第16話 フィラ用の武器作り

 フィラが正式に仲間に加わった、翌日。三人から挑戦できる良いクエストがあったので、俺達はようやく三人で初仕事をすることになった。

 受けたのは【磁力獣の掃討】というクエストで、俺達は目標が多くいるジャングルへと足を踏み入れている。周囲には背の高い木が何本も聳え立ち、葉と葉の間から零れた光だけが辺りを照らしていた。


 割の良いクエストなので誰かが先にクエストを達成しないよう急いで目標を探したいところだったが、俺とレオナはまだフィラの実力を把握しきれているわけではない。

 冒険者稼業に焦りは禁物。まずは手近な魔物との戦いで、彼女の実力を把握することにした。


「それで選んだ魔物が、クルーエルビーですか……」

「前の伸縮槍は糸槍に改造しちゃったからな。フィラのために、もう一本槍を作っておきたかったんだよ」

「成る程、槍なら私でも使えるかもしれませんねっ!」


 自分が戦うことになった魔物を見て一瞬気後れしたフィラだったが、その素材から武器を作ってやると言ったらやる気を出してくれた。


 だが、彼女が持っている武器は俺の作ったものではなく、元々持っていた大剣である。ジャングルで肥大槌は弱いし、糸槌は扱いが難しい。なのでライトニングソーを渡そうと思ったら、「生きてるなら蛇さんが可哀想です……」と難色を示したのだ。

 ライトニングソーを喜んで使っていたレオナは、「また女として負けたにゃわんっ!」と戦慄していた。君、このまえぶん投げてたしね。


「私の武器のためにライアさんが頑張ってくれるんです。ここで情けないとこ見せられません!」


 フィラはそう意気込んで、自分が持っていた剣を鞘から放った。ただやる気が出すぎたのか、彼女はレオナが動き出す前にクルーエルビーに向かって特攻していく。


「おいフィラ! 勝手に前へ出ると危ないぞ!」

「大丈夫です。私だってちゃんと戦え……」


 忠告に対し意気揚々と答えながら、フィラがクルーエルビーに向かって剣を振り上げる。しかし彼女は鎧が重いこともあって姿勢を維持しきれず、剣を頭上まで振り上げた途端にくらりと揺れた。


 そのまま剣の重さで後ろに倒れ、ガシャンという大きな音を立ててジャングルの地面にのめり込む。いきなり隙を晒した森の闖入者を見て、人間の赤子サイズはある大型蜂が六匹もフィラを取り囲んだ。


「ブブブブブブブブ……」

「ひえっ、ひえぇぇぇぇ!」


 フィラの視界は今、蜂の顔と尾で埋め尽くされているところだろう。このままではトラウマになってしまいかねないので、俺はレオナにクルーエルビーの掃討を頼んだ。


「レオナ」

「分かってるにゃわん! まだ扱いは慣れてないけど、あそこまで集まってくれれば……今にゃわんっ!」


 取り囲まれたフィラのため、レオナが荷車に載せて持ってきた糸槌を作動させる。最初に使ったときは流石に制御が効かなかったが、もう大分慣れてきたようで難なく浮かせた。

 レオナは周囲の木を薙ぎ払う勢いで糸槌をぶん回し、遠心力をつけてからクルーエルビーの群れを粉砕する。六匹もの魔物を一撃で倒すとか、糸槌を持ったレオナは割と無敵に近いんじゃなかろうか。


「うびゃあああっ!」


 そして潰れた蜂のエキスまみれになったフィラは、奇妙な叫び声を上げるとまた気絶したのだった。






「はっ! 今何時ですか!? 虫ケラどもは!?」


 それから数分もしない内に、彼女は試験の時と同じような叫び声を上げながら身を起こした。虫ケラどもって言い方がちょっと気になるけど……どんだけトラウマだったんだよ。


 気絶からの復帰も速くなってるし言い草も怖いし、もし彼女が化け物に成長したら俺の無茶振りのせいだよなぁ……。

 俺はフィラの将来に言い知れない不安と期待を感じながら、彼女の質問に答えた。


「大丈夫、心配しなくてもレオナがちゃんと倒したよ。糸槌で倒したから半分以上の素材が綺麗に採取できなかったけどな」

「そうなんですね……。あの、私の実力を見て幻滅しちゃいましたか? 前の試験では実力まで見てなかったし、やっぱり私は要らないとかって……」

「だから心配すんなって、君を見捨てたりなんてしないよ。それに君が思うように動けないのは、実力云々以前に装備の問題が大きいと思う」


 まだ余計な心配をして涙目になっているフィラに苦笑しながら、俺は自分の見解を話した。


「装備……ですか?」

「ああ。君は自分に自信がないから硬い鎧や大きい剣を持ってるんだろうけど、身の丈に合わない装備をつけるのは逆効果だ。むしろ君は、体の軽さっていう自分の強みを活かすことを考えた方が良い」

「自分の……強み……」


 俺のアドバイスを聞いて、フィラが喜びから頬を染める。今の言葉を信じ切れてはいないようだが、表情が緩まないように頑張って真顔を保とうとしているのが可愛かった。

 自分の強みって、自分じゃわからないもんだしな。彼女がそれを実感できる装備を作ってあげたいね。


「ってことでフィラ、服脱いで」

「はいっ! ……って、え?」


 元気を取り戻したフィラが俺の言葉に元気よく頷き、その直後にガチの真顔になった。真っ黒い瞳が何も映してない。


「今、聞き間違いにゃわん? 服脱いでって、こんな森のど真ん中で……」

「ん? 聞き間違いじゃないよ、レオナも脱いでくれ」

「3P!?」


 レオナはフィラと対照的に、真っ赤になった顔からあらゆる感情が噴き出したようだった。何か叫んでたけど、さんぴーって何のことだ?


「デリカシーがないとは思ってたにゃわんけど、それ以前に性癖が歪んでたにゃわんね? あぁ、でもそれはそれで「アリ」だと思ってる自分がいるにゃわん……っ!」

「私に優しくしてくれた時点で、こういう事だろうとは思ってました。そうです、こんなこと想定済みなんです。大事なのは覚悟、怖くない……何も怖くない……」


 彼女達はお互いブツブツ言いながら、自分の体を見下ろす。それからフィラは一気に鎧を脱いで、エキスまみれになって中が透けたインナーを晒した。

 レオナの方はまたも対照的に、自分に巻き付いている触手をそおっと焦らすように外していく。


 そうして二人とも下着姿になると、顔から火が噴き出そうなほど顔を赤くしてそれぞれの下着に手をかけた。


「え、いや下着までは外さなくて良いよ。装備さえ交換してくれれば、それで良いんだし」

「「はい?」」


 素っ裸になろうとする彼女らを制止すると、二人はすっとんきょうな声を出して動きを止めた。


 それから何かを察したようで、彼女達は一瞬でしゃがみ込んで自分の体を隠した。


「にゃわんっ! いくらなんでも言葉足らず過ぎるにゃわんライアッ!」

「いやいや流れ的にどう考えても装備の話だったろ! フィラの装備が重いから、レオナの触手装甲と交換しようと思ってたんだよ……。逆に何だと思ってたんだよ!?」

「うぅっ。フィラに先を越されたかと思って、我を失ってたにゃわん……」

「タダで優しくされる筈がないという不信感が暴走しちゃいました……」


 二人とも、ちょっと我を失いやすい傾向にあるようだ。


 やけに堂々と脱ぐから俺は男と認識されてないのかとちょっと悲しくなっていたので、そこに関しては安心したが……。むしろあんな素直に脱がれると違う不安が出てくるわ。


「ともかく、二人の防具を貸してくれ。サイズ調整するから……はい終わった」

「触るだけでサイズ調整する神業を披露してるんじゃないにゃわん! 君、やる気になれば最強の脱がせ魔になるんじゃないかにゃわん?」

「この変態っ!」

「謂われのない中傷っ!!」


 二人とも気が動転しすぎて、大分ひどいこと言ってる。まぁ俺の言葉が足りなかったのが悪いんだけどさ……。


 俺が色々な悲しみに暮れていると、彼女達はお互いの防具を交換し合ってから着込んだ。


「うぅ、やっぱ恥ずかしいですこの鎧……」

「それが一張羅だった私の前で、恥ずかしいとか言わないでくれないかにゃわん?」


 小柄な肢体を触手に巻き付かれたフィラは、すぐに慣れないようで体をモゾモゾと動かしていた。

 触手では隠しきれないので露出しているパンツのヒモ部分を、手で必死に隠そうとしている。


「でも動きやすいだろ? 少し動けば違いが分かるはずだ」

「……っ! 本当です! 鎧を着てても、これなら鈍いとか言われないかも!」


 フィラはその場で動き回って、いつもとは違う体の調子に思わず微笑む。やっぱり防具にも意識を払うのは大切だな。


「そんで、これがクルーエルビーの尾から新しく作った伸縮槍だ。フィラが使ってた剣より大分軽いはずだぞ」

「ありがとうございますっ!」

「あれ? 前見たときと反対側に刃がついてるにゃわんね?」


 俺が武器を渡すとフィラは笑顔で喜び、目敏いレオナは武器の異変を察知した。そう、この武器は以前の伸縮槍とは違うのである。


「それをどう使うかは……まぁ、実戦で理解した方が早いだろうな」

「えっ!?」


 俺が彼女達の後ろを指し示すと、遠くからクルーエルビーの群れが押し寄せてきていた。


 先程倒したクルーエルビーのエキスに呼び寄せられた、復讐に燃える蜂が襲いかかってくる……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る