真相

 モリーハウスのチャペルの中。そっと髑髏を抱く蒼き衣のモリーをじっとダラスは見つめていた。彼女の眼は虚ろで、ダラスではない誰かを見つめているようだ。

 ふっとそんなモリーの青い眼に生気が宿る。彼女はじっとダラスを睨みつけ、自身の持っていた髑髏を彼に投げてよこした。

「おい、これはロビンっ――」

「それはルカ・アンダーソン。あなたが、ずっと探してたルカの遺体だ」

 すっと眼を細め、エドワルダは彼に言う。ダラスは大きく眼を見開き、変わり果てたかつての恋人を見つめた。

「ずっとここにいたいっていう彼の遺言を尊重して、マダムが遺体を保管していた。このチャペルの隅に置かれた棺の中に彼がいる」

「本当に、ルカなのか……」

 眼を伏せ、ダラスが問う。その声は心なしか震えていた。

「あなたにはいったでしょう。ルカは、ここで死んだんだよ……。愛しい人のために」

「そっか、ルカは本当にもう、いないんだな」

 ぎゅっと髑髏を抱きしめ、ダラスは薄く微笑んでいた。彼は顔をあげ、愛しい恋人の遺体を引き渡したモリーを見つめる。

「ロビン・フォーカスは? 俺たちの仲間は、どこに隠した?」

 すっと眼を鋭く細め、ダラスは問う。エドワルダは青い眼をそっと伏せて、言葉を紡いだ。

「殺して、テムズ川の底に沈めた。彼は、僕の駒鳥は、僕が殺したんだ」





「えーと、なんで僕生きてんの……」

 タイバーン処刑場にいた自分がここに監禁されて早数日。シュミューズ姿のエドワルダはは天蓋付きの寝台に寝そべっていた。あのまま始末されるはずだった自分は、ダラスに引き留められてここにいる。

 いまや風紀改善協会の会長に納まる彼は、髪をおろしてだらしなく下着姿を披露するエドワルダを見下ろしている。

「もう一度聞く、ロビン・フォーカスはどこに行った? それが、お前が生きてる理由だ」

「だから、テムズ川の底……」

「そのテムズ川に沈んでいるはずのロビンから連絡があった。自分は生きているから、捕らわれているモリーを殺さないでほしいと。彼女は何もしてないとな」

「はあ、死者が生き返っちゃったわけか……。何やってくれてるんだよ、ロビン……」

「どういうことなんだ。どうして殺したと言ったロビンが生きてて、お前は何も知らないんだ? 何が何だかさっぱりわらん……」

 エドワルダの呑気な言葉に、ダラスはため息をついて椅子に座る。そんなの僕だって知りたいよとエドワルダは彼に文句を言っていた。

「知ってるとしたら、毒薬を僕に渡したマダムだろうね……。そのマダムとだって連絡がとれないんじゃ、僕としては何とも言えない」

「つまり、お前もロビンとマダムに騙されていたっということか……」

「うん、そうなるね。残念ながら……」

 はあとため息をついて、エドワルダはそっと体を起こす。肩にまとわりつく髪をそっと耳にかけ、彼女は続けた。

「あの二人。僕を救うために一芝居打ってくれちゃったみたいだよ。ほんと、ニューゲイトにも入れられて、変な奴らにも犯されそうになって、タイバーン処刑場にいってやっとロビンのもとに行けると思ったら……。本人は生きてるとか無茶苦茶すぎ……」

「その様子だと、勘づいてはいたんだろ」

 そっと足を組む、ダラスが笑う。その笑い顔を見て、エドワルダは苦笑していた。

「まあ、薄々は……」

 そういって、エドワルダは寝台に転がしていた懐中時計を手に取っていた。そっとエドワルダは時計の鎖を持つ。ゆれる懐中時計の裏側には、弾丸がめり込んでいた。

「ロビンのお母さんが懐に入れていた懐中時計。ロビン・フォーカスは誰も殺してない……」

 ゆれる銀の懐中時計を見つめながら、エドワルダは呟く。その言葉通り、ロビンが実の母親に放った凶弾は、この懐中時計にあたったのだ。ロビンの母は転倒したときに頭を何針か縫う怪我をしただけで難を逃れ、その怪我を何とかしようとしてロビンはシャツを血で汚した。

「まったくもって、茶番だよ。僕だけがマダムとロビンの掌で踊らされてた。ロビンは文字通り死んで、新しい人生を生きるつもりだよ」

「そこにお前を巻き込む気か」

「あなただって、もう巻き込まれてるでしょうに……」

 エドワルダの言葉にダラスはそうだなと笑う。そして彼は、言葉を継いだ。

「ルカを、救ってくれてありがとうな……」

 そう言って、彼はエドワルダを優しく抱きしめたのだ。

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