怒りの美しさ

人は怒ると、普通、言葉が乱れます。怒気にあふれた声や言葉には、近寄りがたいものがあるし、あまり見栄えがいいとはいえない。怒りが憎悪にまで高まると、言葉はなおさら醜くなることが多いでしょう。だから、怒りの表明には慎重にならざるを得ない。そして怒りを隠すうちに、初めからそんな感情はなかったというように、こころを偽ってしまうことも多くなるかもしれない。

でも、喜怒哀楽と俗にいうように、怒りというのは真っ当な感情のひとつです。それを抱えてしまったなら、解放する糸口をなんとか探さなければならない。たとえ、だれも傷つけたくないし、だれとも争いたくないとしても。そんな、表現せざるを得ない、切実な怒りを込めた言葉には、憎悪をまきちらす言葉とギリギリのところで袂を分かって、清廉な美しさが宿ることがある。そんなふうにも思えます。

この詩集には、切実な怒りと毒があります。その怒りからは、他人を攻撃したいという衝動よりも、世界を肯定したいという願いが多分に感じられてなりません。

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