第22話 スライムVSイレイザーズ2

 部長と杏里、二人が階段を下りるとそこはレストラン街だった。


 スライムの姿は見当たらない。しかしその痕跡を見ることは出来た。


「椅子が吹っ飛ばされてるし、混乱が起きてるな……」


「そうね、このフロアにあのカオスはいる……」


 二人の武装した姿に客たちは驚いて一歩引いている。先ほど化け物がやってきたために変なコスプレをした奴らだとは一概に決めつけられないのだろう。


「あいつはカオス値は高かったが耐久力だけのようだったな。コアさえ破壊すれば終わりだ」


 通路を進み、部長はこの階のフロアガイドを見つけた。


「このフロアはここから一周できるようだ。バラけて奴を挟み撃ちにするぞ」


「了解」


 ◆ ◆ ◆ ◆


 杏里は部長と別れ一人レストラン街を前進して行った。もちろん、ひとつひとつの店の中を覗いていかなければならない。この装備で店に入ると騒ぎにはなるがそんなことはカオスさえ消えればなかったことになるのでどうでもいいことだ。


 一つ目のイタリアンレストラン、二つ目の中華料理店内部を見て回り、赤い化け物が来てないか聞き込みを行う。


 いない、いない……。


 三つ目の店に入ろうとしたとき、その店の前に部長の姿があった。


「部長……? もう反対側から回ってきたの?」


「……あぁ」


 部長はなんだかぶっきらぼうな様子で一言返事をした。


「……それで、あのカオスは?」


「……いなかった。どうやら、この階に来たのはフェイクだったらしいな」


「え……」


 入口周辺はわざと荒らしてそのまま下階に階段で下っていったということか。


「そう……案外頭の切れるカオスね。じゃあ私たちも下に行かないと」


 杏里は部長の前を通り、階段のほうへと向けて歩き出した。


 その時、通信機からの着信音がピコンと鳴った。真也からだろうか?


『おい、こっちはちょうど半分まで見終わったぞ。そっちの様子はどうだ?』


「え……部長なの?」


『あぁ。そうだが?』


「う、嘘よ……だって部長は今私の後ろに……」


 杏里はとっさに後ろを振り返り部長の姿を確認した。するとその足元に半透明の赤い紐のようなものが伸びているのを発見した。


「うっ!」


 一瞬にして掴まれる銃身。


「ま、まさか……自身のコアは別の場所に……」


 そうだ、杏里はヘルメットによってカオス値を計測出来る。しかし、考えてみればスライムのカオス値が観測されるのはコアの部分からだけだったのだ。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 その直後、部長の通信先から『きゃあああああ!!』と甲高い叫び声が聞こえた。


「杏里!? おい!」


 それ以上呼びかけても返事が返ってくることはなかった。


「クソッ……!」


 ◆ ◆ ◆ ◆


 その上階の屋上で真也はまだ千沙を抱きかかえていた。


「ねぇ……真也」


「なんだ……」


「一方で日常部に入ってカオスを消して、一方でライムと仲良くなって……結局真也ってどっちの味方なの……」


「それは……」


 その時、真也の耳にピコンという音が聞こえた。これは誰かからの通信が入った音だ。


『桐嶋、聞こえるか』


「……はい」


『杏里がおそらくやられた』


「えっ、やられた……?」


 やられたとは一体どういう意味だろう。まさかライムが殺してしまったという事なのか。


『お前、どこで何をしている』


「……まだ屋上です」


『……こっちに加勢するつもりならさっさと来い。奴はおそらく人に擬態することが出来る。おそらく俺に化けて杏里を襲ったようだ。俺に会ってもこの通信で確認するまで信用するな』


「わ、分かりました」


 擬態か……確かに危険な能力だ。その力のせいでカオス値が高かったのだろうか?


 真也は通信が終わるとその場に立ち上がり、階段室へと目を向けた。


「行くの……」


 すると千沙が膝を抱えた状態で真也に呼び掛けた。


「あぁ……」


「行って、それでどうするつもりなの」


「分からない……分からないけど……とにかく行かなくては……!」


 そういうと真也はその場に千沙の残したまま駆け出した。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 部長は真也との通信が終わると杏里がいる方向に向かって駆け出した。すると進行方向から人々が悲鳴を上げながら走ってきた。それを避けながら更に先へと進んでいく。


 その先には赤い半透明の姿があり部長は足を止めた。通路を塞ぐほどにまで成長している。


「なんだぁ? いつのまに巨大化しやがった」


 よく見るとライムの体内に料理や食材がたくさん浮かんでいた。おそらくそこらのレストランから持ち出したのだろう。徐々にそれらが溶かされていっている。


「はッ! なるほどな、てめーのカオス値が高いわけだぜ」


 何か食べる物さえあれば体はすぐに回復されてしまう。それどころかこのままではどこまで成長してしまうのかさえ分からない。


「……にしてもこれじゃあ弾が持たねぇな」


 部長はライフルからスフィアを取り出すとライフルをその場にゴトリと落とし、腰のからイレイザーソードを取り出した。柄にスフィアをはめ込む。


「見えたぜお前のコア。それさえたたっ切ればそれで終わりなんだろ!」


 部長はスイッチをスライドさせブレードを出してライムに向かって駆け寄った。次の瞬間、ライムの体から数本の触手が勢いよく飛び出す。


 部長はその触手をザザンと切り飛ばした。そして切り飛ばした触手がイレイザーの力によって黒い煙を上げながら消失する。


「おらおらあぁッ!」


 それからも次から次へと触手が部長に向かって伸びていくが、部長の足は止まらなかった。その全てを切り裂き、消失させ、ライムの体が縮小してゆきそのコアまで近づいていく。


「消えろやぁ!!」


 大分薄くなったスライムの体。部長は次に突きの攻撃を加えればコアまで届くことを確信し、剣を持つ右腕を思い切り後ろに後退させた。


 しかしその時、


 ドウ! という音と共に部長の右腕が付け根から肘あたりまで吹き飛び消滅した。


「うぐ……!?」


 地面に落ちる部長の腕とイレイザーソード。


 振り向くと5mほど先にイレイザーライフルがあり銃口が部長に向けられていた。どうやらフロアの隅から密かに回り込んでいた触手が杏里のライフルで部長を撃ったらしい。


「バカな……イレイザーウェポンはイレイザーしか扱えないはず……な、なぜ」


 ドウドウ!


 ライムの触手は容赦なく引き金を引き追撃をした。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 真也が人のほとんどいなくなったレストラン街を走り先に目にしたのはライムの前で部長が倒れる姿だった。


「部長!?」


 真也はその元へと駆け寄った。


 部長の体はヒドいもので、右腕と下半身は消失し、上半身に左腕と頭部しか残されていなかった。しかし血は流れておらず傷口からは黒い煙が立ち上がっている。


 ライムの事を一瞬見たが、特に真也に対して何かしてくるつもりはないようだった。


「き、桐嶋か……やられたよ。……どうやらそいつは杏里の能力を食ったらしい」


「能力を……食った……?」


「あぁ……そいつは何でも吸収して自分のものとしやがるらしい……」


「ライム……!? 大丈夫なの!?」


 その時、前方、真也が来た方向の逆から千沙が現れた。ライムが片目を千沙へと向ける。


「桐嶋聞け……俺はもう消えるはず。……あとのことは任せた。今から日常部の部長は……お前……だ」


 部長は真也にそう伝えた直後黒い煙と共に跡形もなく消滅してしまった。


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