第34話パプティ・アーズ辺境伯

 夕食を終えるとパプティ・アーズの壮大な騙りが始まった。

「まず簡単にこの世界にある国に関して説明するよ。さっきも言ったけれど、この世界には人外の国【ロウキ】とエルフの国【ツリー】と獣人の国【ラト】の3つがある。

 昔過去の対戦で、人外と獣人が手を組んで当時人間の国だった【ロウキ】を侵略したんだ。人外色々な種類がいる。魔法が得意なエルフ・風魔法と戦闘の力に特化した竜族・相手の体を乗っ取って操れる幽霊族・物に、魔法を付与できる骸骨族等が有名だな。獣人は魔法は使えないが身体能力を上げる事が出来るんだ。

 侵略された人間も持っていた魔道具や武器で戦ったがあっという間にやられてしまった。

 一方的に人間達が殺されていく中、何とか逃げ出せた人もいたんだが殆どの人間は殺されるか捕まって今も【ロウキ】で奴隷のように働かされている。」


 マリのため息が聞こえる。タクマがマリを見ると悲しそうな顔で俯いていた。

「辺境国は、逃げ出した人間達が起こした国なんだ。我々も少しでも多くの仲間を助けたいんだが、【ロウキ】に戦争を仕掛けられる力はないんだ。だから今は、人外達の村や街を調査して少しずつ救出しているんだよ。

 でも我々は、人外と獣人達に捕まっている人間達を助けだすまで決してあきらめたりはしない。」


 俯いているマリの側へと歩いて行ったパプティ・アーズ。そっとマリの頭を撫でる。

「この国は魔法の結界で守られているんだ。奴らが人間達から奪い取った魔道具を取り返してね。だから国の中なら人外達に襲われることは無い。これが今のこの世界の人間の状況だ。

 ショックだよね、タクマ君は人間だからね。もし最初に現れた場所がここ以外だったら、今頃彼らに捕まって売られているか、奴隷のように働かされていたかもしれない。ストレスのはけ口として暴力を振るわれている人もいるんだ。タクマ君みたいな良い子供、そんな目に合わなくて本当に良かった。。」


 そう言って、タクマを抱きしめるパプティ・アーズ。タクマは青ざめて呆然としている。

「こんな事になるなんて。どうしよう、俺これからどうやって生きて行けばいいんだろう。」

 不安そうな小さな声で言うと泣き出したタクマは抱きしめてくれていたパプティ・アーズにしがみつく。タクマの背中を優しく撫でるパプティ・アーズ。

「大丈夫、ここは安全だから。君のいた世界よりは、贅沢できないと思う。でも普通の暮らしは出来るから安心して。ただ、いつまで安全な場所かは分からないからな。自分自身を守るためにも少し武器の訓練をした方が良いと思うが。そういう話は明日にしよう。今日はもう休みなさい。

 忘れないで、君には私達がついているからね。」

 泣いていたタクマは、頷くとマリに連れられて部屋へと戻っていった。


 部屋の前に着くと、マリは慰めるようにタクマの頭を撫でる。 

「タクマ。今日はゆっくり休んでね。」

 何も話す気力がなかったのか黙って頷いて部屋に戻った。部屋に戻ると別途に潜り込む。

「これって人間が迫害されているってことだよな。魔法も使えず力も弱いんだからそりゃそうなるよな。俺が高校でカツアゲや暴力を受けていた事と同じだ。弱いからやられる。

 向こうには誰も味方がいなかった。でもここにはパプティさんやマリがいる。向こうじゃ誰も一緒になんていてくれなかったし辛いだけだった。あの時白い霧みたいなのに飛び込んでよかった。

 2人に出会えて良かった。

 それに凄い運がいいな、俺。人間が酷い目にあわされる様な世界で唯一安全そうな場所に来れたんだから。明日、2人に俺にも何かできる事が無いか聞いてみよう。自分を守るためにって戦い方も教えてくれるって言ってたし。

 今日は早く寝て、明日から頑張ろう。この世界の事をもっと詳しく勉強してマリとも仲良くなりたいな。他の人達と上手くやっていけるといいな。」

 話しているうちに落ち着いたのか、タクマは眠りについていた。


 マリはタクマが部屋に入るまで近くで隠れていたが部屋に入ったのを確認すると戻ってきてドアの前で聞き耳を立てていた。タクマの寝息を確認するとパプティ・アーズに会いに行く。

「マリ、タクマはどうだった。落ち着いていたかな。」

「はい、お父様。私が人形だという事にも気づいてなさそうです。お父様の話も信じていました。」

「そうか、タクマは訓練して異世界人の勇者として先頭に出て戦ってほしいんだよ。人間を迫害し国を奪ったやつらから、仲間達を取り返すための戦いの為にね。」

「明日は、盗賊の頭達の中から優しそうな雰囲気の者をタクマに会わせる。マリは、タクマの側にいて彼と友人出来る事なら恋人になってほしいな。」

「はい、恋人になれるように頑張ります。」

 話が終わるとマリは、盗賊の頭達に伝える為に去っていった。


 マリが去ると、兵士の人形を呼んで計画に変更修正が必要かどうか確認する。

「まずは【ロウキ】だな。やはり相手が人間の方が行動や感情が把握しやすくやりやすいからな。潜入させた人形はどんな様子だ。」

「はい。今の所特に問題はなさそうです。独身の一般市民で試していますが入れ替わりがばれた者はいません。」

「そうか、次は家族でも試したいな。王と重臣達を早く人形に入れ替えたい。奴らの許可があれば【ロウキ】に盗賊を潜入させられるからな。そして住民達は表向き今まで通りの暮らしを続けさせる。焦らずに要所要所で入れ替えていこう。

 次は【ラト】だが、【ロウキ】で試して上手くいってからやるほうが良いな。人身売買の組織が捕まったと聞いているし。【ラト】での活動は少し控えさせて情報収集だけやらせるか。

 人形達との入替と国の乗っ取りが終わったら、魔法が使える人外は追い出して、【ツリー】との国交は閉じる。国は侵入できないように魔道具で守れば問題ないな。

 魔法が使える人形兵は人外のみに対応させてと、盗賊や普通の兵士は獣人や人間への対応にする。

盗賊の方にいれた人形達はどうだ。」

「そちらは、普通の盗賊と入れ替えた人形達はばれていません。ただ窃盗団に入れた人形はばれているようです。さりげなく入れ替わった人形が窃盗団から追放されています。窃盗団の女が大好きな者達も女人形には近づきません。」

「そうか、なぜわかるのか聞いてみたいが、そんな事を聞いたら他の盗賊に人形の入れ替わりがばれてしまうからなあ。残念だな。

 まあ、今はタクマに訓練を受けさせるのに時間が必要だからな。訓練が終わるまでに人形を改良してもっと人間に近づけて入れ替えを進めるか。

 隠れ街の方の建設は終わっているから、にここを責められたとしても主だった連中は転移で逃げられる。

 よし、暫くはタクマに嘘を信じ込ませることに集中マリとの仲を近づける。一番近い村への襲撃の備えもしておいて、タクマにマリと村攻めをやらせるか。」

 方針を決めたパプティ・アーズ、人形と共に自分の研究室へと向かって行った。


 翌朝、いつの間にかぐっすりと寝ていたタクマは起き上がると辺りを見回す。

「そうだった、異世界にいるんだった。昨日は泣いたりしてちょっと恥ずかしいな」


 マリが部屋にタクマを呼びに来た。

「おはよう、タクマ。朝ごはんが出来ているわよ。洗面台にタオルとかあるから使ってね。」

「おはよう、マリ。ありがとう、すぐ支度するよ。」

 タクマとマリは一緒に食堂へと向かった。

「おはようございます。昨日はありがとうございました。パプティ・アーズ辺境伯」

「おはよう、タクマ。そんなに固くならなくていいんだよ。パプティで構わないよ。君は私の部下じゃないんだから。」


 暫くパプティ・アーズと名前の呼び方で揉めるが、パプティ様に落ち着いた。

「今日は街の事や訓練の事等、マリから色々教えてもらうといいよ。街には危険な所や危ない奴もいるからね。そう言った事や理由について、タクマ君に知っておいてほしいんだ。」

「分かりました。よろしくお願いいたします。マリさん。」

 それを聞いたマリは笑いだす。

「さん付けや敬語で話さなくて良いわよ。領主の娘って言っても皆普通に接しているわ。だから気にせずタクマも普通に接してよ。」

 タクマも笑いながら頷いた。

「さあ、冷めないうちに朝食を食べてしまおう。」

 

 朝食を食べ終わった辺境伯は自室に戻り、マリとタクマ訓練をしてくれる人の所に向かっていた。

 マリが訓練の指導者の事を簡単に説明してくれる。

「その人が、訓練を教えてくれるんだね。今まで何もやったことないし、大丈夫かな」

「最初は皆弱いんだから気にせずに頑張って。訓練は私も一緒にやるからね。」

「そうなんだ、よろしくね。知っている人が一緒だと頼もしいな。」

 不満げな顔をしたマリが、タクマを軽く小突く。

「ちょっと、知り合いって何よ。私達もう友達でしょ。」

「そっか、そうだね。友達だね。」

 嬉しそうに笑うタクマ。良い雰囲気で話しているとあっという間に訓練所に着いた。


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