第4話 混乱のコロシアム

 ユウタスは気合を入れて、襲ってきた魔物に向かって必殺の拳技を繰り出した。


「流星多段撃!」

「クワォー!」


 魔物はその攻撃を腕をクロスさせて防ぎ切る。さっきまでと違い、その魔物には攻撃を防ぐ知力があった。どうやら魔物は全てが同じ実力ではないらしい。

 攻撃を防がれたユウタスが周りをよく見てみると、一撃で倒せるザコは既に倒し尽くしており、残り10体ほどの手強い魔物だけが武闘家達をおちょくりながら上空を我が物顔で飛び回っていた。


「嘘だろ? こんなのアリかよ?」

「どうやら魔物にも手強いのがいたみたいだね」


 今生き残っている魔物達は動きも頭の良さも攻撃力も防御力もかなり高く、対処している格闘家達もかなり苦戦しているようだった。何せ、向こうは魔法と言う飛び道具が使える。安全な場所をキープしながら一方的に攻撃が出来るのだ。

 こちらも思いっきりジャンプするとか天使の羽で空を飛んでの空中戦は出来るものの、攻撃自体は接近戦闘しか出来ない。このハンデはとても大きかった。


「キシャキャキシャ」

「このおーっ!」


 この大会に参加している実力者の1人、タンクトップでデブッチョの剣闘士のマルオゥの拳が空を切る。彼は何度も魔物に対して攻撃を仕掛けるものの、その全てを軽く避けられていた。数十体から10体に減らすまでは早かったものの、強い魔物達だけが残ってからはその数を一向に減らせないまま。


 魔物の方が有利なこの状態が続けば、このパワーバランスもやがては崩れてしまうだろう。ユウタスもまた果敢に攻撃を繰り出すものの、一向に魔物に拳を当てられずイラついてしまう。


「あいつらに弱点はないのかよ?」

「多分、召喚したゲレルなら何か知っているはずだ!」

「あいつは……いない?」


 魔物召喚の混乱でゲレル本人への注目度が下がった隙に、その張本人は捕まるのを恐れてか、この場から逃げ出してしまったらしい。召喚主がいなければこの混乱を収める方法が分からないと言う事で、ユウタスは頭を抱える。


「くそっ、じゃあどうすればいいんだ……」

「まだそんな遠くには行ってないはずだ、ユウタス君、君が見つけ出してくれないか。ここは私達に任せてくれ」

「え? でも……」

「そもそもゲレルは君の対戦相手がじゃないか。なら君が一番適任だ」


 バランの心強い言葉にユウタスは覚悟を決め、ゲレルを追いかける事にする。その様子を格闘家の大先輩は優しく見守っていた。

 ユウタスが会場から無事に出ていったのを確認して、バランを拳を高く空に掲げて力強く宣言する。


「ようし、会場の魔物は俺達が全て抑えるぞぉっ!」

「おおーっ!」


 バランの雄叫びに会場中の格闘家達が共鳴する中、ユウタスは逃げたゲレルを探すために会場の外を走っていた。大会は休日に行われるため、この時間に必死に道を走る人は少ない。

 逆に言えば、走っている人影さえ確認出来ればそれがゲレルである確率は高かった。


「アイツ、一体どこに行きやがったんだ?」


 ユウタスは必死に顔を左右に動かし、視界の中に怪しげな人物が入ってこないか確認する。すると、すぐに東側の道をひたすら走るフード姿の男が目に飛び込んできた。


「見つけたぞ!止まれ!」


 ユウタスは男に向かって叫びながら走り出した。足には自信のあった彼は男との距離をグイグイと縮めていく。やがて男も追いかけてくる存在に気付いたのかぐるりと振り返り、お互いに見つめ合う形となった。

 お互いに顔を見合わせた事で、追いかけていたフード男は確かにゲレルだと確認される。


「なんで逃げるんだ、責任を取れ!」

「へへへ、何だお前かぁ……。お前なら俺様にだって勝てる」


 ゲレルは追いかけてきていたのがユウタスだと分かると、急に立ち止まって格闘の構えを取る。その突然の行動にユウタスは上手く反応しきれなかった。


「くらえ、スパイラルパーンチ!」

「ぐはあっ!」


 ユウタスはゲレルの突然の攻撃に防御すら間に合わず、その拳撃をまともに受けてしまう。自らが走っていたのもあって、カウンターによって威力は2倍程度にまで高まってしまっていた。

 スパイラルパンチによって空中に放り出されたユウタスは、そのまま成す術もなく地面に叩きつけられる。


「ふん、雑魚が」


 その衝撃でしばらく身動きが取れないユウタスに向かってゲレルが余裕の態度で歩いてきた。きっととどめを刺すつもりなのだろう。すぐにもその場を離脱する必要があるものの、ユウタスはダメージが抜けきておらず、中々体が言う事を聞かない。

 意識はあるのに動けない状態の中、ゲレルは倒れた彼の側までやってきた。そのままユウタスを見下ろし、邪悪な笑みを浮かべる。


「とどめだ!」

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