第2話

 ていうか「ブルセラショップ」って日本語じゃないよね(笑)。


 まあいいや。えーと、それでクナピトル・ウェミナンシの話ね。

 もう面倒くさいから異世界ブルセラって言っちゃうんだけど、異世界ブルセラ屋になったのはメンヒバッシに飛ばされてから四年くらい経ったころかな。

 そのころにはおれもだいぶ言葉を覚えて、風習とかにもなんとか馴染みはじめてたんだけどね、生活は厳しかった。

 だって戸籍ないからね、親類もいないし。

 そりゃ現代日本と比べたらメンヒバッシの戸籍制度なんかガバガバのガバナンスだけど、身元不明の片言のおっさんだからね、おれ。

 現代だろうが中世だろうが、字も書けない身元不明の片言のおっさんは怖いし怪しいでしょ、普通に考えて。

 だからまともな職には就けなくて、自然とダーティな仕事ばっかになるんだけど、その中ではブルセラ屋さんが一番マトモだった。元締めはクソだったけどね、でも人とか殺さなくていいし。


 で、異世界ブルセラ、なにやるかって言うとね。

 メンヒバッシってやっぱ異世界だからね、あるわけよ。剣士学校とか魔法学校とかが。

 そんでまたヒラヒラしたスカートでやってんのよ、家柄いい子ばっかが。なんでか女子比率高いしみんな可愛いの。異世界って感じするよね(笑)。

 でも異世界にも変態ってのは居るもんで、そういう学校の制服とか、パンツとか靴下とかを欲しがる金持ちがいて、おれらはその馬鹿どもにを仕入れて売りつけるわけ。


 商品を仕入れる方法は二通りあって、一つは交渉して買い取る方法。

 寮とか入ってない子に下校中に声かけて、「もしよかったら金貨二枚でパンツ売ってください」みたいなね。

 でもおれ片言だから、正確には「オパントゥ、クレメンス。オカネアルヨ」みたいな感じなのよ、向こうからしたら。あいつら箸が転んでも面白いお年頃だから爆笑ですよ。十五そこらの女の子からそこまで笑われることってそうそうないよ?

 まあ、そういうわけでこの方法はほとんど上手く行かない。


 なので、もう一つの方法に頼ることになるんだけど、女子寮に忍び込んで盗んでくるわけ。

 結局盗みじゃねえかって? それ言っちゃう?

 いや、そりゃそうだけど、身元不明片言文盲おじさんの仕事なんて盗みか殺ししかないのが現実なんですわ。メンヒバッシじゃあね。

 まあでも、やっぱマシなほうなのよ。殺しはやんなくて済むから。だって女の子生きてないとパンツ売れないでしょ? 使用済みパンツじゃなくて遺品だもんね、死んでたら。


 そんなこんなで異世界ではパンツ盗んで生計立ててたね。ひとりの時もあったし、チーム組んだりした時もあったし。

 そんでそんで、一番ヤバかったのがアソヴゥトサが引っ張ってきたヤマだったの。


 アソヴゥトサっていうのは現地で出来た友達で、よくチーム組んでた。あいつも身寄りとか無くてね、本当はパンツ泥棒なんてしたくないんだけど、学もなかったし仕方なくブルセラやってた。いいヤツなんだけどね。

 で、そのアソヴが言うのよ。「すげぇでかいヤマがある」って。

 おれはノルニポカをちびちびやりながら「まーたはじまったよ」って思って適当に流してた。アソヴ、学がないからね。すぐ騙されんのよ。前歯も全部ないし。

 でもアソヴ、引き下がらないんですわ。

「マジだってマジだって今度はマジだって」つって。前歯ないからツバがダイレクトに飛んでくる。

 しょうがねえな、と思っておれは襟を正して聞きましたよ。いつも雑巾みてえな貫頭衣だから襟なんて無いんだけどね。


 それで、アソヴが言うには、街のデカい魔術学院にとんでもない美少女が転校してきたらしく、その娘のブツにすごい値がついてると。

「靴下片方で家が建つんだぜ」ってアソヴは言ってた。

 でも「魔術学院はやべーよ、魔術は」っておれは言った。魔術はやべーんすよ。

 剣士学校なら、バレてもせいぜい刃物持った人間に追いかけられるくらいじゃん?

 魔術はちがいます。対侵入者の仕掛けが至るところにある。もうあれほとんど学校のかたちしたダンジョンなのね。罠が本当エグいんだよ。燃やすわ凍らすわネズミに変えるわ本当めちゃくちゃやってくる。それが街で一番デカい魔術学院だったら言わずもがなだよね。


 おれ全然気が乗らなくってさ。

「やめようぜ、パンツごときで死にたくねえよ」って。

 でもアソヴが食い下がるのよ。歯ァ無いくせに。

「このヤマを成功させれば、こんな仕事からは足を洗える。おれたち二人でパン屋さんやろうぜ、お前となら上手くやってけるよ、お前頭いいし」つって。

 そんなわけねーだろ、おれ高卒の溶接工だよ?

 でもさ、嬉しかったよねぇ。「お前となら上手くやれる」なんて、日本じゃ言われたことなかったから。そんな、そういうふうに人に必要とされることなかったから。おれ完全にウルッと来ちゃってさ。そうだよなって思っちゃったの。

 だってやりたくねえよ、いい大人がさ、ガキのパンツ売って生計立てるのなんて、情けねえもん。

 アソヴもマトモな仕事やりたいよな。パン屋さん、いいじゃん。おれパン好きだし。


 だから、「よーし、わかった」つって酒煽って、その日のうちに顔見知りのブルセラ屋集めて、五人くらいかな? 集めて、あーでもないこーでもないって計画練ってさ。

 ああいうのって計画練ってるときがいちばん楽しいんだよね。そんで次の水曜日の真夜中に決行だ! つってまた酒飲んで。


 まあ、結論から言えばおれ以外全員死んだんだけどさ。アソヴも死んだ。真空魔法の罠で顎から上、全部無くなってね。

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