第22話【ラト】で誘拐事件に遭遇

 昨日のんびりと休息した皆は、朝食を食べ出発する。

 今回カールは同行しないので、【ツリー】までは馬で行きカールに馬を預かってもらうことになった。瑠璃も利口な馬とカールの魔法のおかげで1人で乗れている。何もしなくていいので座っている状態だ。

「馬は家の前につないでおくの? 馬の居場所はなさそうだったけど。」

「いや、馬を預かってくれる場所があるんだよ。敷地が広いから草刈り代わりに無料で預かっているんだ。自然が好きすぎて原始的というか、野性的なエルフなんだ・・・・・・。 」

「そう・・・・・・。 いろんなエルフがいるものね。【ラト】で獣人を見るのは楽しみだわ。勿論、ジッと見たり触ったりしない様に我慢するから大丈夫よ。」

 3人の疑うような眼差しに誤魔化すように薄笑いをしている瑠璃だった。


 【ツリー】に入り転移門へ行くと燕が待っていた。馬をカールに渡すと早速出発する4人。

「いってらっしゃい、気を付けてねー。ボーンファミリーによろしく。」

 瑠璃もカールに手を振り【ラト】に出発。ボーンファミリーって一体、と呟きながら。。


 【ラト】の審査を抜けて街に入ると、耳と尻尾のある人間達が歩いている。兎、猫、犬、沢山いる。我慢できずににやにや笑いながら、彼方此方を見ている瑠璃。不安を感じたのかマリーが瑠璃を捕まえた。

「まっすぐ、ボーン達に会いに行くわよ。瑠璃触っちゃダメよ。」

「分かってるわよ。我慢しているし、ただ凄い可愛いなと思って。見て耳が動いてるー。」

 失礼だとは思っているらしく小声で話すが、興奮している瑠璃。

「じゃ、さっさと行こうか。あ、言っておくけど獣人にも犯罪者はいるからね。ついていかないようにね。」

 両脇をレオとマリー後ろは燕。周りから連行される人のように見られ注目を浴びていた。


「ボーンファミリーの食堂。宿から服屋まで色々な種類のお店を経営しているんだ。今のオーナーの息子達が友人でホークとスプーとイフ、ここの食堂は彼らが経営しているうちの1つなんだ。」

 髑髏マークの帽子をかぶっている大きな骸骨が店のドアを開けた。

「いらっしゃい。俺はホーク。ようこそ、レオとマリー。瑠璃さんと竜族の燕さん。」

 互いに挨拶をした後2階に案内される。2階が住居になっていてここにも大きな骸骨が座っていた。

「経営者のスプー兄貴だよ。兄貴、レオ達を連れてきたよ。じゃまた後でね。」

 レオとマリーは親しそうにスプーと挨拶をし、瑠璃達も紹介してくれる。

「ホークが3男で、次男のイフは買い付け中でいないんだ。まあ座ってくれ。」


 瑠璃と燕を見比べていたスプーが安心したような声で話し出す。

「思ったより瑠璃さん、燕さんの事怖がっていないんだな。頭丸呑み事件は有名だが、本人が平気な顔と無事な体なら、竜族の落ちた評判と消えた信用も早めに回復しそうだな。」

「多分丸呑みの前に燕さんと竜の姿で接していたからだと思います。竜族に対して恐怖はないですよ。人間を食べないときちんと説明して頂きましたので不安もないです。」

 瑠璃の言葉を聞いて、ほっとしたように涙ぐむ燕。

「それは良かった。和解できた方がお互いに良いからな。

 話は変わるが、異世界人と異世界転移魔法の事を一族に聞いておいたよ。宿屋のカイと結婚して今度来る異世界女性の事は知っているんだよな。

 【ラト】と近隣の人外村で異世界人は見ていないそうだ。俺達は大所帯でボーンファミリーっていって【ラト】で結構手広く商売をしているんだ。俺達が知らないなら、行方不明の異世界人がいるとしたら【ロウキ】街以外か辺境周辺だと思う。

 皆、転移魔法も聞いた事ないんだが、魔法はなあ。確実にないとは言い切れないからな。

新しい魔法が開発されても、個人で秘匿する場合もあるんだよ。異世界転移魔法なんて危険そうな魔法だよな。危険な魔法だからあったとしても、誰かが秘匿しているのかもしれない。

 さっき話した【ロウキ】街以外か辺境周辺の事だけど、人間ばかりだから骸骨じゃ目立って調べられないんだよな。辺境は魔人か竜族に調べて貰うのがいいと思う。」


 スプーが話すのを止めると、ノックの音がして骸骨が入ってきた。

「初めまして、瑠璃さんと燕さん。次男のイフです。元気だったかレオとマリー。」

「うん。イフも元気そうだな。イフは仕入れ担当だからたまに僕の野菜や卵を下ろしているんだよ。こう見えて強いんだよイフは。剣に炎を纏わせて戦うんだ。」

 さり気なく視線を外している皆。

「ああ、前に聞いた炎の剣を使うっていう骸骨さんですね。レオは氷の剣。なる程、類友ですねえ。」

 瑠璃と嬉しそうなイフとレオ以外、皆の肩が少し震えている。

「まあ、せっかく来たんだしぜひうちの宿と飯を堪能してくれ。今回は感想と引き換えに無料サービスだ。他種族の意見は貴重だからな。」

 笑いながら下の食堂へ向かっていくスプー。レオとイフは2人で盛り上がっていたので置いていかれた。


「うちは宿と食堂は庶民向けなんだ。人外と魔人が多いから、量も沢山食べてって感じだな。コッチが従業員用の部屋。今メニュー持ってくるな。」

 部屋に入ると兎族の男性達がいる。イメージと違い筋肉質だった為、瑠璃は真顔だった。

「お邪魔します。私がマリーで、瑠璃と燕さんです。」

「よろしくお願いいたします。俺達は兎族のビト、ダン、ヨンです。ウエイターです。」

 皆微笑んで挨拶する中、瑠璃の真面目な表情を見てマリーは良かったと呟いた。


 戻ってきたスプーは大皿のピラフと炒飯、サラダ3種類、大きなプリンを並べた。兎達も一緒に皆で取り分けて食べる。

「これ、次の店のメニューで考えているんだ。ご飯系とサラダ系とデザート。うちはあまり女性向けのメニューがないから、少し加えてみようかって話になってね。」


 そこにコックさんがパンをもってはいってきた。

「ボス、ラークの所に行ったら、又ガキが2人いなくなったって言って探してるんです。先月は、カンが大人が1人いなくなったって言ってたけど、大人だから気にしてなかったんですが。

 ちょっとおかしいかなって思って、どう思いますか。」

「お客様がいるんだ。周りをよく見てから話せ。ごめんな、ちょっと話してくるから先に食べていてくれ。すぐ戻るよ。ビト、ダン、ヨンよろしくな。」

 2人とも部屋を出て話しているが、地声が大きく丸聞こえである。出て行った意味がない。どうやら、最近少しずつスラムから人が消えているそうだ。

 スプーがすぐに指示を出している。

「とりあえず、ここ半年くらいの失踪事件を片っ端から洗え。エルフにも協力を求めるんだ。竜騎士団のコックならすぐ捕まるしコック同士違和感もない。コッソリ伝えられるな。今から行ってきてくれ。」

 コックさんがドタドタ走っていく音がした。皆話を聞きながら食事を終えて、マリーが出した紙にそれぞれ感想と要望を書きながら待っていた。

 スプーが戻ってくると立ち上がるマリー達。

「何だか大変な事になっているじゃない。私達がいたら邪魔になるから、今日は泊らないで【ツリー】に帰るわ。手伝えることがあったら連絡してね。後、料理の感想の紙よ。美味しかったわ。」

「ああ、ありがとう。気を付けて帰ってくれ。何かわかったら連絡するよ。失踪も瑠璃さんの方も。瑠璃さんも慌ただしくてごめんな、今度ゆっくり遊びに来てな。」

 互いにお礼と挨拶を済ませ、レオもつれて店を出る。燕は竜族に知らせていた。


 その時燕が小声で話す。

「周囲を探索しながら進んでいますけど、路地裏で子供の声が聞こえますね。揉めているようですが、行ってみますか。」

「行こう。マリー、瑠璃を連れて店にいって。念の為スプーに知らせてね。燕さん先導よろしく。」

 2人はあっという間に駆け抜けていった。心配そうなマリーを見た瑠璃。

「マリー、私がお店に行って伝えるから2人を追いかけて。私は大丈夫。すぐ目の前がお店じゃないの。」

 少し迷ったがマリーは、店から出ないように言うと追いかけて行った。


 瑠璃が店に戻ると、皆探索に行く為にお店が閉められていた。

「あれ、どうしよう。私が足手纏いだから1人で来たけれど閉まってるなんて。でもウロウロしたら駄目よね、ここで待ってれば皆来るでしょ。」

 瑠璃が立っていると知らない兎族の男性が近づいてきた。

「あ、さっきボスと一緒にいた人だよね、レオとも一緒だったでしょ。どうしたの。」

「実はお店で待ち合わせすることになって、閉まっているのでここで待とうと。」

「じゃあ隣の店が開いてるから、そこに行けばいいよ。」


 用心深くなっていた瑠璃、指輪の事を思い出し、指輪に触れてマリーを思い浮かべる。

「皆とすれ違ったら嫌だし、知らない人について行くのはちょっと怖いので。」

 次の瞬間、後ろから殴られ大声で叫ぶ瑠璃。

「痛いじゃない。あれ、痛くない。」

 驚いた顔の兎男、とっさに後ろにエルボを繰り出し、前の兎男の足を思いきり踏みつけグニグニと足を踏み続ける。その間助けを求めて思い切り叫び、後ろを振り返ると猫人がいた。瑠璃は猫人のしっぽを握りしめ引っ張ると猫が凄まじい悲鳴を上げる。


 そこに燕が帰ってきた。すぐウサギと猫を気絶させる。レオとマリーも子供を連れて戻ってきた。

「大丈夫、瑠璃。本当に無事で良かった。まさか瑠璃を襲うなんて。」

「大丈夫よ、怖かったけど。頭殴られたけど痛くなかったのは、マリーのネックレスのおかげよ。ありがとう。」

 抱き合う2人にほっとした様子のレオと燕。燕は気絶させた兎男を縛り付ける。必死の瑠璃は猫のしっぽを握りしめたままだが、燕とレオは気絶している猫人も縛ると尻尾の事はほっといた。

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