第25骨「眷属頼りだ!死霊使い!」

 黒瀬が対峙している、砂鯨は並みの鯨よりも遥かに巨大な鯨である。しかし、夜空にも砂鯨のような怪物鯨が存在している。

――それは、くじら座、ティアマト。


 ギリシャ神話、エチオピア王家の物語に登場するその鯨は、生贄である姫を襲う怪物として描かれている。


 王妃カシオペアが、自身の娘であるアンドロメダを美しいと自慢した。それにより、神々の怒りを買ったカシオペアは神々により娘のアンドロメダを生贄にするほかなくなった。海岸の岩場で鎖に繋がれたアンドロメダ、その生贄アンドロメダを喰う役割を担っていたのが怪物鯨ティアマトである。

 ティアマトは津波や洪水を起こすなど暴れ放題の状態だったと言う。


 そのティアマトを見事退治した人物がいる。それが、英雄ペルセウスである。ティアマトを無事退治したペルセウスは、その後アンドロメダと結婚しこの物語は閉じる。


 今回、黒瀬の物語では二人の少女、今湊咲愛、今湊莉愛が囚われの身となってしまった。前述したエチオピア王家の物語のように、黒瀬は英雄ペルセウスとなり、囚われた二人の娘を救うことができるのか……


「砂鯨を倒すには……メデューサの首を使うのじゃ!」


 ピザピンちゃんはドヤ顔で、荒唐無稽なことを言ってのけた。メデューサの首なんて一体どこにあると言うのだろうか。少しでも幼女の眷属に期待した俺が馬鹿だった……


「知らんのか、主? メデューサの目を見たものは石になってしまうのじゃ!」


 いや、決してその話を知らないわけじゃない。そのメデューサの首があったら最初から苦労なんてしていない。


「首ならここにあるのじゃ! ここに!」


 ピザピンちゃんはあろうことか自分の首を指さした。ん? この幼女がメデューサだってことなのか?


「ピザピンちゃん、砂鯨を石に変えれるって言うのか」


 まかせるのじゃ! そう息巻いてはいたものの、そんな能力があればとっくに俺たちも石にされていただろう。


 だが、もう打つ手がなかった俺はピザピンちゃんの妄動もうどうに付き合う他なかった。


「まあ、どうやら向こうも休憩してるらしいし、次はこっちから攻めさせてもらいますか」


 俺はピザピンちゃんに石化魔法を唱えさせた。


「いくぞッ!」


――石濫雲ガルシュタイン


 幼女を首根っこで掴んだ俺は、そのまま自分は目を合わせないように砂鯨の方へと向けた。本当にこんなのであの大きな鯨の動きが抑制できれば儲けものなのだが、人生そんなにうまくいくわけがないだろう。


「ほらみろ、結局、こんな小手先だけの技で石化するわけ……」


 机上にこぼした水が波状をなしてじわじわと濡れ出すように、砂にぽとりと落とした一粒の水滴がじんわりと染み込んでいくように、巨躯がみるみるうちに灰色に染まってゆく。


「ほら、言ったじゃろ!」


 今回に関してはこのアイデアをひねり出したピザピンちゃんに脱帽だ。どうしてこんな奇天烈な作戦が成功するんだ。ってかピザピンちゃんの脳内はどうなっているんだ。


「ま、これが余の力、アイティオコピン家の力じゃ!」


 幼女のしたり顔を眺めながら、俺は二人の眷属を救うため、石化した砂鯨の体内へと潜入することにした。


 待ってろ二人、今、俺が、助け出す!

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