第30話治安部隊裏組織の活躍と誘拐事件の終息

 何時取引が始まるのか分からないので、日付の変わる前から皆待機していた。

 偵察部隊の竜騎士団と攻撃の実行部隊である治安部隊の裏組織が、それぞれ配置についていた。その後方には、各拠点を取り囲むように魔道具を使用して隠れている後方支援部隊が準備している。被害者達の為の医療部隊も待機し準備は万端だ。

 犯罪集団のボスと取引相手の取引が始まるのと同時に、一斉に突入する。


 治安部隊が魔道具で街中を探索したところ、幸いにも街の地下には空洞や人はの存在は認められなかった。街の外の地下空洞近辺は、罠が設置されている可能性もあり捜索は行わない事になった。

 地下で生活する為の空気はどこからきているのか、是非知りたいとボーンファミリーが言っていたが作成成功の為に諦めたのだ。

 その代わり魔道具に詳しく色々な商品を調べる伝手も持っているボーンファミリーが、作戦終了後に地下の探索を行う事になった。ボーン家は新しい魔道具の発見かと皆で興奮していた。


 突入前の緊張にあふれる現場だったが、スプーは暇を持て余していた。隣の弟に小声で話しかける。

「早く始まんないかな。どうせなら暗いうちが良い。煙玉に、麻痺と睡眠効果のある薬玉を中に放り込み突入。俺達の危険も少ないし誘拐された人達の生存率が上がるしな。

 まあでも、あの攻撃部隊ならどこでも無事に成功させそうだな。気配が全くないし、いるはずなのに見えないし。それにしても暇だなー、悪人なんだから夜動けよ。」

「暇だからってお喋りしていると怒られるよ、兄さん。」

「ふん。お前は真面目で固いなあ。後方部隊だし気を付けているから大丈夫だ。

 そうだ、終わったらこの件レオ達にも教えてやろう。もとは瑠璃さん達が捕まえてくれたおかげで今回の作戦ができたわけだし。報奨金の追加もいるな。エルフ達は渡したから治安部隊から出させるか。来たばかりだって言ってたから、瑠璃さんお金ないだろうしな。」

「それは良い考えですね。瑠璃さん役に立てれば、レオ達も喜びますから。前回うちの前で襲われるなんて事を起こしたばかりですからね。瑠璃さんの側を彼らが離れなければ誘拐犯は捕まらなかったわけですし。」

「そうだよな、少し多めに出させよう。家も何か考えないとなあ。」

 スプーが報奨金の金額を勝手に決定したところで、拠点の農家から馬車が出てきた。


 連絡係から、馬車2台に男が2人づついて、家の中に他に4人の気配があると報告が来る。

 馬車はそのまま走り出し、土の中の拠点の前に着くと止まったまま動かない。暫くして地面が開くと大きな袋が下から3つ出された。それを馬車から出てきた男達が積み込むと、地面が閉じた。

 被害者たちの入った袋を乗せた馬車は、農家へと戻っていく。

「ちっ、今日は取引をしないのか。」

 隊員の誰かがつぶやいた時、農家に向かってくる2台の馬車を確認。全員戦闘態勢になり、いつでも突入できるように位置に着いた。


 両方の馬車から男達が全員降り、互いに乗ってきた馬車へと入れ替わろうとした瞬間、煙玉と薬玉が投げられ、辺り一面煙に包まれた。

 突入開始だ。暗くてまだ気づいていない様子の男達だったが、次々に倒れて行く。攻撃部隊は全員縛ると、後方で待機していた裏部隊の協力者に任せて農家の応援へと向かっていった。

 農家にいた敵も4人全員、最初の突入で無事に捕まえてどこかへ運んでいった。

 家の中を捜索すると、地下に通路があった。警戒しながら進んでいくと地面の下にあった拠点の方にたどり着く。どちらかが攻め込まれた場合に備えて、緊急時避難用にしていたんだろう。

 地下拠点の方も仲間たちがすでに制圧していて、敵6名が縄で縛られて連れていかれた。


 この後犯罪者達は全員、【ラト】の中の仲間や情報屋の事、他に大きな組織が無いか等の聴取を受ける事になる。情報屋に逃げられると困るので、裏部隊は敵に気付かれる前に吐かせなければならない。

 裏部隊は敵を全員彼らの馬車に乗せて、どこかに連れて行った。


 スプー達は被害者達を、安全な隠れ家に連れて行き保護をした。狐人のニピとニナも怪我もなく無事に保護されて皆ほっとしていた。

 一緒に被害者を運んでくれたブルが農家と地下拠点の通路のことを教えて魔道具がなかった事を伝える。スプーは新しい魔道具がない事にがっかりした表情だった。その様子を見ていつもと違い可愛らしいと、ブルはコッソリ笑っていた。それに気づいたスプーがにやりと笑う。

「作戦は無事成功したし、魔道具はおまけだと思っていたから全然気にしてないさ。

 所で今回の件は、最初に誘拐犯を捕らえたあの方達の活躍が大きいよな。竜騎士団は報奨金を出したのに、治安維持部隊はまだだったよな。

 全部終わったから、報奨金を渡してあげないとな。金額はこの位でいいと思うよ。ブルは忙しいだろうから、お金と書類をくれたら俺が渡しに行くよ。」

 そう言うと、部下に持って来させた紙に、褒章の理由と金額とその内訳をざっと書いて渡し、ここは任せて報告を頼むといってブルを追い出した。


 暫くすると、ブルが報奨金と依頼書類をもってスプーに会いに来た。

「スプー、この間はありがとう。おかげで、奴らを逃がす前に捕まえられた。

 街の中にいた奴らの情報屋の名前も分かったが、今は泳がせているんだ。奴らの背後関係は複雑そうで、ボスはただの下っ端じゃないかという意見でまとまった。

 どちらも、背後関係までは分からずに終わりそうだ。ただ、最近辺境の方が不穏な動きがあって【ロウキ】の治安維持部隊で裏組織の人達が既に辺境に潜入しているそうだ。

 そこから何かわかるかもしれない。分かったらまた伝えるよ。」


 真面目な顔をしたブルーは、スプーに報奨金と依頼書類を渡す。

「報奨金と書類、よろしくお願いします。俺達の感謝の気持ちも伝えてください。」

 スプーもうなずきながら受け取ると金庫にしまう。

「分かりました。必ず伝えます。」

 お互い頷くと、ブルーは帰っていった。

 スプーは早速レオに連絡をした。てっきり、骸骨達の村にいるのかと思ったら、瑠璃の訓練の為に【ツリー】にいるという。

「【ツリー】か、仕方がない何でも屋のエルフ様に訪問の許可を取って頂かないといけないなあ。連絡するか。」

 スプーは、カールに連絡すると訪問許可を取ってもらいカールの家を訪ねる事になった。

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