第16骨「やってみせるもん!死霊使い!」

「いやさ、マスター、やっぱりさ、あたしか莉愛が生きてたらサイキョーじゃん? 魔法使い放題じゃん!」


「まあ、ほんと二人がいてくれて良かったよ……ありがとな、咲愛、莉愛……」


「そういう時は、サキアリアって言ってよ!」


 その芸名、ネタじゃなかったのか。


 黄塵万丈こうじんばんじょうの大地を一歩一歩踏み締める様に歩く三人。足が砂に絡みついてくるようで上手く歩くことができない。


「水分足りずにミイラになったりして……」


 莉愛がこの発言をし終わった後、俺たちは偶然にもそのミイラを見つけてしまう。


 鉛筆で描いたような二本の細い目、深くくぼんだ眼窩がんか、不気味なまでに突き出た頬骨、その全てが長い歴史を物語っている。

 苦しみながら死んだのだろうか、一縷の望みに最後まですがるが叶わなかった、そんな深い絶望、形容しがたい悲痛な叫びを今なお、訴えかけている。


「ちょっと、ちょっと、ちょっと! これミイラ! 私、初めて見たわ……」


 不吉なものを見つけてしまったと、少し目を伏せながら眺める莉愛。止まらない死の連鎖、ツタンカーメンの呪いなんかを考えると、なるべく関わるべきではないのはたしかだ。


「いや干物かもしれないよ。パサパサだし……」


 咲愛は相変わらずの自由奔放な言動である。パサパサだから干物って安直すぎるし、明らかに人の形をしているんだから、干物な訳がない。


 俺は、いやそれミイラさんに失礼だろ、なんて言う訳の分からないフォローを入れたところで、気が付いてしまった。


「これ、俺、やれる! 生き返る、ミイラ、蘇る!」


 なーにカタコトになって言ってんのよと莉愛に冷たい目で見られたが、突然のことで少し興奮している自分がいた。骨の次はミイラを蘇生させることができるなんて!


「ま、どーせ失敗するからみといてみ、莉愛」


「ま、そうね。マスターは私たち以外蘇生できたことはない。まったく程度の低い死霊使いネクロマンサーよ」


 度重なる失敗で、すっかり二人は俺の実力を過小評価していた。マスターなのに信用ないなんて不甲斐ない……


「よし! 見てろ! 父さん今度こそ成功させてやるからな~」


「あ、これ無理なやつだ」


「そもそも、父さんじゃないし、マスターだし」


 完全に冷めた態度の二人、まったく俺のことを信じていない目だ。


 いいもん! 俺、やってみせるもん!


「腐敗し、白骨化した木乃伊ミイラ、湿潤断熱にして、水分良好。うるおい、したたり、周流しゅうりゅうする生命の海原。もう一度、たたえよ、命の泉!」


「なんか、セリフ変わってない?」


「あー、これオリジナリティ出しちゃったやつだ。ダメだよ~、初心者の死霊使いなんだから基本からきっちりやらないと~」


 もう完全にマスターをめ腐っている眷属の構図だったが、こんな時にこそ成功させれば、俺の名誉挽回、汚名返上に繋がるんだ。


「おおッ! 何やらいつもより黒い霧多めじゃないですか」


「これはもしかしちゃったら、もしかしちゃうかもですね~」


 俺の降霊術は今のところ上手く機能しているようだったが、ここのところ二回連続で、ただの骨を生産しているので一切気は抜けない。


「頼む! 成功してくれ!」


「ま~たマスター頼んじゃってるよ」


「まあ頼むの上手い、ライですから」


 一念天に通ずと言う言葉があるように、強い信念があればその思いは天に通じて成就するんだ! ただの前時代的な根性論だけど。


――あっ!


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