第17話 冒険

 五泊分の安ホテルがセットになった飛行機往復チケットを買うことになってしまった。ホテル無しのチケットがよかったのに。


 帰る日を決めなきゃいけないから、お姉ちゃんに事前にメッセージを送ったのに返事が来ない。待ってる間に値段が上がった。だから諦めて先に買うはめになったじゃないか! 泊るところをお姉ちゃんが提供してくれるんじゃないかって甘い期待してたのに。女子修道院があるなら、おれは男子修道院に紹介してもらえるんかな、とか。


 サピエンツァ校というのを地図で探したらローマのほとんど中心にあった。

 おぉ、便利なとこっぽい。お姉ちゃんに会ったら有名な場所に連れて行ってもらおう。


 飛行機に乗る日になっても連絡が来ない。


 英語さえよくわからないのにイタリア語かぁ。なんで返事くれないんだよぉ。


 生まれて初めての外国に到着した。必死の思いで空港と市内を結ぶ列車に乗ることができた。大きな駅を出ると日は暮れている。アフリカから海を越えて来たと思われる大勢の人たちが歩道にあふれていた。緊張しながら予約したホテルを探し、緊張しながらチェックインし、緊張しながら部屋のドアのカギを内側からひねった。


 なんで無視する? たかが、充電するんだって、外国じゃぁ、おれには泣きそうなくらい大変なんだよぉ。


 翌朝、大学に辿り着き、あらかじめ調べていた薬理学校舎に向かった。「事務所はどこですか」というイタリア語を連発するたび、相手は英語で返してくれる。


 何を言っているのかわからない。イタリア語で返されてもわからないけど。グラッツィェと笑顔で言い、指先が示す方向に歩く。


 たどり着いた事務所の女性にパスポートを見せながら、あらかじめ作文し記憶した英語で、姉を探している理由を伝えた。その優しそうなおばちゃんはゆっくり、英単語を一つ一つ区切りながら「彼女は、いない、ここには。レッ ミースィ、」パソコンの画面に向き直し、スクロールしながらクリックした。「休学手続きをしてるわ」と言った。


 はいぃ? 休学、手続き、という彼女の英語音声をスマホで翻訳し、思考停止に陥る。


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