「後出し手紙」
小学校の頃、仲の良い友達と同じ人を好きになってしまった。
「私、○○君が好きなんだよね」なんて、複数の友人と談笑しているときの突然の告白に、黄色い歓声と「協力する」発言が飛び交う中、一人の女子だけ、胸が張り裂けそうになるほどの気持ちだった。
あの時の過去が、今も自分をつないでいると、大学生になった今でも悔やむ日々が続く。
大学生になった女性とは、未だに分かれた彼氏に未練を持ち続けている彼女だ。
別れた理由はそれはもう酷いものだった。一人暮らしをしている彼氏のアパートに行くと、寝具で寄り添っている彼氏と知らない女がいた。要するに、修羅場を目撃してしまったのだ。
それがきっかけとなり、彼女は別れを告げた。彼氏はあっさりと了解した。
なぜ、それほどまでに酷い別れ方をしたのに彼女のほうが未練を持ち続けているのだろうか。それは一般的には理解しがたいかもしれないが、もちろん彼女自身も明確な理由は浮かばない。
でも彼女には「手紙」の過去がある。
「今日告白する」と、友達は息巻いていた。またしても黄色い歓声を上げるほかの友人。友達も、その流れに同調して「頑張れ」とエールを送った。心の中では、「私も好きなんだよね」なんてつぶやいたものの、言える状態ではないことぐらい小学生の彼女でもわかっていた。
そして、友人は学校が終わった後に、○○君に手紙を渡したのだ。彼女は、取り巻きのほかの友人と、その現場を遠くから見守った。
○○君は、返事をどう返すのだろうか。
落ち着かない彼女。落ち着かない女子たち。彼女とほかの女子たちの「落ち着かない」は、まったく違う意味を成していた。彼女は後悔した。もし、○○君がオッケーの返事を出したら、友達と付き合ってしまう。私も好きなのに。その日彼女は、家の枕を涙で濡らした。
だが、彼女に転機が訪れた。友達が振られたのだ。
その話を取り巻きの友人から聞き、すぐに告白した友人のもとにいった。友人は涙を浮かべていた。ほかに好きな子がいるのだと、振られたらしい。
彼女は、その「ほかに好きな人がいる」という意味よりも、「振られて付き合わなかった」という事実のほうが重要だった。これなら、私も告白できる。こうして片思いをずっとしているよりも、ほかの女の子にとられるよりも、今告白しなくちゃ、と、彼女は焦っていた。その日、泣いている友人を励ましながら、帰宅した彼女は早々にラブレターを書いた。そして次の日に、彼の下駄箱にひっそりと入れた。
その過去がどう彼女とつながっているか、それは彼女しかわからないだろうが、彼女自身もまるで明白ではない。
彼女が、そのあと○○君と付き合ったという事実は間違いない事実である。
だが、彼女はすぐに○○君と別れた。
理由は、不明であり彼女自身もよくわかっていない。
だが彼女は自覚がない。「ほかの人と付き合っている人」を好きになるという事実は、その時になってからじゃないとわからないこともある。
今の現実と過去をどうつなげていけば、今の彼女とつながるのかなんて、誰もわからない。
ただ、その過去で一つ後出しになる事実はほかにもある。
○○君は友達が告白する前に、別の両想いだった女の子がいた。
それならなぜ友達が「ほかに好きな子がいる」と言って振られたのだろうか。もちろん、小学生の付き合いなんて、大人と比べれば浅はかな恋愛事情であることは明白だ。
だが、友人は振られ、彼女は付き合うことができた。
彼女は、その両想いになっていた女子についてを知っていた。でも、好きだった。
その事実を知っていた彼女が、付き合う前から知っていた事実と付き合ってから別の女子と付き合っていたという現実を知る事実は、彼女にどう映っていたのだろうか。
まさに今、その彼女を作り上げてしまったともいえようか、又は彼女自身がそのまま大きくなって彼女なりの恋愛観として備わってしまったのか。
わからない。
今現在で唯一わかるのは、別れた彼氏に未練を持ち続けていることということだけ。
だからこそ、彼女は恐ろしい、ともいえようか、自覚がないということは罪深き事ではないのだろうか。
どちらにしろ、別れた彼氏には「別の女がいる」ということは彼女自身もわかっている事実。
でも、あえて未練を持ち続けているのは、そういうことだろう。
今日も二人は同じ場所で片思いを語り続けるが、もう一方の女子はその過去も、その事実も、詳しいことはわかっていない。ただ、未練を持ち続けている相手に別の女性がいることぐらいは知っている。
だから、安堵しないのだ。もう一方の女子は。
そしてもう一方の女子は、きれいな片思いを見て何を思うのか。
この先が、どうなるかなんてわからない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます