美しい舟。

「嗚呼、なんて美しいの」



彼女の震える声は

くちゃり

くちゃり

とかき消される。


「ふふふ、あははは」


不気味で美しい声は薄暗い空間に蠢く。


ジジジ…

ジジジジ…

虫のような泣き声は母を想う子の口から漏れる。


「綺麗なお母さんね」


ジジ…

ジ…


気持ち悪い。

気持ち悪い、生臭い。


命の臭い。

命の音。


「あなた、臭いがしない」

美しい声は醜い肉の塊に呟く。


「お母さんは臭いのに」

ぐちゅ

ぶちゅ


薄橙のマシュマロと紅いジュースは掻き混ぜられる。

ぶじゅ

ぶじゅ

ぶぷぷ


「ねえ、幸せ?」

臭いが消えかけているその舟はぴくりとも動かない。


溶けかけた桃色のマシュマロを子供の喉に押し込む。

舟から掬い肉に詰める。





床にのびる赤いマシュマロ。


汚い肉の横に浮く美しい舟。



母の音は消えていた。



そして、臭いも消えた。



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