ゴルゴンちゃんは娶られたい! 天馬先輩は断わりたい

水無月冬弥

第1話 ゴルゴンちゃんは娶られたい!


「デートです!」


 ゴルゴンちゃんは、眼鏡の奥の瞳をキラキラさせて満身の笑みを浮かべた。


 遠山香流子かおるこ 16歳 

 身長145センチ、痩せ形だがでるところはきっちりとでているナイスバディな彼女

 くせ毛で蛇のようにうねっている前髪を目のあたりまで伸ばし、顔を隠していた彼女であるが、その可愛らしさを隠しきることはできなかった。

 特に普段は隠している眼鏡の奥の漆黒の瞳をみたものは、心を奪われ動けなくなるとさえ噂されていた。

 

 まるでギリシャ神話の魔女ゴルゴン3姉妹の石化の邪眼をみたもののように……


 其の噂が流れるようになると、名前が「 香流子こるこ」と読めないこともないことから、いつの間にか「ゴルゴンちゃん」と呼ばれるようになり、いつの間にか定着していた。


 そんな「隠れ美少女」であるゴルゴンちゃんは、神野高校美少女美男子ランキング調査委員会発表によれば

  

 美少女部門第4位

 守ってあげたくなる部門2位 

 隠れ美少女部門元1位

 そして、眼鏡っ娘部門第1位


にランキングしているくらいだったが、最近は前髪を左右にわけ、その可愛らしい顔をさらすようになっていた。

 

 だが、その事に喜ぶものは少なかった。

 なぜなら、顔を隠さなかったのは、笑顔満開の彼女の隣に立つ仏頂面の少年が原因だったからだ。


「……デートじゃないぞ」


 きっぱりと少年は言った。

 身長185センチ、何かスポーツをしてるのか全身が筋肉の鎧に包まれていた。

 漆黒の髪の毛を短く刈り込んだ精悍な顔は、睨んだだけで人を殺せそうな威圧感があり、ちっちゃなゴルゴンちゃんと並ぶと、まさしく美女と野獣といった赴きがあった。

 

 彼の名は陣野天馬じんのてんま 18歳

 ゴルゴンちゃんと同じ神野高校に在学する高校生であった。

 ちなみに、神野高校美少女美男子ランキング調査委員会によれば


 美男子部門圏外

 人を殺したことがありそうな男部門1位

 結婚したい男性部門1位(圏外からのランクイン)


であった。


「これはただの買い物じゃなかったのか? 遠山」


「そうですよ、天馬先輩!」


 ゴルゴンちゃんは弾む声で首肯する。

 

「これは天馬先輩の服を血で汚し、さらに! 服までもらってしまった私のお詫びの買い物です」

 

 とある事件により、ゴルゴンちゃんは貧乏高校生である天馬の服を2着も奪ってしまったのだ。


「でもでも天馬先輩知っていますか? ただの買い物でも、ちょっとした散歩でも、ただの登下校でも……!」


 ゴルゴンちゃんはドヤ顔で断言する。


「恋する二人で行うのなら、それはデートなのです! つまり! これはわたしと天馬先輩の初デートになるのですよ!」


「そうなのか……」


 2歳ほど年上のはずだが、青春を謳歌してきてこなかった天馬は真顔でゴルゴンちゃんに尋ねる。


「そうなのです! ふふふ、つまり天馬先輩はわたしの策略にひっかかって、既成事実をまた一つ作ってしまったのです。だ~か~ら、天馬先輩!」


「なんだ?」


「だから私を早く娶ってくださいね!」

 

 告白プロポーズしながら、ゴルゴンちゃんはとびっきりの笑顔を天馬にむける。


「それは断わる」

 

 きっぱりと天馬は答える。


「また振られた!」


 出会ってから1週間

 事あるごとに告白する彼女の願いは果たされそうになかった。


「それはそれとして」


「わたしの告白がぞんざいにあつかわれた!」


 ゴルゴンちゃんのペースについていけず、天馬は心を落ちつけるため深呼吸する。


「それはそれとして、本当にいいのか? 確かに俺は貧乏だが、服の1、2着くらいはなんとか……」


「駄目です。これは私を助けてくれたお礼も込めてのことなんです!」


「だったら、ご飯くらいで……」


「でも、わたしは服を2着も……」


「だが……、うん、ちょっとまて遠山」


 ゴルゴンちゃんの勢いに負け、買い物デートったらデートですすることになったわけだが……


「よく考えたら、一着は血まみれでもう着れないが、一着は着るものがない遠山に貸したものだから、洗って返してくれれば………」


「嫌です!」


 きっぱりとゴルゴンちゃんは拒絶する。


 天馬は、ゴルゴンちゃんの絶対的拒絶の意志を感じ自分のデリカシーのなさを恥じる。

 ゴルゴンちゃんはちょっと天然だけど華も恥じらうJKなのだ。

 洗ったとはいえ、一度でも自分が着た服を異性に返すのは恥ずかしいのだろう。


「すまなかった。あの服は捨てて……」


「あれは家宝として生涯保管しておくのです!」


 訂正。

 ゴルゴンちゃんに恥じらいはなかった。


「あのなあ……」


「そ、それはそれとしてお金は大丈夫です」


 ゴルゴンちゃんは、エッヘンと胸を張る。

 たわわな二つの果実が揺れ、天馬はそっと眼を逸らす。


「天馬先輩への愛情ほどではありませんが、お金は先輩をヒモにしてわたしに依存させてしまうほどありますから!」


「ヒモになるつもりはないし、お金は大切にしないといけないぞ」


「え、なってくれないんですか?」


「なぜ疑問系なんだ?」


「だって空子先輩が、『あんたは頭がちょっと残念だけど、かわいいし、それでお金もあるのなら大丈夫だよ、天馬をヒモにしちゃえ』って銀行印押してくれましたし」


「押すのは太鼓判だ。だが、お金といってももともとは世界旅行中のお爺ちゃんのだろ」


「はい! 自由に使っていいと」


「孫に甘すぎじゃないのか?」


「ちなみに結婚相手も『お前の眼鏡にかなうう奴ならいいぞい』といってくれましたぞい」


 野暮ったい黒縁眼鏡をクイクイさせながらゴルゴンちゃんは語った。


「お爺ちゃんもフリーダムだな。それに語尾がお爺ちゃんになっているぞ」

 

 天馬はため息をついた。


「まあ、遠山はかわいいから許されるけど、あ……」


 自分の失言に天馬は気づくが時すでに遅かった。


「か、かわいいだなんて。も、もう、天馬先輩ったら、ダメですよ」


 ゴルゴンちゃんの顔が真っ赤になる。


「さりげなく言われちゃうとチョロい女の子ならそれだけで堕ちちゃいますよ」


 チョロいゴルゴンちゃんは体をくねくねさせる。


「す、すまない」


 天馬は謝罪する。

 しかし……


「だが、かわいいと思ったのは事実だ」


 天馬は真顔でしっかりとゴルゴンちゃんの眼を見ながら告げると、ゴルゴンちゃんの顔はさらに赤くなる。


「そ、そういうところですよ、先輩! どうして誤魔化したりしないんですか! 真面目だったらなんでも許されると思うんですか!」


「嫌だったのか、すまない。これからは言わないように……」


「すとっぷ! ストップ! STOP! 言って下さい、これからもどんどん、わたしを『かわいい』と言って下さい!」


「あ、ああ……」

 

 戸惑いながらも天馬は答える。


「ふふふ、そんなかわいい後輩とデートできるなんて、天馬先輩は幸せですね。これはもう娶るしかないですね」


 ゴルゴンちゃんは……、上機嫌で全身を蛇のようにくねらせる。


「それはない」

 

「また拒否られた!」


「……しかし、意外だな。遠山は昔から「かわいい」と言われていたから、聞き慣れていると思ったのだが……」

 

 恋愛に興味がなく、学年が違う天馬も、彼女のことは出会う前から知っていたくらい「隠れ美少女」として有名だったのだ。

 

「たしかに私もかわいいとよく言われました。でもでも、天馬先輩は特別なんです!」


 ゴルゴンちゃんは天馬を見る。


「それで先輩、もう一度聞きますが、私のこと『かわいい』と思っているんですね」

 

「ああ」


 即答する天馬をみて、ゴルゴンちゃんはのけぞる。


「はう。天馬先輩、即答はだめー、心の準備が……、あああああ!」

 

 ゴルゴンちゃんの眼鏡が妖しく光る。

 

「おい、遠山落ちつけ!」

 

 異変に気付いた天馬が叫ぶ。


 だが、ゴルゴンちゃんの想い魔力は止まらない。



 そして


「天馬せんぱーい、だいすきー!」





 世界の一部が停止する。



【作者からのワンポイント解説!】

★コンセプトは「異能バトルだって甘々なラブコメはかけるんだい!」

★ゴルゴンちゃんは、黒縁眼鏡美人

★天馬先輩は(学業は)平凡な高校生

★ゴルゴンちゃんには秘密があった、それは……

★パイロット版は4話構成です。


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