(3)ガイノイドとして学園へ

第13話 配属

帝央大学はこの国が近代化の歩みを始めた時代の法律学校が母体で、その後ありとあらゆる分野の学部を創設し、現在では全国各地に姉妹校があるほか、ここ首都近郊には都市レベルの面積を持つキャンパスを持っていた。その中には実験用原子炉や小型航空機用の滑走路まであるほどだった。


 ガイノイドエリーとして派遣されたのは帝央大学の研究棟だった。もともとエリーの内臓の愛莉は理工学部の学生だったので、それは屈辱でしかないと思った。逮捕される前と違って今は人類に奉仕する機械の扱いであった。学生から道具への転落、それも冤罪によってだから理不尽であった。


 全身拘束刑を受けロボットにされた囚人はロボットの内臓になることで服役している。だから愛莉の身体と精神は「動く刑務所」に閉じ込められていた。固く武骨な外骨格、そして人間扱いされない身分・・・それを受け入れたうえで、解放されるように努力しなければならなかった。真相を確かめるのがその条件だった。


 「エリー、それじゃあ古い新聞のファイルディングを頼んだぞ!」


 頭髪が薄くなり頭皮が丸みえなのにボサボサ頭の痕跡がある白髪の初老老人に命令されたのは・・・廊下の床に山のように積まれた古新聞の束の電子化だった。


 「教授、了解しました! これから午前中いっぱい出来るところまで実行します」


 エリーはハキハキと答えたが、愛莉の心はつまんないなあと感じていた。あんまりにも創造性もない単調な作業だったから。


 派遣されたのは法学部丹下犯罪学研究所だった。ただ、研究所といっても古い新聞や書籍の物置きの片隅にあるといっていいところだった。実際、ある場所も半世紀以上前に作られた建物の奥で、老朽化が進行し取り壊し寸前のようなところであった。しかも、この研究所にはもう一人居候がいた。


 「さあ、やってやってエリーちゃん。君のお仕事は大事なのよ、動いて頂戴ね!」


 その男は長崎淳司で、犯罪学教室所属の研究員ではないドイツ語のアルバイト講師であった。一人と一体いや二人は身分を偽り潜入したのだ。ここの丹下教授はそのことを知らず、なぜ非正規雇用の講師と旧式ロボットすら要望しても来なかったガイノイドがやって来たのか不思議に思っていた。


 「はーい、そうします! 長崎先生のご予定は?」


 エリーは古新聞の束を廊下から運んでいた。彼女ほどの超高性能ロボからすれば、手に余る仕事であった、簡単に言えば「役不足」だった。それに丹下教授は定年退官する予定でだったので、研究もあまりしておらず、身辺整理が業務のようであった。


 「午前と午後に一コマずつ、今日も後は暇ですよ」


 淳司は今どき誰も使わないような紙媒体のドイツ語辞書で遊んでいた。そもそも授業はタブレット学習であるからだ。そんなのはアクセサリーだ!


 「先生はナンパでもされるのですか?」


 エリーはちょっと揶揄い気味でいった、すると淳司はまんざらでもないような表情をしていた。


 そんなガイノイドとチャラ男講師のやり取りであったが、電脳空間では全く別の事をしていた。

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