第19話 伝えたいもの

「覚悟は決まった?」

 月明かりを背に、ユキさんは慈愛に満ちた顔で微笑んだ。やはり、ユキさんは僕を待っていた。自分で決めろと。ソファーには毛布とクッションがあった。寝ようと思えば、リビングでも寝られただろう。

「…………はい」

「おいで」

 ユキさんのおいで、が大好きだ。すべてを委ねてしまいたくなる。

「ふう……」

 薄い布一枚に重なる熱は、いつもよりも温度が高い気がした。

「ソラちゃんは……」

「俺のベッドか、あそこが寝床」

 空気を読むのが本当に上手な猫だ。ベッドに近づこうともしない。

「ユキさんって、僕のどこを好きになったんですか?」

「いきなりだねえ」

「救われたって話は聞きましたけど……気になる」

「んー…………」

 僕のパジャマのボタンを外していく。話ながらだと、変な緊張はないから少しだけ楽だ。

「会いたかった神様みたいな存在で、どんな子かなって気になってた。くれた情報を元に、いろいろ想像していたよ。黒縁眼鏡に、小柄、英語が話せる、甘いものが好き、俺がナレーションを担当している紅茶をよく飲む。総合して、可愛すぎる」

「ええっ」

「やっぱり可愛い」

 ある意味僕に対しての可愛いだろうけど、目線の先は顔じゃない。

 伸ばされた手は、迷いなく胸に触れた。

「あっ…………」

 突起を囲む乳暈を労るようになぞり、ユキさんからは嘆息が漏れる。

「足、開いて」

「………………むり」

「開けない理由でもあるの?」

 しぶしぶ、けれど興奮が限界突破してしまった僕は、ゆっくりと股を開いた。

 はっきり形の分かる箇所を、ユキさんはこれでもかというほど凝視している。付け根に手をかけ、足を開かせるように布地を張った。

「うう…………」

「食べていいよね」

 疑問ではなく言い聞かせるように呟き、上を向き始めたものを唇で挟んだ。

「ああ……待って…………」

 唇で形をなぞり、根元から味わうように先端に向かって移動させていく。男同士だからか、感じるポイントは分かるはずなのにわざと避けていて、歯痒くて腰を揺らしてしまう。

「俺のパジャマ着てさ、こんなやらしいことをしてるなんて……夢みたいだ」

「えっち……」

「知ってる。下も脱ごうか」

 シミができていても、指摘しないでいてくれたのは、優しさなのか噛みしめているからなのか。赤ちゃんのおしめを変えるポーズにされ、下着ごと引き抜かれた。

「どこもかしこも可愛い。可愛いしか言葉が出てこない」

「ユキさん……」

「吸ってもいい?」

 僕に了承を取っているのではなく、身体に取っている。返事の前に、突起に吸い付いた。今度はユキさんが赤ちゃんになる番だった。

 色気があるというより、欲をそのままぶつける吸い方だ。なんだか可愛く思え、頭をお尻をぽんぽんすると、ますます顔を押しつけてくる。

「うん……もっといい?」

「どうぞ……好きなだけ」

 固く縛られた緊張が解れてきた。

「気持ちいい……ぽんぽんいい……」

「今日はこれで終わりにします?」

「まさか」

 声のトーンの早変わりに、ちょっと笑う。

 そのままずるずると下に向かい、下生えの中で濡れるものに、ユキさんはキスをした。キスをして、布越しにしたときと同じように濡れそぼったものを口に加えた。

「うっ…………」

 ユキさんは一瞬見上げ、すぐに視線を元に戻した。

 先端をくすぐるように舌先でつつき、丹念に裏筋も舐めていく。

「ユキ、さん……」

 喘ぎの交じった声で名を呼ぶと、目元に優しさが宿る。あと少し、というところで口から離した。

「あっ……もう少し…………」

「いきそうだね。舐めても舐めても溢れてくるよ」

 足を跨ぐと、自然と重そうに実ったものが、ずっしりと膝にのし掛かる。食べ頃で足を動かしてみると、苦しそうに吐息を漏らした。

 上を脱ぐと、程良く鍛えた肉体が露わになる。躊躇いもなく下も脱ぎ、ベッドの下に落とした。

 先の濡れた肉棒が天井に向かいそびえ立っている。

「お、おっきい……」

「入るかな?」

「全部入れてほしい……」

 ユキさんの喉が鳴る。そして僕も同時に息を呑んだ。

「お尻向けて、上げてごらん」

 膝を立て、うつ伏せになると、何か掴んでいないと落ち着かない。ユキさんに枕を差し込まれ、握ると幾分か気が紛れた。

 割れ目に親指を引っかけ、双方反対側に開く。暴かれることのない箇所に冷気が入り、ぞわりとしたものが背筋を通る。

「あまり……見ないで」

「ずっと見ていたいよ」

「あっ」

 ちょん、と窄みを触れられ、思わず声が出た。くすぐったいような、官能の波が下腹部にすべて集まってくる。 

 ユキさんは棚から小瓶と箱を出し、粘着力のある液体を手に垂らす。手で温めた液体は、垂らすよの言葉を添えて、僕の臀部を包み込んだ。

「指入れてもいい?」

「はい…………」

 緊張しているのか、ユキさんも一度大きく息を吐く。さらけ出した窄みの回りを何度か撫でると、思わず高い声が出る。神経の集まる場所なのか、気持ちいい。

 肉を押し退け、するりと指が入ってくる。男らしいけれど、細くて長い指。違和感はあるが、受け入れられた。

「はっ、あ……ああ………」

 慣れてくると圧迫感を退けて快楽を追い求めるようになった。それに合わせ、指が二本に増やされる。

「ユキさん……ユキさん……」

「痛い?」

「もう、入れてほしい…………」

「ああ、もう…………っ」

 唸るユキさんは指を引き抜くと、冷気が入り清涼感でぞくっとしたものが窪みに触れる。

 ぱちんと音がし後ろを振り返ると、ちょうどスキンを被せ終わり、何度か扱いているところだった。さっきよりも大きくなった気がする。

「自分でお尻の穴広げてみせて」

 ひっくり返され、ユキさんの顔が見える。膝を抱え、なるべく入れやすいように押し広げた。

「ああうっ…………!」

 熱のこもった太い柱が入れられている。徐々に、本来入れるべきではない場所に、愛する人のものが入ってくる。

 ほとんど入る頃には、高揚感と満足感で身体も満たされていた。

「ほぼ、入った……」

 苦渋の顔で、ユキさんは何かを探すように少しずつ動かす。それに合わせて、揺するように腰を動かした。

「えろ……」

「えっち!」

「手どけてよ」

 揺れる下腹部が恥ずかしくて押さえたのに、ユキさんは手を頭の横に押しつけた。手も熱く、どこもかしこも性感帯になってしまったのかもしれない。

「晴弥……本当に可愛い……夢に見てたよ……何度も晴弥で抜いたし、何度も裸を想像した。晴弥の中はどうなってるんだろうと、仕事に集中できないこともあった。可愛いよ、晴弥」

 この声だ。ラジオでも時折悪戯に出す声。僕の方こそ何度もおかずにさせてもらった。

「ユキさん……いいっ…………」

「名前で呼んで」

 液体の粘着音が部屋に響く。いやらしい大人の行為は、確実に頂点へ誘う。短い息を吐き、高くなる声に、ユキさんも腰の動きが早くなった。

「好きっ……雪央さん…………!」

 低いかすれた声を絞り出し、むず痒くなり出したところを、あともう少しだと必死に揺らす。ユキさんも、額を伝う汗が頬を流れ、僕の身体に降りかかる。もっと、いろいろなものをかけてほしい。ぐちゃぐちゃにしてほしい。

 太股に当たる腹筋が震え、スキンの中に大量に注がれた。まだ溜まっているのか、数度抜き差しをするとくぐもった声が出る。

 胸を通わせ、枯れた喉で息を整えていると、ゆっくりと熱が引き抜かれていく。

「はあっ……すごいよ……」

「お尻が……痒い……」

「え、どこ?」

「入り口のとこ……むずむずする……」

「ここ?」

「うんっ……いい…………」

 入り口付近を掻いてもらうと、徐々に快感が生まれてくる。立ち上がるものに目ざといユキさんは、足を開かせ、濡れた肉棒を激しく扱いた。

「あっ、あっ……ああっ…………!」

「いいよ……いい声…………」

 ちょっとSっ気のある、低めの声はすぐに僕を追いつめ、限界だと布団を叩いて訴えた。

「ああっう…………!」

 手の中に放ったものをユキさんはうっとりと見つめている。何が楽しいのだと目で訴えた。

「男同士だと、お互いの弱点が分かるからいいね。晴弥の弱いところがすぐに分かる。これからも楽しみだよ」

 爽やかですっきりした顔で言われてしまうと、羞恥なんてさっさと処分してしまえばいいと、穴があったら埋めたくなった。

 ふたりで後始末をして、大きなベッドに寄り添った。

「明日以降、またバタバタするよ」

「そうですよね……ユキさんはラジオで話さなくちゃいけないし」

「晴弥も忙しくなるよ」

 何の話だろう、と尻目にユキさんを見ると、ちょうどカーテンの隙間から街灯の明かりが差し、唇に当たっている。磁石みたいに、僕の唇とくっついた。

「晴弥からのキスは貴重だな」

「どういうことです? 忙しくなるって」

「まずは、お父さんと話してごらん」

「ユキさん」

「家族であっても、性格含め上手くいかないことなんてざらにあるけどさ、晴弥のお父さんは戸惑っている気がする。本当に憎くてあんな言葉を吐いたというより、最善の生き方を教えようとしているというか。子供に苦労をさせたくなくて、理想を押しつけているだけだよ」

「…………僕にはいい迷惑です」

「理想の押しつけは誰だってはた迷惑なものだ。それに気づいたから、菓子箱にお手紙をつけたんだと思う。お父さんも親になるのは晴弥が初めてでしょ? 親としての戸惑いが、晴弥に吐いた言葉だよ。ずっと、ずっと、手紙の内容が頭から離れない。時間が経てば経つほど、何とかしたいって溢れる」

「ユキさんの方が、僕の家族のことを考えてくれていますね……僕なんかあと一年で一人暮らしだからいいやって諦めてますけど」

 とにかく、何でもいいから明日は会話してと念を押され、頷くしかなかった。ベッドの上での色気のない会話だけれど、これはこれで家族になったみたいだ。

 明け方になるまでふたりで話し、キスをしくすぐり合ったりした。

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