古き野篇

文川

宵闇の聖女

1, 1

 古き野の大地には、数多の奉神まつりがみが住まう。秩序、中庸、放埓ほうらつの三つのことわりを以て三方さんぽうと為し、いずれかの方位に座して、大地に約定やくじょうを投げかけている。

 戒律に則し、聖句を心魄しんぱくに宿して、奉神まつりがみより祈祷の力を授かる者を使徒とい、その位階の天奧てんおうには聖女をいただいて飾る。聖女は、約定にそくされながらおのれのはらが朽ちるまで、祈りの日々に自らのせいを費やして過ごす。

 ただ神意じんいひらけば、奉神まつりがみ現身うつしみとして、聖女はしろたる力を振るわなければならない。遠路を徒歩かちき、落陽の中、銀旗ぎんきを掲げる聖柱みはしらの軍勢を、宵闇の聖女は鉄冠てつかんむりの備える遠見とおみ巫呪ふじゅの力で見つめていた。

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