大切なもの。



ガチィ

ガリュゴリュ

ゴクン


「はぁ、やっぱおっさん……不味いな」


明るい満月の夜。

一人の男は少女に骨ごと喰われた。


責めてもの手向けで私はいつも食べた人間の服を丁寧に畳んで倒れていた場所に置いている。


何故こんなことをするかと言うと8歳のころ食べた人間が牛丼と書かれた店で食べる前と後に手を合わせ何かを呟いていたのを見て私は牛に対する感謝だと感じたから。


幼い頃はよく人間の子供と遊んだ。


もちろん食べたこともあるがそれは数回だけ。

私以外は母親が迎えに来て家に帰る。


私は誰も迎えにこないし家もない。


「お母さん…」


血塗れのセーラー服のまま住宅街をさまよう。


「あれ…なんで…」

涙はボロボロと溢れる。


ぺたぺたと音を立てるアスファルトは冷たく、足裏から熱を奪われる。


「あっかそう…」

深夜のあかりひとつ無い家を見る。

子供用の自転車と大人用の自転車か2つずつ。

「いいなぁ…」


「あなた、お家ないの?」


「ない…」

「私の家きな、そんな汚いセーラー服きて」


夜の仕事の人かな…


優しい人もいるんだ。


甘い香水と赤いハイヒールに高そうなバックに私は何も感じなかった。


持ち物と見た目からは想像できないボロい家に着くと女性は口を開く。


「私はミト ずっとここにいていいからね」

「ありがとう…ございます…」

「暗い顔しないの、名前は?」


「ユキ…」

「ユキね!風呂はいろ!ほら、いくよ!」

ミトに服を脱がされ風呂に入れられる。


高そうなシャンプー…

シャワーなんて冬場はあまり入らない。


「ほら!髪洗ったげる」

ワシャワシャワシャ


なんだろう…この気持ち…

これが…



風呂を出ると優しいピンク色のふわふわなパジャマを着せてくれた。


「顔よく見えなかったけど、可愛いじゃん 可愛い女の子なんだから1人で外歩いちゃダメよ? 家出?」

「……」

「話したくないか、分かるよ、私もそんな時期あったから」

「ありがとう…」

「ん?」

「初めて愛を感じられたの」

「照れるなぁ 妹にしてあげる!」


お姉ちゃん…


込み上げる気持ちに涙が溢れる。

「何ないてんの ほらおいで ユキ」

ミトに抱きつきめいっぱいた。

彼女はずっと頭を撫でて私を優しさで包んでくれた。


落ち着いた頃に彼女は口を開く。

「ユキはさ何歳なの?」

「16…さい」

「へぇ、私ね20歳 明日休みだからさユキの服とか欲しいもの買いに行こ!」

「欲しいもの?」

「そう!バックとかさあるでしょ?」


「うーん…」

人間の女の子はこういうのに興味があるのだろうか。

私には分からなかった。

「遠慮すんなって!こう見えて金は沢山あるからさ!」


「お金かぁ…」

「なに?」

「お金触ったことない」

「うそ!うける!あっははは 」

彼女は封筒から壱万円と書かれた分厚い紙を1枚取り出す。

「お金って大きいんだね」

「え!?本当に見たことないんだ これね…んー、300枚くらいあるの 今日給料日だったからさぁ」


「ふーん…」

「ユキって結構、ツンデレかな?」

「なにそれ」

「可愛い~な~ あっはは」


特徴的な笑い声だ。

「よし、寝よ おいでユキ」


電気を消すと部屋は暗くならず外の街頭の光が薄いカーテンをすり抜け薄らとものが見えるくらいには明るかった。

ミトに手を引かれベットに連れられ彼女に背を向け横になる。


彼女の囁き声は心地よく耳に入ってくる。

「ユキはさ、誰からも愛されたことないでしょ」


私は背を向けたまま頷く。

「私に似てたから助けたの」


彼女は私に後ろから抱きつく。


あたたかい。


幸せに包まれたような不思議な感覚だった。

「あとは…可愛かったからかな…助けた理由 ふふ…」


ミトは私を抱く力をギュッと強めた。


「私もね、まだ寂しいの…お金いくら稼いでも、男作っても穴は埋まらなかった…私も愛されたかった…」


私を抱く彼女の腕を私は優しく包む。



「ねえ…ミト…」

嫌われるだろうな…

「ん?」

追い出されるだろうな…

でも、本当の私を愛されたい。


ミトに嘘はつきたくなかった。

「私ね…多分、人間じゃないの…」

「…」

「私ね…人間を食べて暮らしてたの…家もお母さんもいない…ずっと人間を羨ましいと思って…」


「そっか…私…食べられる?」

「食べないよ…」

「そう…ありがと…」

「え?」

「本当の事言ってくれて…

本当はね、ユキが食べてるところ見た事あるんだよ…初めてユキを見た時、このこと同じだって感じたの

次見たら助けようって…」


私は彼女の大きな優しさにまた涙を流していた。


「私が人間のこと教えてあげる…人間よりも多分美味しいご飯とか色んなところとか沢山連れてってあげる…」

「…うん……」



「寝よっか…」



私は彼女の腕を強く抱きしめゆっくりと頷いた。

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