僕だけに届く声を。

市原 律

第1話プロローグ

「楓、楓。」

誰かが僕の名前を呼ぶ。その声は聞いた事のない声だった。

「楓。私の声、聞いて。」

誰の声か全く分からない。きっと聞いた事のない声。だけど。その声は確かに僕にとって大切な声。なにも邪魔しないで僕の耳にスっと入ってきてなんの邪魔もしない。

素敵な声だな。

いつも目が覚めるのは僕がそんなにことを感じた時だ。

「また……あの夢……」

何度も何度も見てきた夢。なのに起きるとどんな声だったか、耳にフィルターがかかったかのように曇っていて鮮明に覚えていない。

「誰なんだよ……」

そう嘆く僕の声は、1人寂しく部屋にぽつんと残るだけだった。

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