第1章思い出話1

俺は昔から声が聞こえる。


 声と言っても人間の声ではなく、大切な落とし物に限ってだが、その近くに行くと頭の中に鈴の音が聞こえる。落とし物が落とし主の元に帰りたいと思うと俺に声を発してくれる。


 幼いころはなぜ鈴の音が聞こえるのか全く分からず、耳障りでもあったが、初めて声を自覚し始めたのは幼稚園に入ったころだ。彼らの近くに行くとなぜか鈴の音が大きく響くので、誰も見ないような木の茂みや排水溝であっても声を辿って彼らを拾うことはできたのだが、どこへ帰りたいのか見当まではつかなかった。困り果てた俺は落し物といえば交番だと思い、交番に落し物を届けるようになったのだ。そのおかげで近所の駐在所のおまわりさんとはとても仲良くなったが、頻繁に落とし物を見つけては持ってくる子供なんて実際とても迷惑をしていたと思う。


 鈴の音は彼らの近くに行くと聞こえてくるので、ある一定の距離を置くと鈴の音が聞こえなくなるから、普段はそこまで煩わしくはなかったのだが、交番の近くを通るといつも大きな鈴の音にいやな気持ちにさせられた。声が聞こえてくると言うことは彼らは持ち主の元に帰れていないのだ。その声は不協和音になって俺の耳に届く。それがとても辛かった。ただ、今まで聞こえていた鈴の音がなくなったときはとてもうれしかった。きちんと大切な人の元に帰れたんだなと。


 人に感謝をされることも多かったし、自分の力がとてもすごいように思えた。しかし、全く見つからない落とし物を見つけてくる俺に対して感謝をする人もいたが、気味悪がった人もいた。「どうやって見つけたの」と大概聞いてくるのだが、小さいころの俺は何の迷いもなく、「声が聞こえてきたから」と返していたのだからこの子はちょっと変わった子なのだろうと思われていただろう。

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