第二十四話 管理者リッチとの対決 その二

俺が、コープススパイダーを倒してからは、問題無く進軍を続けていた。

途中、バンシーに遭遇した所で、隊列が乱れたが、治癒部隊総出で浄化の魔法を掛けて、一気に蹴散らしていたのは凄かった。

Bランクの魔物でも、二百名から一斉に魔法を掛けられては、なす術も無かったようだな・・・。

そして日が傾き始めた頃、遠くにリッチの城が目視できる場所まで来た所で進軍を停止し、キャンプする事となった。

しかし、この様な場所に大軍を率いて来ていれば、リッチも黙ってはいないのでは無いだろうか?

夜中に襲われては、大被害を被る事になるな。

そう思いながら、テントの中で、エアリーと就寝に着いた。

しかし、俺の心配は杞憂に終わり、無事朝を迎えた。

俺とエアリー、それと勇者、ヴァームス、アリーヌの五人は、軍団長のテントを訪れていた。

「勇者様には、今日リッチの城へと攻め込んで頂く!

先程、斥候が持ち帰った情報によると、リッチの城の前に、普段いる筈の無いドラゴンゾンビが鎮座しておるそうだ!」

軍団長がドラゴンゾンビと言った所で、周囲の隊長達がざわめきだした。

勇者は堂々としているが、あれはドラゴンゾンビがどういった魔物なのか知らないのだろう。

俺は、ドラゴンゾンビと聞いて動揺した。

ドラゴンゾンビはAランクの魔物で、ここ数百年倒された記録は残っていない。

アベルでさえ、逃げたそうだからな。

アベルにどうして倒さなかったと聞いた時、帰って来た言葉が、倒しても魔石しか手に入らず、ドラゴンゾンビの腐食ブレスを食らうと、装備が破壊されて赤字になるからだと教えられた。

冒険者ギルドでも、戦わないことを推奨されていたくらいだからな・・・。

俺は管理者と戦う前から、逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。

「皆の心配も分かる、それだけ勇者様を脅威と見ておるのだろう!」

「うむ、その通りだ、俺がドラゴンゾンビも簡単に倒してくれよう!」

勇者は胸を張って答えていたが、俺はレッドドレイクの時のように手助けはしないと、心に誓った。

「さすがは勇者様!頼もしい限りだ、しかし、ドラゴンゾンビは軍が担当しようと思う。

軍でドラゴンゾンビを引き付けて置きますので、勇者様は飛行魔法で一気に城に攻め込んで下され!」

「ふむ、分かった、軍団長の作戦で行くとしよう!」

ドラゴンゾンビの相手はしなくて良くなったが、軍がドラゴンゾンビを倒せなかった場合、俺達は城から出られないんじゃないのか?

リッチが倒せなかった時の事を、全く考慮していない作戦だな・・・。

それなら、多少苦労しても、ドラゴンゾンビを倒してから城に入った方が、安心できるのだが・・・。

まぁ、既に決定された事で、俺が何か言って意見が変わる様な物では無いな。

すでに、ドラゴンゾンビをどの様に陽動するか、隊長達の間で作戦会議が行われている。

でも、俺がやる事は、エアリーと共に生きて帰る事だ!

「では諸君、我々の任務を遂行し!必ずやこの地を取り戻すぞ!」

「「「おおぉ!」」」

軍団長が締めて、作戦会議が終了となった。

俺はテントを出て、勇者と共に行動している。

今日も前線に出て、治癒部隊と共に行動した方が良かったのだが、そう言う訳には行かないよな・・・。

「いよいよ俺様の力を、魔族に見せつける時が来た!

お前達も気を抜くんじゃないぞ!」

勇者は張り切って気合を入れていた。

ヴァームスもやや緊張している物の、やる気十分の様子だ。

アリーヌも、今日はいつもより真剣な表情で、勇者を見ている。

エアリーは、戦いを前にしてガチガチに緊張している。

俺はエアリーの手をそっと握って、力ずよく言葉を掛けた。

「大丈夫、俺が絶対守りますから!」

「はい、私も頑張ります!」

エアリーは、しっかりを俺を見ていた。

エアリーの目からは恐怖に怯えている様な感じはしない、これなら大丈夫だろう。

それから、軍の進軍が始まり、一時間ほどでリッチの城の前五百メートル地点に、陣形を整えた。

「勇者様、これより、軍によるドラゴンゾンビへの攻撃を開始します。

勇者様に置かれましては、隙を見て、城へ侵入ください!」

「うむ、分かった!」

軍の伝令が、勇者にドラゴンゾンビへの攻撃を知らせて来た。

「行くぞ!」

まだ軍が攻撃を開始していないにもかかわらず、勇者が飛びあがり、ヴァームス、アリーヌと続いて行く。

エアリーがどうしようかと、俺の顔を見て来ている。

「行きますか」

「はい」

仕方なく俺とエアリーも飛びあがり、勇者の後を追って行く。

上空へ上がると、リッチの城とドラゴンゾンビの姿がとてもよく見えた。

「大きいですね・・・」

エアリーはドラゴンゾンビの大きさに、驚いていた。

「この前倒したレッドドレイクの、二倍はありそうだ」

流石に俺も、あの大きさには驚いてしまった。

ドラゴンゾンビを陽動する兵士達は、無事だと良いのだが・・・。

しかし、リッチの城は、意外と綺麗なものだな。

俺の想像だと、廃墟をイメージしていたのだが、そのような事は全くなかった。

全体的に黒いので、不気味と言えばその通りなのだが。

見た目は城と言うより、塔に近い感じだろうか。

上に高く突き抜けた尖塔が特徴的だ。

上空から見た感じでは、入り口は下にしか無い様だな・・・。

俺達が上空に上がってからしばらくして、軍が配置に着いたようで攻撃を開始した。

攻撃と言っても、遠距離から弓と魔法撃ち込んでいるだけだ。

しかし、ドラゴンゾンビには、軍の攻撃は全く効いて無いようで、悠然と立ち尽くしていた。

それでも軍は攻撃の手を緩めず、攻撃を続けていた・・・。

ドラゴンゾンビもいい加減うざかったのだろう、口を開いたかと思うと、ドラゴンブレスを軍に向け撃ち出した!

ドラゴンブレスをまともに受けた軍を心配したが、障壁を張って耐え抜いた様だ。

しかし、長引けば、いずれ軍はドラゴンゾンビに蹂躙されるのは目に見えている。

今は、ドラゴンゾンビも動かず対応しているが、その巨体で軍に攻め込めば、障壁もろとも押しつぶされるだろうからな。

もうしばらく様子を見るしかないか。

そう思っていた時、しびれを切らした勇者が、俺の所にやって来た。

「おい、お前が行ってドラゴンゾンビを誘き出してこい!」

「あぁ?」

俺は勇者を睨みつけたが、よく考えてみると、ドラゴンゾンビの相手をしていれば、リッチの城に乗り込む必要は無くなるな・・・。

「・・・分かった、行って来るが、エアリーさんも連れて行くぞ!」

「勝手にしろ!」

勇者は俺から離れて、ヴァームスとアリーヌの所へと戻って行った。

「エアリーさんは、軍が配置している後方に行っていてくれ」

「マティーさんは、大丈夫なのですか?」

「大丈夫、何とかなるよ、軍の人達を見捨てる訳にはいかないからね」

「そうですね、マティーさん、皆様を守ってあげてください」

この二日間、エアリーと共に軍と行動していたから、あの人たちを見捨てたくは無いのは、エアリーも同じ気持ちのようだ。

俺は軍が配置している所から、少し離れた所に降り立った。

ここなら、呪文の圧縮を使っても、誰にも気づかれないだろう。

「よしっ!」

俺は気合を入れ、杖と剣を構えて、シャル直伝の呪文を唱えた。

「力、炎、矢、ファイヤーアロー!」

杖で威力を底上げされた火の矢は、ドラゴンゾンビの頭に命中した!

「ぐおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

地の底から響いてきたような、恐ろし声でドラゴンゾンビが吠えた!

効いたのか?

俺がそう思っていると、ドラゴンゾンビはこちらに顔を向け、ぎろりと睨みつけ、次の瞬間、俺に向けてドラゴンブレスを吐き出してきた!

「大地、力、障壁、ストーンウォール」

俺の前にストーンウォールを出し、ドラゴンブレスを受け止めた。

装備は貰いものだが、せっかくいい物を貰ったのに、ブレスを受けて失いたくはない。

俺はドラゴンブレスが終わるのを待って、次の魔法を次々と撃ち出して行った。

「大地、力、敵!ストーンショット!」

「大地、力、敵!ストーンショット!」

「大地、力、敵!ストーンショット!」

・・・。

頭への攻撃はさすがに避けられたので、首から下の胴体へと十発ほど撃ち込んだ。

それを食らったドラゴンゾンビは多少怯んだものの、たいして効いているような感じではないな・・・。

あれだ、ゴ〇ラに自衛〇が攻撃しているような感じ・・・。

今まで魔物と戦って来て、それなりに自分の魔法の威力に自信を持っていたのだが、あの大きさの魔物に対して、初級魔法ではまったく意味がない気がする。

かといって上級魔法なら効くのかと問われても、あまり効果が無いようにも思う。

となれば、物理攻撃になるのだが、この剣で斬りつけても意味がないな・・・。

まぁ、俺の役目としては、ドラゴンゾンビを誘き出す事で、倒す事では無いよな。

そう思い、再び魔法で攻撃しようと思っていた所で、ドラゴンゾンビに動きがあった。

ズシンッ!

ドラゴンゾンビは大きな地響きを上げ、俺に向かって来ていた!

やばい!意外と早いぞ!

俺は飛行の魔道具を使い、上空へと退避したが、逃げた先にドラゴンブレスが襲い掛かって来た!

くそっ!

「聖、光、守り、ホーリーシールド!」

呪文が完成し、障壁が俺を包み込むと同時に、ドラゴンブレスが障壁に当たった。

ビリビリと障壁が、激しく振動している・・・。

何とか間に合ったが、ドラゴンブレスが終わるまで耐えてくれるのを祈るしかない!

しかし、ドラゴンゾンビが俺の所まで来たから、勇者達はこの隙に城に入って行けるだろう。

障壁は何とか持ちこたえ、ドラゴンブレスで遮られていた視界が晴れた。

ドラゴンゾンビは、こちらを見上げたままだが、続けてブレスを吐いてい来る気配は無いな。

勇者達は・・・動いて無いな、何やってんだよ!

遠くに見えた勇者の表情は、笑っているように思える・・・。

俺が苦戦しているのを見て、楽しんでいる様だな。

「くそっ!」

あの勇者は、本当にどうしようもない馬鹿だな!

軍の方は再び、弓と魔法で攻撃を開始している様だが、ドラゴンゾンビにダメージを与える事には至っていない。

しかし、それも続けていると、再び軍の方にドラゴンゾンビが向かって行ってしまうな。

俺は再び地上に降りて、ドラゴンゾンビと対峙した。

飛行の魔道具は、発動させたままなので、何時でも逃げる事は可能だ。

俺が呪文を唱えると、ドラゴンゾンビも間合いを詰めて来て、爪を振りかぶって来た!

俺はそれを躱し、魔法を撃ち込むと、次に尻尾が素早くすり抜けて行った。

俺は尻尾を何とか躱したのだが、その衝撃は凄まじく、地面に叩きつけられてしまった。

「ぐあっ!」

背中からまともに落ちたため、かなりの痛みが体中を走った・・・。

しかし、すぐに浮き上がり、ドラゴンゾンビと距離を取る事に成功した。

飛行の魔道具を起動していなかったら、ドラゴンゾンビに踏みつぶされていたな・・・。

「女神、力、癒し、ライトヒール!」

痛みが魔法によって引いて行く・・・。

あの尻尾の攻撃はヤバいな。当たったら間違いなく即死するだろう。

しかも、尻尾を振り回した際に出る衝撃波だけでも、かなりの勢いで吹き飛ばされてしまったからな。

何とかしないと、近寄る事は出来ないぞ・・・。

今だに勇者は、空に浮かんだまま動いていない。

くそ勇者め・・・。

どうせ俺が死なないか、期待して見ているのだろう。

あっ、勇者で思い出した。

敵の魔力を抑える魔導具があったんだった。

俺は早速、ドラゴンゾンビに向け使って見た。

魔導具の発動と共に、ドラゴンゾンビの強大な魔力が急激に下がったのを感じ取れた。

ドラゴンゾンビも、自身の体に何が起ったのかと、とても驚いている様子だ。

ぼーっと見ていないで、今の内に攻撃しないと・・・。

しかし、魔力を押さえ込んだだけで、ドラゴンゾンビの防御力が落ちた訳では無い。

「ぐぉおおおおおおおぉぉぉ!」

俺が考えていると、ドラゴンゾンビは雄叫びを上げ、俺に向けて突進してきた。

先程までの速さは無いものの、それでも巨体が動く速さは、人なんかを比べられる物では無い。

俺は横に飛んで躱すと、案の定尻尾の攻撃が来た!

俺は上に飛んで尻尾を躱した、先程までの衝撃波は無いな。

「力、炎、矢、ファイヤーアロー!」

ドラゴンゾンビは、尻尾を振り回した事により、後ろを向いているので、首に向け炎の矢を連続で撃ち出した。

「ぎゃおおおおおぉぉぉ!」

ドラゴンゾンビは先程とは違った雄叫びを上げ、こちらに振り向き、ドラゴンブレスを放って来た。

「聖、光、守り、ホーリーシールド!」

ドラゴンブレスが、俺の障壁に当たってはいるが、先ほどまでの威力は無さそうだな。

やはり、魔力を抑えられた効果が出ていると言う事だろう。

それに、先ほどの攻撃も効いているようだし、もう少し首から上を狙って、魔法攻撃を続けてみよう。

それからしばらく俺の魔法と、ドラゴンゾンビのブレス攻撃の応酬となった。

ドラゴンゾンビも動きが鈍くなったころで、俺の飛行の魔道具での移動を捕らえられず、苦肉の策としてブレスを撃っているだけだ。

魔力が抑えられていなければ、より早く動き、更に飛び立つ事も出来ただろう。

あの巨体が翼の揚力で浮くはずもなく、魔力によって飛ぶのだろうから、魔力を抑えられた後となっては、ドラゴンゾンビに成す術はない。

かといって、俺も魔法で致命傷を与えられている訳では無く、精々傷を作り続けているだけなのだが、それでも着実にドラゴンゾンビは弱って来ている。

勇者もまだこちらの様子を窺っているし、軍も俺が戦い始めてから、ドラゴンゾンビに手を出してこなくなった。

軍に関しては、攻撃してくれなくなって、こちらとしては助かってはいるが、勇者は早く城に潜り込めと言いたい!

今はまだ、リッチの城から、ドラゴンゾンビの救援に誰かが出て来るような事は無いが、そうなっては、ここまでドラゴンゾンビを弱らせた意味が無くなってしまう。

そして、いよいよ、俺がドラゴンゾンビをあと少しで倒せると思った所で、勇者たちが乱入して来て、ドラゴンゾンビを倒してしまった・・・。

本当にふざけた野郎だな!

今日リッチに殺されればいいのに!

勇者は、倒したドラゴンゾンビの体の上に乗り、剣を高々と掲げていた。

「俺様が勇者だ!リッチも倒してくるから、期待して待っていろ!」

「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉー」」」

勇者が堂々と宣言すると、軍の方から大きな歓声が巻き起こった。

そして勇者はヴァームスとアリーヌを連れ、リッチの城へと飛んで行った。

「マティーさん、お怪我はありませんか?」

俺が茫然と立ち尽くしていると、エアリーが心配そうな表情で近寄ってきてくれた。

「エアリーさん、俺は大丈夫です、それより俺達も城に向かいましょう」

「はい、分かりました」

俺とエアリーも、勇者たちを追って、リッチの城へと向かって行った。


城の玄関に降り立つと、そこにはまだ勇者たちが、まだ中に入らず立ち尽くしていた。

「やっと来たか」

勇者は俺が来たのを確認すると、つかつかと歩み寄って来た。

「いいか!この先絶対、俺様の邪魔するんじゃねーぞ!分かったか!」

「分かった、俺は手を出さないし、お前を助ける事もしない!」

「ふんっ!」

勇者は俺にそれだけ言うと、ヴァームスとアリーヌを連れて、城の中に入って行った。

「エアリーさん、これより先、私から決して離れないでください!」

「はい、マティーさん、お願いします・・・」

エアリーも感じているのだろう、城に近づいた時からリッチの強大な魔力を・・・。

エアリーは、膝をがくがく揺らして恐怖に怯えている。

俺も恐怖を感じてはいるが、それで動けないという訳では無い。

日々、アベルの殺気を感じて訓練していたおかげで、恐怖に身がすくんでしまう事が無いのは非常にありがたかった。

そうならないために、アベルはあのような訓練をしてくれたのだろう。

「手を繋いでおきますね!」

俺は杖を収納し、左手でエアリーと手を繋いだ。

「あっ、ありがとうございます」

エアリーは、突然握られた手に驚いた様子だったが、抵抗は無く、逆に力強く握り返してきてくれた。

俺は手にエアリーの温かさを感じ、必ず守り通すと心に誓って、大きく開かれた城門を抜け、城の中へと入って行った。

城の中には、魔物の姿は無く、閑散としていた。

しかし、薄暗い内部の様子は、いつどこから敵が攻撃してくるか分からない不気味さを感じる。

そんな中、勇者たちは堂々と城の廊下を歩き、奥にある大きな扉の前へとたどり着いていた。

俺もエアリーを連れて、急いで勇者たちの追いついた。

ヴァームスが扉を開き、勇者は躊躇なく部屋の中に入って行き、俺達もそれに続けて部屋の中へと急いだ。

大きな扉の部屋のなかは、巨大な円形の広間となったおり、一番奥に玉座と思われる物と、その奥に扉を見受けられた。

玉座には、剣と盾を構え、立派な鎧を着たスケルトンナイトが鎮座していた。

勇者が広間の中央へと歩いて行くと、スケルトンナイトが玉座より立ち上がり、数歩前に出て来た。

「我が名はガイスト・・・先へ進みたくば、我を倒して行くがいい!」

「スケルトンが話をするだと!」

勇者はとても驚いていた、いや、全員が驚いているな。

俺も流石に、スケルトンナイトが会話をするとは思っていなかったので、驚いてしまった。

「まぁいい、俺様は勇者だ!魔族は倒すのみ!」

勇者は問答無用に、剣を構えて、スケルトンナイトとの間合いを一気に詰め、切りかかって行った。

ヴァームスも、勇者がいきなり攻撃を仕掛けるとは思っていなかったようで、出遅れている。

ガン!キン!ガン!キン!

勇者とガイストは、激しい攻防を繰り広げていたが、剣と盾を巧みに扱っているガイストの方に分があるようで、両手剣を振り回している勇者は押されていた。

「その程度か?」

ガイストは、骨をカラカラと鳴らして、勇者の事を笑っていた。

「はっ!今のは様子見だ、ここからが本番だ!」

勇者はニヤリと笑い、ガイストに向け、魔力を抑える魔道具を使用した。

「貴様、何をした!」

ガイストは、自分の置かれた状況に驚いていた。

「さぁな、行くぞ!」

勇者は容赦なく剣を振り下ろすと、それを盾で受け止めたガイストは勇者に力で負け、後ろにズサーッと飛ばされてしまった。

「ぬおっ!」

ガイストは態勢を整え、次の勇者の攻撃に備えていた。

そこに、ヴァームスも加わり、二対一でガイストへと攻撃を開始し始めた。

ガイストは、二人の攻撃を盾と剣で斬用に受け流し凌いでいるが、広間の隅へ徐々に押し込まれて行った。

「これで終わりだ!」

勇者とヴァームスが、壁際に追い込んだガイストに向け、同時に切りかかって行った。

俺も終わったかと思ったが、ガイストは盾出剣を受け流し、くるりと体を一回転させ器用に勇者の背後に回り込み、勇者の背中に一撃を食らわせた!

「ぐあっ!」

勇者は前のめりに倒れ、ヴァームスがそれを守るようにガイストと勇者の間に割り込み、ガイストの攻撃を受け止めていた。

「ラウドリッグ!」

アリーヌが悲鳴を上げ、勇者の心配をしているようだが、勇者のダメージは大した事は無いだろう。

ガイストの立ち回りは見事だったが、あまり力の入った攻撃には見えなかったし、それに、勇者が着ている防具は優れているからな・・・。

勇者もすぐさま起き上がり、ヴァームスの横に並んだ。

「くそっ!、もう容赦はしねぇ!」

「そうか、今まで手加減をしていてくれたのか?」

ガイストは勇者をコケにして笑っていた。

状況的には、ガイストの方がかなり厳しいと思われるが、それは魔力を抑えられているからであって、ガイストが持つ技量は、二人を大幅に超えているのは分かる。

魔力を抑えられていなければ、勇者たちに負ける事は無いだろう。

そう思っていたのだが、ガイストは盾を捨て、剣を両手に持って構えなおしていた。

「こちらも本気を出そう!」

「スケルトンの分際で何を偉そうに、ヴァームス、奴に止めを刺すぞ!」

「おう!」

勇者とヴァームスは、息を合わせてガイストに襲い掛かって行った。

この二人のコンビ、中々息があっていて、二人そろっている状態ではかなり強いと思う。

勇者が攻撃し、その隙を埋める様に、ヴァームスが続いて行く。

だが、その息の合った攻撃を、ガイストは全て体術で躱し、勇者に一撃を入れている。

魔力を抑えられたい状態で、決して動きは早くないガイストであったが、まるで攻撃を読んでいるかの様に、二人の剣を躱して、勇者にのみ剣で斬り付けて行った。

ただ、ガイストの攻撃は、防具を貫く様な威力は無く、勇者に致命傷を与えるまでには至って無かった。

「はぁはぁ、どうして当たらん!」

「はぁはぁ、分からん・・・」

勇者とヴァームスは、攻撃を躱され続けた事で、肩で大きく息をするくらいに疲れ果ててしまっていた。

空振りは、かなり体力を消耗するんだよな・・・。

俺も訓練時に、アベルとシャルに攻撃を当てられなくて、とても疲れた事を思い出していた。

アベルから、「そんなに大振りするマティーが悪い!」と叱られたが、当たらないと焦って大振りになってしまうんだよな・・・。

一方、魔力を押さえ込まれたガイストは、全く疲れた様子は見受けられなかった。

まぁ、スケルトンナイトだから、呼吸なんか必要無いよな・・・。

「ふむ、もう疲れてしまったのか、では止めを刺させて貰おうか!」

ガイストは、一気に二人との間合いを詰め、勇者の胸に剣を突き入れた!

「っっっっ!!」

勇者は声にならない叫びをあげ、後方に吹き飛ばされて倒れ込んだ。

「ラウドリッグ!」

アリーヌが悲鳴を上げて、勇者に駆け寄って行った。

「おのれ!」

ヴァームスは、勇者がやられた事で冷静さを失い、怒りに任せて攻撃を仕掛けて行った。

「その様な剣では、俺には届かんぞ!」

ガイストは、ヴァームスの大振りの剣を軽々と躱し、懐に入り込んで剣を振りぬいた!

「ごふっ!」

ヴァームスは、腹部を強打された事により、前のめりに倒れ込んで動かなくなってしまった。

アリーヌは、必死に勇者を守る様に、弓を構えて、これ以上勇者に攻撃されない様立ち塞がっていた。

ガイストは、倒れてしまった勇者やヴァームスには、追撃を仕掛けるつもりは無い様子で、俺の方を向き話しかけて来た。

「お前は戦わぬのか?」

「俺は手出しを禁止されているからな」

「それは残念だ、この中で一番強いのがお前だと思うのだがな?」

ガイストは、勇者達なんかより、余程人を見る目があるようだ・・・。

とは言え、このまま倒された勇者とヴァームスを連れて外に逃げ出した所で、勇者が元気になれば、また再びここに攻め込むと言い出すのは目に見えているな・・・。

「と言いたい所だが、俺も貴方とは戦って見たい、一つ手合わせをお願いできるだろうか?」

「ふはははっ、いいだろう、構えよ、相手になってやろう!」

ガイストは、俺が構えるのを待ってくれている。

「エアリーさん、すみませんが少し下がっていてください」

「はい、マティーさん、お気を付けて!」

少し、いや、かなり寂しいが、エアリーと繋いでいた手を放し、杖を取り出し左手に構えた。

「ほう、剣と杖を使うのか?」

「はい、私は魔法使いですからね、では行きます!」

「来い!」

俺は右手に持った剣を構えて、ガイストとの間合いを素早く詰めて斬りかかって行った、

ガキン!

ガイストは先程とは違って、俺の剣を受け止めていた。

「ふむ、やはり先程の者達より早いな」

「そう言う貴方こそ、無駄がなく素早いではありませんか!」

俺は後ろに飛び、いったん間合いを開け、再び斬りかかって行った。

ギン、ギン、ギン、ギン、ギン!

連続で斬りかかった剣は、全て受け止められてしまった。

ガイストの剣は、アベルとは剣筋とは違うが、基本に忠実な正しい剣といった感じだろうか。

恐らく生前は、立派な騎士だったのだろう。

俺は、それから暫くの間、ガイストとの戦いを楽しんでいた。

ガイストも、戦いの最中骨の顎が上がり、ニヤリと笑っているかのようだった。

何故楽しんでいるかと言うと、ガイストの剣には、全く殺気が籠っていないからだ。

勇者とヴァームスの時にも、殺気が籠って無いかったからな。

当然、勇者とヴァームスは倒されはしたが、死んではいない。

暫く撃ち合いを続けた後、ガイストが大きく距離を離し、剣を鞘に納めた。

「なかなか楽しい時間であった、しかし、それもここまでの様だ」

「と言うと?」

「主が呼んでおるのでな、また相まみえる事があれば、次は本気でやり合いたいものだ、ではさらばだ!」

ガイストは盾を拾い上げ、奥の扉からこの部屋を出て行ってしまった。

俺も魔法は一切使っていなかったし、本気でガイストを倒そうとは思っていなかったからな。

本気でやれば、魔力を抑えられたガイストを倒す事は可能だっただろう。

だが、それをやるメリットが俺には無いからな・・・。

倒した所で、戦いたくはないリッチとの戦いに近づくだけだし、適当に攻撃を食らって、わざと負けるつもりだったからな。

しかし、なぜリッチは、ガイストを呼び戻したのだろう?

もしかして、リッチ自ら戦うためにガイストを下げた?

それだと最悪だな・・・。

ガイストが居なくなったので、後ろを振り向き、勇者とヴァームスの状況を確認すると、エアリーから回復魔法を掛けられている所だった。

気を失っているだけだから、回復魔法は必要無いとは思うけど、エアリーは真剣な表情で呪文を唱えているな。

エアリーから回復魔法を掛けられた二人は、しばらくすると目を覚まして起き上がって来た。

「アリーヌ、敵は何処に行った?」

勇者は、傍に心配そうに寄り添っているアリーヌに問いかけた。

「ラウドリッグ、敵は奥の扉から逃げて行ったよ!」

「そうか、なら追いかけて、今度こそ倒してやるぞ!」

勇者は、心配しているアリーヌの事など気にもかけないで、奥の扉へと歩き出そうとした。

それを、ヴァームスが腕を掴んで止めた。

「ラウドリッグ、待て!」

「何故止める!」

「少し作戦を考えよう、このまま進んでもまた倒されてしまうぞ!」

やや強めに、ヴァームスが勇者に訴えかけた。

ヴァームス自身も倒された事から、慎重になった様だな。

「作戦?そんなもん勇者の俺様に必要などあるか!」

勇者は、ヴァームスの意見を一蹴したが、真剣な表情でじっと勇者を睨むヴァームスの迫力に押されて、それ以上言葉を続ける事が出来なかった。

「・・・分かってくれたか?」

「・・・分かった」

勇者は渋々、ヴァームスの意見に賛成した。

「では、皆集まってくれ」

ヴァームスが、俺達に集まる様に指示を出して来た。

勇者は俺に声を掛けた事に不満な様子だったが、睨んでくるだけで文句を言われる事は無かった。

「作戦についてだが・・・」

ヴァームスが、そう話を切り出した所で、今まで巨大な魔力で威圧されていたのが、ふっと消えて無くなってしまった。

「っ!」

皆もその事に気が付いたのか、少し驚いている様子だ。

「これはどういう事だ?」

ヴァームスが俺に尋ねて来たが、俺は分からないと首を横に振った。

「確認しに行くぞ!」

「ラウドリッグ、待ってぇ!」

勇者がヴァームスを振り切って奥の扉へと向かって行き、アリーヌも追いかけて行った。

「仕方ない、マティルスも着いて来てくれ!」

「分かった」

ヴァームスは俺に着いて来るよう頼んで、勇者を追いかけて行った。

「エアリーさん、行きましょう!」

「はい!」

エアリーの手を握り、俺達も勇者の後を追いかけて行った。

扉の奥は階段となっており、登り切った所にも扉があって、それを開け中に入ると、一階にあったような大きな広間へと出た。

そして、奥には玉座と扉があり、その扉の後ろには階段と言う同じ作りになっていた。

その後も、同じような広間が、三回ほど続き、五階の位置まで上り詰めると、豪華な部屋に今までで一番豪華な玉座が据えられていた。

恐らくここが、リッチの部屋だったのだろう。

奥の扉は、寝室へとつながっており、生活感が溢れた場所となっていた。

勇者は何故か玉座へと座り、高らかに笑っていた。

「わははははは、俺様に恐怖して逃げ出したのだな!」

それは無いと、突っ込みを入れたかったが、リッチが逃げ出したのは確かな様だった。

この城から、敵の魔力を全く感じられなくなっているからな。

ここまで登って来る間も、敵を全く見なかったし、ガイストの魔力も感じられなくなっていたからな。

しかし、リッチはなぜ逃げ出したのか?

まさか、本当に勇者に恐れをなしたとか無いよな・・・。

いや、それは無いだろう、実際ガイストが勇者を倒したわけだしな。

よく分からないが、リッチと戦わずしてよかったと、今は思う事にしておこう。

「皆よく聞け!リッチは俺様が倒した!いいな!」

勇者は一人ずつ睨みつけて見渡した。

「分かった」

「分かったよ」

ヴァームスとアリーヌは頷いていた。

エアリーは、どうしていいのか分からずに、俺の方を見ていた。

リッチが逃げたと俺が主張した所で、女神教の奴らは信じてはくれないだろうな・・・。

勇者の手柄となるのは癪だが、従うしかない。

「分かった・・・」

「はい、分かりました!」

俺が納得した事で、エアリーも勇者に返事をし、それを聞いた勇者は玉座にふんぞり返り、偉そうにしていた。

ちょっとムカついたが、あいつの顔を立てて置けば、俺に面倒ごとが降りかかって来る事は無いだろう・・・。

「ラウドリッグ、何時までもここにいても仕方がない、軍に報告に行こう」

「ふむ、そうだな、報告して、さっさと帰る事にしよう!」

ヴァームスが促すと、勇者は玉座より立ち上がり、階段のほうに歩いて行った。

俺達もその後に続き、玉座の間を出て下へと階段を下りて行った。

リッチの城から出て、軍がいる場所へと戻った勇者は、リッチを倒したと報告をした。

「俺様がリッチを倒したぞ!!」

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」

兵士達から歓声が沸き、勇者は盛大に称えられていた。

その後、軍団長のジャレッジに報告をし、軍にこの城の管理を任せた後、俺達はネフィラス神聖国へと帰る事となった。

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