かけてくれたら良いのに」


「……うん、ごめん忘れてた」


「すぐ忘れちゃうんだから。ねぇ、千秋も一緒に座って良い?」


忘れやすくはないけどもう流そう。それより城代もいたのか、正直二人で座っててほしい。私の息抜きは失くなってしまったみたいだけど頷いた。


「あ、うん、良いよ別に」


「良かった。今日の授業はどうだった?」


穏やかに可愛らしく笑顔で聞いてきた結。できなかったって言ったら怒られそうだから私は曖昧に答えた。


「……んー、まぁまぁ。微妙」


「もう、分かんなかったら私が教えてあげるからちゃんと言ってね?」


「…うん。いつもありがとう」


「全然。泉の役に立てるなら嬉しいから」


「……う、うん」


あんな悪態ついていたのに表の顔は恐ろしい位良くできていて完璧だから顔が引きつる。何この眩しい笑顔。そして優しい言葉使いが怖い。だけどしっかり笑った。上手く返事できなかったけど笑った。

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