可愛い巨乳幼馴染が引きこもったのは俺の部屋だった!?
琴乃葉 ことは
第1話「そこに、胸いっぱいな夢を」
「ただいまーっと」
玄関の扉を開け、適当な位置に靴を脱ぎ捨てながらリビングへ向かう。
返事は無く、出迎えてくれる人間はいない。俺の両親は仕事で夜遅くまで帰ってこないので、いつものことだ。
「あいつ、また昼飯食べてないな」
台所のシンクに何も無いし、冷蔵庫の中身に一切変化が無い。やっぱりまだ下に降りてくるのはつらいか。
どうせまた、お腹空いてなかったとでも言うつもりなのだろう。
しょうがない。近くのコンビニにパンでも買いに行くか。昼飯まで用意してやれないし、これからはパンを渡してから学校へ行こう。下に置いてても取りにこないしな。
これまた痛い出費だが、まあいい。
カバンから財布だけ取り出し、後はソファーに向けて放り投げる。
一度玄関の扉を開けたので、俺が帰って来てるのはわかっているだろう。あまり待たせると機嫌が悪くなる。
「ついでにデザートでも買ってってやるか」
多少のご機嫌取りにはなるだろう。
俺は大した距離もないコンビニへ、急ぎ足で向かった。
コンコンッ。
いつものように扉を二回ノックする。
目の前の重苦しい雰囲気の扉にはネームプレートが掛けられていた。実に下手くそな字で”あさの しんや”と書かれている。
「
小学校の頃につくらされたもので、手先が器用だった訳でもない俺は苦労したのをよく覚えている。
しばらく待ってみるが部屋の主からの返事は無い。
一つため息をはいた俺は、ポケットからチェーンがついただけの鍵を取り出す。
鍵穴に差し込み軽く捻ると、その扉はいとも容易く開いた。
「入るぞー」
念のため声を掛けながら部屋に入る。
以前まではいきなり部屋に押し行ったりもしていたが、一度着替えにばったり出くわしてからはこうして慎重に入るようになった。
役得だなんて思うこともあったが、流石に狙って入るのは罪悪感がある。俺は真のラッキースケベを求めているのだ。
「おかえり」
「おう、ただいま」
本日二回のただいまだ。けど今回は返事をしてくれる人がいる。
出迎えたのはこの部屋の主であり俺の幼馴染「
肩までのばしたボサボサのセミロングと目下のホクロがチャームポイントだ。顔は整っておりクラスにいるやつと比べれば、一番と言っていいほど可愛いと思う。
まあ、ちょっと幼馴染補正があるかもしれないが。
あと、特徴としておっぱいが大きい。ここ重要。運動しなくなったからか、中学からの成長速度が半端なかった。おかげで、最近は目のやり場に困っている。
「また、見てる...... えっち」
あー、本当に目のやり場に困るなー(棒)
ふむ、何という吸引力。視線が外せない。
しかし、そんな彼女にも一つだけ欠点があった。
結梨が未だガン見を続ける俺の視線から逃れる為に、自分の手で胸元を覆い隠す。
そう、何を隠そうと!
彼女は引きこもりなのだ!
しかも俺の部屋に!
大事な事なのでもう一度言う。
俺の部屋に!!
微動だにしない俺の視線に結梨がジト目を向けてくる。
さて、冗談はこのくらいにしておこう。いい加減怒られそうだ。
「もう!おそい!一回帰ってきたのにどこ行ってたの?」
「お前また昼飯食わなかったろ?」
「うっ、そ、それは...... お腹が空いてなかっから」
そこでサッと菓子パンを取り出しヒラヒラと見せつける。
ぐぅ〜。誰かさんの腹の虫が鳴った。
「お笑いのセンスあるよ」
「う、うるさい!」
「という訳でこれが遅れた理由だ。何か言うことは?」
「ありがとうございます......」
大変不服そうだったが、今回は見逃してやろう。
「それで、今日は何してたんだ?」
「ん?ここにある本もあらから読み終わっちゃったし、新しいゲーム始めてみた。これ、戦艦少女っていうらしいよ」
結梨は買ってきたメロンパンを食べながら、自身のスマホを見せてくる。その中では、可愛くデフォルメ化された女の子キャラ達が、「射てー」なんていいながら敵陣へ攻め込んでいる。なかなか斬新なゲームだな。最近のスマホゲーはこういうのがあるのか。
「深也もやる?」
「うーん、俺はあんまり」
「そっか......」
俺の微妙な返事を聞いた結梨が見るからに元気が無くなる。
「ま、まあ、たまにならな!気分転換にもなるし」
「うん!」
なんとかフォローが間に合い、さっきまでの顔が嘘のようにぱーっと笑顔になった。
良かった。やっぱり結梨には一番笑顔が似合う。
結梨が引きこもりを始めたのはちょうど2年前、中学2年生になって間もなくだ。
原因は典型的ないじめ行為。直接的な暴力はなったようだが、物を捨てられたり、汚されたりは日常茶飯事だったらしい。悪口陰口はもちろん、無視やLIMEでのさらしもあったそうだ。
どうして伝聞・推定系の表現をしているのか。
なぜならこの情報は、全て俺があとになってから知ったことだからだ。
幼馴染が苦しんでいる中、俺は能天気にも日常生活を送っていたクズだったわけだ。
しかし、今になってもなぜ彼女引きこもり先が俺の部屋だったのかよくわからない。母さんの説明では、彼女の家がシングルマザーで仕事もあり大変だから、うちで引き取ることにしたと言っていた。
でもそれもおかしいのだ。シングルマザーで大変だったのは今に始まったことではない。それが理由で娘の預けるということは、ないはずなのだ。
だからあるとすれば彼女自身の意見を尊重した結果なのだろう。
最初は何もしなかった、助けられなかった俺へのあてつけなのだと思った。
彼女が最初にうちにきていったのは「今日からここは私の部屋!」だった。あまりの酷さから、空気も読まずにジャイアンかよって言いそうになったを今でも覚えている。
けれど彼女の態度は存外やわらかく、どうにも俺を嫌っているわけでもなさそうだった。だからこそわからない、彼女はなぜここにいるんだろうか。
「そうだ、今日はお土産があるんだ」
「え?」
「ほら、新しい本。前に読んでみたいって言ってたろ?おまけで他にも適当に何冊か買ってきた」
「あの、深也。私にこういうのは......」
せっかくのプレゼントだというのに結梨申し訳なさそうに下を俯く。
「あのな、結梨。お前の生活費は、うちの母さんがお前の母親からちゃんと受け取ってる。だから遠慮することは――」
「嘘。その本は深也が自分のお金で買ってきたでしょ?」
「......」
全く、なんでこいつはこういうときだけ鋭いんだ。
「いいんだよ。これは俺がしたいことだから」
「でも......」
「それなら、後払いでもなんでもいいさ」
いつも以上に渋る結梨だが、俺はいつものようにのらりくらり躱す。今までも似たような会話はしてきた。だから今日もはぐらかして終わるつもりでいた。しかし、
「ううん、いつまでもこのままじゃダメ」
何かを決心したような顔で結梨こちらへ近づいてくる。
なんだ?ついに更正して外へ出る気にでもなったか?
「えいっ」
「むぐっ!?」
一瞬で目の前が真っ暗になる。それとともに、ふよんふよんという柔らかな感触が
顔全体を覆い尽くした。必死に顔を上げようとするが結梨ががっちりホールドしていて逃げられない。
い、息ができない!抑える結梨の腕をタップしギブだと伝える。数十秒してから俺はやっと解放された。
「お。お前なにして!」
自分でも顔が赤くなっていることがわかる。
「だって、私にはこれくらいしかお返しできないし......」
結梨自身も顔が真っ赤だ。恥ずかしそうに口元を両手で隠している。
「だ、だからって!そんな胸をあてるなんてこと!」
ああ、だめだ。自分で言っていて先ほどの感触や結梨の匂いを思い出してしまい頭がのぼせるようだ。顔見られないよう手で隠すがちゃんと隠せているのだろうか。
「深也にならいいかなって」
ぐわんと頭を何かで殴られたような衝撃が走る。
恥じらいながらはっきり口にした結梨のその言葉をきいて、俺の中で何かがきれる音がした。
結梨に迫ってその腕を取る。
「結梨!」
「は、はい!」
ピンポーン!
「「......」」
我が家のチャイムがなった。
「俺が出てくる」
正確に言うと出るのは俺しかいないのだが、そんことはどうでもいい。今はこの場から逃げ出すのが最優先だった。
出ていくときにちらりと結梨を見るが、その顔は俯いていてよくわからない。これはやっちまったかもな。
玄関の扉を開け白猫運輸から荷物を受け取る。どうやら母さんが何か頼んでいたらしい。
「あぶねー、母さんマジファインプレーだったぜ。しかし、しばらくまとも顔合わせられそうにないな」
俺の独り言が玄関に寂しく響き渡る。
こうして、何とか間違いをおかさずに済んだ俺は、とりあえず”現俺の部屋”に戻るのだった。
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