Ⅶ 屋しきの中で 1つめの昼 おしかけ②

「……てゆーか、きみだれー?」


 よーせーくんがたずねた。

 思いがけない反のうを返されたレプカは言い返す。


「だれって……知らないの!? この屋しきの主のむすめ、しょうらいのこの屋しきの主じゃないの!」


 この言葉を早口で、しかも大声で言ったレプカはつかれてしばらくの間だまっていた。

 そして又言った。


「……あんたたち、この私のことを知らないってことは、正式なここの住人じゃないわね。だれがここをしょうかいしたの?」

「ごめんなさい」


 ミリモンはおどろいた。よーせーくんはなおもつづけた。


「きみの家にかってに入って」


 レプカの表情が少し変わった。


「ここをおしえてくれたのはマコだけど、わるいのはボクたちなの。ふらふらしてたから。

 ……あやまればいいってわけじゃないけど、ごめんね」


 レプカの表情はおどろきの表情になった。

 しかし、それ以上にミリモンはおどろいていた。


(どうしてよーせーくんはこんなにすぐに自分が悪いとみとめられるの? どうしてすなおにあやまれるの? 人のせいにしないの? それに、まだよーせーくんは生まれてからまもないのに。

 なんで? なんで? どうして?)


 よーせーくんのふざけた姿がうかびあがってきた。同時に、自分のふざけた声も。

 そこでミリモンはハッとした。


(よーせーくんはふざけてばかりじゃない、やる時はやるんだ。ぼくは――ふざけて、はしゃいで、わらって……それ以外、何もしていないじゃないか)


 ミリモンは生まれて初めて自己けんおに落ちいった。



 しばらくちんもくが続いてたらしい。やっとレプカが口を開いた。


「いいわ。特別に許してあげる。

 ……お母様にも、ないしょにしてあげる。

 でも、あの、一つだけ条けんがあるの。」


 レプカはかおを赤くして言った。


「あの、なんていうかな、私と、えっと、友だちになってくれない……かしら?」


 ミリモンとよーせーくんがえがおでうなずいた。

 すると、レプカが急に泣き出した。


「そうよ、私はマコがねたましかったの。下働きのくせに、いつもケラケラ笑ってて。私はそりゃ食べ物は美味しいしドレスも可愛いけど、いつもお母様にしたがわなきゃいけない。えがおイコール作りわらい。でも……良かった……」


 最後の方の声は、今にも消えいりそうだった。


 ミリモンは、レプカはずっとお母さんにおびえていて、やりたいことができなくて、イライラして八つ当たりして――それですなおにあやまられると心のどこかでほっとしたんだなと思った。


「マコー、マコー?

 どこにいるの、返事をなさい!」


 レナカの声だ。


 レプカはなみだをふいて、やっとえがおになった。


「母様がよんでるから、私、行くね。

 又、来るから。あなたたちは初めてできた私の友だちだから……」


 走り去っていくレプカのせなかによーせーくんはさけんだ。


「レプカー! またねー!」


 レプカはうしろをふりかえって、にっこりわらった。いつわりの無いえがおだ。



 ミリモンも、何か言おうとした。なのに、何故か何も言えなかった。

 心の中では、色々なことばがうずまいている……




「――」

「バイバイ」

「――」

「またね」

「――」

「ともだちだよね」

「――」

「楽しみ」

「――」

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