第2話

 ややあって。


 ワッフルを全部食べ終え、雪緒は爽やかなミントのハーブティーを一啜すすりした。


「おうジジイ。邪魔するぜ」


 そのとき、店のドアが乱暴に開けられ、明らかに鉄砲玉、といった風情のチンピラ5人が乱入してきた。


いている席にどうぞ」


 雪緒以外の店に居た全員が全く動じず、マスターにいたっては普通に迎え入れたため、チンピラ達は拍子抜けした。


「あぁん? お前には俺達が客に見えんのか?」

「ジジイボケてんじゃねえの?」


 勢いを付け直す様に、チンピラ達はキャンキャンマスターにみつく。


 その様子を何気なさそうに見ている客達が、懐や上着の下に手をやったり、足元のバッグを開けたりしたが、チンピラ達の中に気がつく者はいない。


「俺達はそこにいるガキに用事があんだよ」


 先頭に居るチンピラに、にらみ付けられながら指をさされ、雪緒はおびえた様子でビクッと震えた。


「見ての通り彼女は食事中だ。用事があるなら外で待っててもらえないかな?」


 笑顔を崩さないまま、マスターは威圧するチンピラ達へそう告げる。


「うるせえ! 痛い目を見てえか!」


 それにイラついたチンピラ達は、目をいてそう叫びながら、柄物のスーツの懐に手を入れた。


「やれやれ。ここがどういう所か分かっていない様だ」


 深々とマスターがため息を吐いたと同時に、店内の客が一斉に銃やら吹き矢やらボウガンやら投げナイフを取り出し、粗悪品の拳銃を抜いたチンピラへと放った。


「ほへ……?」


 それらは先頭にいた男以外、全員の急所に命中しバタバタ一斉に倒れた。ちなみに彼の手の拳銃は、スライドが弾丸を受けてへしゃげ、ただの文鎮になっていた。


「君にはじーっくり聞きたいことがあるから、大人しくしていてくれよ」


 口だけ笑いながら、マスターがチンピラへそう言うと同時に、明らかにカタギではない黒服が複数店に入ってきて、あんぐりとしている彼を外へ連行していった。


 安全が確保された事を確認し、客の殺し屋達が得物をしまった所で、カウンターの切れ間に雪緒を抱えて転がり込んだ蜂須賀がゆっくりと出てきた。


「見ない方が良い」

「はい……」


 腕の中の雪緒は、身をぎゅっと縮こまらせてガタガタ震えていた。


 そうやって蜂須賀が雪緒のケアをしたり、殺し屋達が自分達が仕留めたチンピラを外に引きずり出す中、


「へい、マスター。『掃除屋そうじや』をご用命ならすぐ手配するぜ」

「ウチに請求しないでくれよ」

「安心しな。あれらの親玉んところからかっぱらっとく」

「そりゃありがたい」


 秘書の女性と来ていた、商魂たくましい『掃除屋』の『社長』が、すかさず伝票を手にマスターへ営業していた。


「ああやっていっつも持ってんのかよ……」

「はい。いつ仕事が湧いて出るかわかりませんので」

 

 ウェストポーチに偽装したヒップホルスターを身に付ける、二丁拳銃の殺し屋少女に呆れた様子で訊かれ、秘書は苦笑してそう答えた。

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