第2話

 例によって行先は、いつものショッピングモール。

 今日は四人でにぎやかな買い物――サラも、アイリと一緒で楽しそうにはしゃぎながら買い物を楽しんでいる。男二人は、服屋のベンチに腰かけていた。


「アイリってスタイルいいよね、羨ましいなぁ」

「サラも、足とか綺麗で羨ましいですよ? 足をもっと出した方がいいと思うのです」

「そうかな? 短パンとかはよく履くけど……」

「女の子だったらスカートですよっ、サラ」


 聞こえる、姦しい声に目を細めながら、思わずそわそわとしてしまう。

 拓朗は半ば悟りの境地なのか、半分目をつぶり、上を向いている――瞑想?

 二人は並んで腰かけたまま――なんとなく聞いてみる。

「なあ、拓朗よ――」

「なんだ、親友」

「スイーツは甘い系としょっぱい系、どっちが好きだ?」

「甲乙つけがたいな――だが、やはり、スイーツならば何でもいい」

「スイーツって名前の響きだけでいいものだからな……」

 二人でぼんやりと天井を見上げる。ふと、試着室のカーテンの隙間から、ひょっこりとサラが顔を出す。

「ごめんね。二人とも。すぐ着替え終わるから」

「ああ、気にすんな」

「見せてあげるから、楽しみにしていてねっ」

 そう言って中に戻るサラ――試着姿を、見せたいから、と傍のベンチで待たされている。暇ではあるが……ちょっとだけ、楽しみである。

「――ったく、お前はいいなあ、サラちゃんがいて」

「まあ、できた幼なじみだとは思う。傍にいて、楽しいし」

「のろけか? しかも、今度はアイリちゃんなんてかわいい子を引っかけて……」

「要するに、羨ましいんだな」

「そうだよ、畜生」

 下らない会話をしている間でも、後ろの試着室では、楽しそうな声が響いている。


「やっぱりサラ、スカート似合いますよ。ほら」

「ええ、なんかスース―するし……なんか、落ち着かない……」

「上は……そうですねえ、大人びた感じがいいですから、Vネックのトップスでさりげなく色っぽさを出すのもありですかね……うーん、上に何を合わせるべきでしょうか……」

「あ、アイリ、少し落ちつこ? ね?」

「あ、待ってください、サラって下着さらしなんですか? 駄目ですよ、そんな……もうちょっと身だしなみをしっかり……あ、意外と胸ありますね……?」

「アイリ、ちょ、あんっ……!」


「――す、少し耳に毒なんだが……」

「……同意するがな、前かがみになるな。痛い視線が来るぞ」

「鈴人、お前全然動揺しないな……」

「ふっ……お前が未熟なだけよ」

 とか言いながら、実は太ももめっちゃ抓って平静を保っているだけなんだけど。


「――お待たせしましたっ!」

 声がかかったのは、それから十分ほど経ってからだった。アイリは念入りにさまざまなコーデを試し、満足いくように仕上がったらしい。

 ほくほく顔で試着室から出てくる――彼女の服装は変わりない、ワンピースだ。

「――アイリは、試着しないのか?」

「私は自分でもう決めていますので――サラの服装を、見てあげてください」

 そう言うと、彼女はさっと試着室のカーテンを開ける――思わず、目を見開いた。

 そこには、少し大人っぽい感じの、サラが立っていた。

 オフショルダーで肩を出した白のトップスに、黒地のスカート。ひらひらと舞う白いフリルがあしらわれた裾から覗かせる白い御足は、見慣れているはずなのに眩しく思う。

 サラは顔を真っ赤にし、片手でスカートの裾を押さえ、もう片手で胸元を押さえる――若干上目遣いでの、涙目で恥ずかしそうにつぶやく。

「こんな、ひらひらした、可愛い服、絶対――」

「すごく、似合っている」

「――え?」

 思わず、自然と呟いていた。サラが目を見開き――ちょっとだけ、歩み寄る。

「も、もう一回……聞こえなかった」

「あ……いや、その……」

 改めて言おうと思うと――面と向かうと、恥ずかしい。でも――言わないと、後悔しそうな気がするから……僕は、しっかりと口にする。

「うん、似合っている……とっても、かわいい、と思うよ。サラ」

「あ……あ、ありがと……うん……」

 ぼそぼそと呟き、サラはもじもじと顔を伏せさせる。耳まで真っ赤だ。

 こっちも当てられたみたいに顔が熱くなってくる。視線を彷徨わせ、でも、もう一度サラの姿が見たくなって――。

 同時に、視線が合う。慌てて、二人で視線を逸らした。

「いやぁ、アイリさん、見ていてこっちが熱くなってきますね」

「甘々な二人を見られて、眼福ですよ。矢崎さん」

 二人は楽しそうに笑っている。サラは慌てて試着室のカーテンをしめる――向こう側で、何か悶えているような気配が伝わってきた。

 こほん、と咳払いし、アイリに向き直って――親指を突き出す。

「アイリさん、いい仕事しています――ぐっじょぶ」

「いいですよねっ! 折角ですから、靴もちょっと可愛い感じの革靴で揃えてもいいかもしれませんね。ほら、こっちの黒のワンピースも似合いそうじゃないですか? これ、レースが可愛くて、少しドレスみたいなんですよ」

 見せてもらったワンピース……うん、確かに。

「似合うな。いや、絶対、かわいい」

「ですって! サラ!」

「う……そんなに、見たい、の……?」

 おずおずと、サラはカーテンの隙間から顔を覗かせる。

 涙目でじっと見つめてくる――上気した頬といい、何だか誘っているというか、嗜虐心がそそられてくる。思わず、頷いていた。

「見たい――サラの、かわいいところ……見せて欲しい」

「う、うううう……じゃ、じゃあ、これ、これだけだよ……?」

 アイリからワンピースを受け取り、もぞもぞと着替え始める。それを見ながら、アイリは楽しそうに笑って――尚も、目を輝かせた。

「折角だから、もっと、もっとコーディネートしましょう? リント」

「……まあ、程々にな」


 これだけ、とサラは言っていたものの――。

 アイリの用意したコーデを、あと三回ほど着せ替えられ。

 その後、むくれたサラをなだめるのに、イチゴパフェを二個奢る羽目になったのは、余談である。

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