冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田

(1)全身拘束刑の女

第1話 有罪ありき!

 「被告人・山村愛莉、これから判決を言い渡します!」


 粗末な囚人服を着せられた愛莉は虚ろな目をしていた。逮捕されてからというもの自分は頼まれただけで国防省の国家機密情報を漏洩することを首謀していないと、一貫して主張してきたが、誰もかれも聞いてくれなかった。自分がしたことは何か分からないままに!


 自分の言い分を法廷で代弁してくれるはずの弁護人は、事実関係を調べた形跡もなく、ただ罪を認め情状酌量を求めましょうと説得するだけだった。そして検事は起訴内容の事実関係の大半は国家機密に指定されたから被告人にも教えられないというし、そんないい加減な法廷なのに判事はただ検事の言い分をきくだけであった。まさに法匪! 正義というものは自分の法廷に存在しないと打ちのめされていた。


 今日は最高裁の上告審のはずだが、なぜかここはどこかの拘留施設内にある会議室、なぜここなのかはどうでもよかった。結果などわかっていたからだ。有罪だ! 初公判から今日の上告審判決言い渡しまで一ヶ月もかかっていなかった。全ては茶番だった。


 「山村愛莉、被告人の上告を棄却する。首都第参地方裁判所の判決を支持する。以上、閉廷します!」


 そういって裁判官、いやもしかするとどこかの誰なのか分からないが、その男は少しニヤニヤしながらこう言った。


 「じゃあ、いよいよサヨナラね、人間の愛莉はね! せいぜいロボットして罪を償ってね! 御達者で!」


 そういうと、両側にいた刑務官は愛莉の両手両足に手錠をして、頭にマスクを被せてしまい、本当は法廷じゃないかもしれないところを後にした。そのとき、誰も目撃者はいなかった。この時から山村愛莉という少女の姿は消失した! 彼女の身体は全身拘束刑の名のもとに機械と融合したから! 全身拘束刑に処せられた女になったから・・・愛梨がやったことといえば、大学の教官と同級生から提示された暗号解除をしただけであったが。


 愛莉が向かっているのは刑務所ではなかった。今の時代、新規に囚人が送られることはないからだ。かわりに代替措置が用意されているのだが、愛莉が一審で言い渡された刑罰が全身拘束刑だった。一審の時に検事にどのような刑なのかを説明する動画を見せられた事があった。つまりは、囚人をロボットの内臓にするという事だった。それには愛莉は法廷で卒倒してしまい最後まで見れなかった。全身拘束刑は人類に奉仕する機械労働者階級に改造されるもので、奴隷階級にされるというしかないものであった。


 機械にされて働かされるのは嫌! 愛莉はそう心の中で叫んでいたが、身体は硬直していてもはや感情表現はできなくなっていた。その時から彼女は人間ではなく、機械の材料でしかなくなっていた!


 全身拘束刑は人間も捨て、身も心も機械にしてしまう死刑に等しい厳罰であった! 彼女はこれから人を捨てモノに生まれ変わろうとしていた! 彼女の硬直した身体は猿轡さるぐつわをされ目隠しされ、そして乱暴に扱われてまるで死体袋のようなモノの中に入れられてしまった。

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