そして新たな因縁ができる

「……なんだと?」


 思いもよらない爆弾発言。白木さんはそう言って自分のポシェットをゴソゴソと探り、中からビニールに包まれた何かを取り出して俺に見せてきた。

 よく見るとなにか白い液体が入っている。


「……なにこれ」


「え、ええと、池谷君の家のごみから発見した、使用済みのサカキオリジナルらしきもの、です」


「ぶふぉっ!!!」


 まるで、じゃなくて完璧にストーカーだった。生ゴミが出てくるとは予想外すぎてもうね。


「きったねーな!!! そんなもん漁ってまで手に入れて後生大事に持ち歩くなよ!」


「え、でも、必要な物証ですし……」


「もう腐ってんじゃねえのか中身が」


「はい、少し黄ばんできました」


「捨てろ!!!」


 俺がその生ごみを取り上げようとすると、白木さんは逃れるようにベンチから離れた。


「だ、ダメです。これはあげません」


「ほしくねえよ、捨てるんだよ! 小学生ならエンガチョもんだぞそれ!」


「そ、そうですね。中に入っている液体はともかく、外側にはおそらく吉岡さんのラブなジュースがついてますから、ばっちいのはばっちいのですが」


「…………」


 不覚にも半分そそりたってしまった俺は、逃げた白木さんを追うためにベンチから立ち上がれなかった。


「……すまなかった。ばっちくても大事な物証だもんな。大事に保管してくれ」


「は、はい。あとはこの中身を、DNA鑑定にかければ万事解決……」


「かなり本格的!?」


「……なんですけど、鑑定料にお高い万円かかるらしくて、お金が足りません」


「……世知辛い世の中だよなあ……」


「はい」


 二人でため息をつく。現実という壁が押し寄せてきた。だってねえ、諭吉さん複数枚といえば俺の小遣い一年分ですよ? なんでそんな大金を、俺が悪いわけでもないのに浮気の証明に使わなくちゃならんのよ。


「となると、やっぱり……ザ・浮気現場、みたいな画像とかを撮るのが一番手っ取り早い証明なのかな」


「は、はい、わたしもそう思います。こんなことなら池谷君の家を見つめていた時に、写真の一枚でも撮ればよかったです」


 俺が代替案を出すと、同意しつつも後悔する白木さんのつぶやきが新たな疑問を生み出した。


「なんで撮らなかったのよ?」


「ストーキング途中でスマートフォンの電源が切れちゃいまして……」


「あー、ついにストーキング認めちゃったか―」


「その時は残念ながら充電器をもっていなかったので」


 スルーすんな。


「でもさ、もしかするとまだチャンスはあるんじゃないの?」


「……チャンス、ですか?」


「ああ。池谷と佳世の浮気現場を取り押さえるチャンス」


「そ、そうですよね。話を聞く限り、十代の性欲なんて無尽蔵ですから、きっとまた……」


「……」


「……」


「……ムカつくな」


「……はい」


 話しておきながら、お互い恋人が浮気しているという事実を再認識したせいか、怒りが込み上げてきたようで。

 白木さんは膝の上に置いた両手をギュッと握りしめながら、少し震えていた。せつなそうに、悲しそうに、情けなさそうに。


 そう言う俺も正直大声で叫びたいくらいだ。それが我慢できたのは、隣に白木さんがいるおかげだろう。


 リーンゴーン。

 そのまま無言でいると、やがて昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。


「……取りあえず、お互いに相手の動向を探ってみよう。よければ今日の放課後、またここで落ちあわないか?」


「は、はい。わかりました」


 頭を冷やして問題に立ち向かうほうが得策かもしれない。少し時間を置くのは間違いではないだろう。だが、放っておくのも不可能なので、可及的速やかに物事を解決すべく俺がそう提案すると、白木さんも同意してくれた。


 お互いのシイッターのアカウントを教えあい、ダイレクトメッセージでいつでも連絡できるようにして、昼休みは終わりを告げた。

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