第17話初めての【ロウキ】

 【ロウキ】に着いた瑠璃は驚いたように目を丸くしていた、着物を着ている人が沢山いたのだ。

 着物を見ていたら故郷を思い出したのか、瑠璃の目には涙が溢れてきて黙って俯いた。

「ここが、【ロウキ】。」


 呟いた瑠璃を見て泣いているのに気付いたカール、慰めるように背中を優しくさすってくれる。

「そうだよ。【ロウキ】では殆どの人が着物を着ているんだ。服の呼び名は異世界人が呼んでいたのが広まったそうだ。着物を見ると異世界人は本当に嬉しそうな顔をするね。彼らの故郷の服に似ているらしいから、瑠璃さんも思い出しちゃうよね。


 エルフの国と違って、【ロウキ】と【ラト】は煉瓦の家で統一されてるんだよ。国によって雰囲気が変わるよな。同じ【ラト】でも森で暮らしているレオ達は木の家だしね。


 転移門は城壁内にあって、あそこで検問するんだ。人外と人外以外に分かれるんだけど、異世界人は人外枠になっている。前回の大戦で人外側で戦っていたし異世界人は人外と一緒に暮らしている事が多かったから人外枠になっているそうだよ。

 検問は転移門を使うと到着先に連絡が行くから、名前と種族を言うだけでいいんだ。問題がなければすぐ通してもらえる。

 異世界人のいる所を竜騎士に聞いておいたから、検問が終わったら会いに行こう。」


 涙が止まり顔を上げた瑠璃は、微笑んでお礼を言った。

「もう大丈夫です。故郷を思い出しちゃって、色々な感情が溢れちゃいました。

 着物は、私の国で特別な時に着たり、結婚式とかだともっと豪華にした物を着るんですよ。昔は普通に来ていたそうなんですけれど、今は私達の国でもカールさん達みたいに洋服を着ている人が多いですね。

 こちらの世界に来た人の居場所を調べてくれてありがとうございます。教えてくれた竜騎士の方にもお礼を伝えてください。」


 瑠璃が落ち着いたので2人で一緒に人外の方の検問所へ向かう。エルフの兵士が待っていた。

「こんにちは。エルフのカークと異世界人の瑠璃さんです。」「こんにちは。瑠璃です。」

「こんにちは、カークさん瑠璃さん。【ツリー】から連絡きてます、通っていいですよ。」

「ありがとう。」「ありがとうございます。」


 検問が終わって街に入るとカールが異世界人の事を話してくれる。

「【ロウキ】には今5人の異世界人がいるそうだよ。

2人は夫婦、後は男性1人に女性2人だけど、1人は獣人と結婚するんだって【ラト】に移るらしい。落ち着いたお店で会えるようにしたから、ゆっくり話すと良いよ。俺は少し離れた席にいるからね。」

「分かりました。会えるように準備してくれて、ありがとうございました。」

「どういたしまして。俺たちは友人、そんなに遠慮することはないよ。」

 笑顔で頷いた瑠璃。2人は一緒にお店へ向かって歩いていく。


 待ち合わせのお店の中は、カウンターと3つのボックス席のある小さなバーのような内装だった。

「貸し切りにしたんだ。お店のオーナーは友人でね。あそこに4人いるね。」

 ボックス席に向かって歩くカール、立ち上がる4人の男女。

「こんにちは、エルフのカークです。こちらは異世界人の瑠璃さん。異世界人の方ですか。」

「はい、異世界人の隼人です。妻のめぐみに、カンナさん、学さんです。」

「では、後は皆さんで。瑠璃さん、向こうにいるね。」

「はい、ありがとうございました。」


 瑠璃は同じ世界から来た人達に挨拶をする。

「初めまして瑠璃です。今日は来て頂いてありがとうございました。異世界には来たばかりで、同じ世界に来た方のお話が聞きたくて紹介してもらったんです。」

 黒髪で少し小太りの中年男性が話し始めた。

「初めまして、隼人です。こちらには妻のめぐみと一緒に25年前に来ました。

 この中では一番古いのかな。私達がここに来た時には、鬼族と結婚した梅さんと楓さんもいたんです。瑠璃さんが帰れる方法を調べていると聞いています。残念な事ですが、今まで帰れた人がいるとは聞いたことがありません。私達、帰る方法は何も分からないんです。」


 表情が曇り落ち込んでいるように見える瑠璃。

「そうですか、教えて下さってありがとうございます。」


 瑠璃は気持ちを切り替えて、彼らがどのような生活をしているのか質問する。

「私はこちらに来てすぐ骸骨族の方にお会いして、お世話になり【ツリー】に連れてきてもらったんです。その後はカールさんに【ロウキ】に連れてきてもらって。とても良い方達に出会えて幸運でした。

 皆様は今どのように暮らしているのか聞かせてもらっても良いですか?」


 隼人の妻のめぐみが答えてくれる。少しふっくらしている中年女性で相手に安心感を与える雰囲気だ。

「勿論大丈夫よ。私達夫婦は、宿屋の経営とボランティアで来たばかりの異世界人の世話をしているの。

こちらの常識を教えたり、不安になる事も多いだろうから相談にのったりしているわ。

 後は、スラムの孤児達に仕事を依頼したり、勉強を教えてくれる場所の紹介をする活動をしている有志の会に参加しているわ。」


 まだ若く元気で可愛らしい女性が話し始める。

「私はカンナです。19歳の時に来て今6年目になります。今は隼人さん達の宿屋の受付をしています。私は昼間担当で、今来ていない姫子さんと言う方が夜担当です。

 もうすぐ猫獣人の彼カイと結婚して【ラト】に移住するんです。カイの家も宿屋をやっていて一緒に【ラト】で宿屋をやることになりました。獣人は家族になると絆が強くなるんです。自分の家族には会えないけれど、結婚して新しい家族と一緒に幸せに暮らしたいなって思ってます。

 私は帰る情報がなくても諦められなくて、でも今はカイに出会えてこちらで暮らしていく決心が出来たので遠くお嫁に来たと思う事にして故郷に帰る事は諦めたんです。」

「そうでしたか、ご結婚おめでとうございます。カンナさん達の幸せを願っています。」

「ありがとうございます。」


 明るい笑顔にはきはきとした口調、頼れる兄貴と言う感じの風貌だった。

「じゃ最後は俺だな。学です。よろしくな。俺は今25歳でこちらに来て6年目なんだ。

 元々料理人になるのが夢で料理学校を卒業して修行に入る前にこちらに転移。

 俺は自分の店を持つことが夢だったし、家族も幼い頃に事故で皆死んでて、帰る家がないからね。元の世界に帰ろうとか帰りたいとは思ってない。だから、そういう情報も集めなかった。

 今は、小さいけど定食屋のような店をやっているよ。孤児院出身で料理の腕がありそうな奴を雇って見習いで育ててるんだ。接客を【ムーン】の友人ニナって子にやってもらってる。」


 学が話し終わると、外を見ていたカンナが慌ただしく立ち上がった。

「そろそろ姫子さんが来そうですね。交代するので先に戻ります。瑠璃さん失礼します。」

「そうなのか、俺も戻るよ。あの人苦手で。今度ご馳走するからうちに食べに来なよ。俺に出来る事なら何でも相談に乗るからさ。じゃまたな。」

「お二人とも、ありがとうございました。」

 瑠璃の言葉が終わるなり、二人そろって裏口から走って出て行った。


 困ったように笑った隼人達。めぐみさんは少し嫌そうに話し出す。

「一応紹介はするけれど、あの子は何も情報は持っていないし、持っていると言ったならそれは嘘の確率が高いから気を付けてね。

 カンナさんがその嘘に引っかかって立入禁止のエルフの詰め所に侵入したの。特別な転移門があるって聞いてね。事情を知ったエルフさんが同情して、竜舎の中を案内してくれた上に無罪でカンナさんを帰してくれたの。姫子さんにも注意してくれたんだけど、反省してないのよ。

 カンナさんが結婚すると分かって、今は獣人との結婚に嫌味を言ってるわ。

 気を付けてね。あの子は帰れない辛さとこちらで馴染めない苛立ちから、誰でもいいから攻撃したい気持ちみたい。辛い気持ちはよく分かるんだけど、皆一緒じゃない。乗り越えるしかないけど難しそうね。」

 そう言って悲しそうにため息をつく、めぐみ。


 その時1人の女性が入ってきた。男性が守ってあげたくなるようなか弱そうで可愛らしい女性だ。

「初めまして、姫子です。あなたが瑠璃さんかしら。

私は10年前にここにきて、隼人さんにお世話になって宿屋の夜の受付をやってるのよ。」

「瑠璃です。よろしくお願いします。」

「このお店会員制だから初めてなの。結構オシャレね。これならまた来ても良いかな。

 その服可愛いわね。拾ってもらえたのは嬉しいけれど、宿の仕事だとお給料少なくてそういうの買えないの。

瑠璃さんはいつから働くの?カンナさんがいなくなるからちょうど良かった。」


 少し首を傾げた瑠璃。

「今後の予定はまだ未定なんです。今、帰る情報がないと聞いたばかりで、まだショックで。

 皆様との話が終わったら一度友人に連絡を取って、色々相談したいなと思っています。今日は皆様、お忙しい中集まっていただいてありがとうございました。」

「ううん、こちらこそ。会えてよかったわ。困ったことがあったらいつでも来てね。隼人や学君もいるし相談にのるわ。」

「そうだね、私達も何かわかったらお知らせします。じゃ、姫子さんも宿に戻ろう」

 不満げな顔をして去っていく姫子の後から2人とも帰っていく。


 帰っていく皆を見送ると、瑠璃はカークの所へ戻った。

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