私、ロボだけど結婚します!

ささがせ

私、ロボだけど結婚します!

 人類は、幾多の苦難を乗り越えて、ついに22世紀を迎えた。

 しかし未だに人類は、太陽系の外へは出てないし、テレポート実験は失敗するし、卑弥呼の墓を見つけてない。地球外生命体は見つけたけれど。

 実は僕は漫画を描いていて、SNSではそれなりにフォロワー数の多い漫画家だったりする。

 そして当然アシスタントも雇ってたりもする。

 この度、そのアシスタントのなっちゃんが、なんと漫画新人賞を受賞した。大変めでたい。

 だから、そのお祝いにと食事へ誘ったのだが…―――


「今日は彼氏との先約があるんで…」


  と、極めて鬱陶しそうに断られたので、僕は釈然としない気持ちを引き摺りつつ、近所のファミレスにやってきた。

 心を癒すために、やってきたのだ。


『いらっしゃいませにゃ』


 AR広告がびっしり張り付いた自動ドアを潜ると、背丈の小さな猫耳型給仕ロボが出迎えてくれた。


『って、またお前来たのかにゃ。毎度毎度ご苦労様にゃ。で? 今回もスランプかにゃ?』

「人生のスランプですね…」

『何を上手いことを言った気になってるにゃ。ぜんっぜん意味分からんにゃ。そういうことを女の子に言ってると説教臭ぇおじさんだと思われるにゃ? だから婚期が来ないんだにゃ』

「………」


 相変わらず、マイナー版猫耳型給仕ロボ7号機のナナちゃんは手厳しい。おじさん、泣きそうだよ…。

 ともかく、そんなナナちゃんに僕は席へと案内される。

 店内を見回すが、流石に深夜の時間帯。他の客は疎らだった。

 今回もナナちゃんにオススメを注文して、僕はAR端末を起動し、暇潰しに今日のニュースをでも確認する事にする。

 あ、金星の衛星で見つかった地球外生命体、名前決まったんだ。ランランとシャンシャンらしい。パンダか…?


 そうこうしていると、芳しい鳥ステーキの香りが漂ってきた。今日のオススメがご到着のようだ。


『お待たせしましたウサ! ご注文のナナちゃんスペシャル鳥テキですウサ~』

「ありがとう」


 料理を持ってきたのは、うさ耳型給仕ロボのムツキちゃんだ。今日も引き締まった足とお尻が素晴らしい。

 料理を受けとると、AR端末がメッセージの着信を告げる。

『たまにはちゃんと肉も食うにゃ!』とお怒りマークの絵文字付きメッセージだ。……泣きそうだよ。

 僕の荒んだ心は、ナナちゃんの優しさを受けて、コーヒーシロップ一杯分だけ潤った。

 さて、それじゃあ食べよう! と、ナイフとフォークを手に取るが、ムツキちゃんが隣に立ったままだった。


「え、ムツキちゃん、どうしたの?」

『お客様様、いままで私のファンで居てくださり、ありがとうございましたウサ。実は私、結婚するウサ』

「…は? ごめん、よく聞こえなかった。もう一度言って?」

『私、ロボだけど結婚します! お客様、今までファンでいてくださり、ありがとうございました! …あ、ウサ』

「…………は?」


 聞き違いじゃなかった…。

 しかし、僕の脳が理解を拒否してる。


「え、えーと…あれ、ムツキちゃんって人間だったっけ?」

『ロボです! あ、ウサ!』

「もうその語尾無理に付けなくていいよ…」


 話が込み入りそうだったので、余計な情報は排除しよう。

 で、誰が誰と結婚するって…?


『不肖、ウサ耳型給仕ロボ6号機ムツキ、この度、この度給仕ロボを卒業し、一般男性と結婚します!』


 ん? んー…そ、そっかぁ…。

 オッケー。わかった。


「ナナちゃーん!」

『あー? うるさいにゃぁ…一体何だにゃ? 私はいま金星の宇宙生命研究所に命名抗議のDDOS攻撃するのに忙しいにゃ』


 ナナちゃんはやっぱり人類の敵かな!?

 うっかり人類最先端技術研究機関に電子攻撃しないでください!


「ナナちゃん! そんなことしてる場合じゃないですよ! ムツキちゃんがバグっちゃいました!」

『バグってないです!』


 バグってる奴ほどバグってないって言うんだよなぁ…!


『ったく、一体何があったにゃ?』


 やれやれ、と言った様子で、ナナちゃんは星間量子通信を切ってこちらにやってくる。どうにか金星でのバイオハザードは防げたようだ。しかし、それ以上の事態が目の前で起こりつつある。


「ムツキちゃんが結婚するって!」

『はい! 私、結婚します!』

『はあ…?』


 ナナちゃんは半眼になりつつも、ムツキちゃんの目を見つめた。ナナちゃんとムツキちゃんの両眼がチカチカと瞬く。

 どうやら、ネットワーク側からムツキちゃんの状態をスキャンしてるようだ。


『…んー、特に機体の異常は見当たらないにゃ…? なら、半有機脳の方に――って、にゃ!? ムツキ、いまネットワーク接続切ったにゃ!?』

『ナナちゃんと言えど、いえ、他の誰にも! 私の想いをデフラグさせません!』


 ウサーッ!っと謎の威嚇音を出しながら、ムツキちゃんは両手を天井に向けて広げてみせる。熊の威嚇ポーズかな…?


『もし実力行使で実行しようと言うのなら、ここから先は戦争です! 核攻撃も辞さないですよ!』


 核戦争はまずい…!

 何が何やらと言ってる間に、小さなファミレスの2号店で、世界の平和が揺らぎつつあった…。

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