17. これもお勤め

 午後はみちるさんといっしょに社務所の窓口に立った。


 メガネをかけると、世界がきれいに見える。


 よし、気分も一新! 気合い入れてがんばろう!


「へい、らっしゃい! うちの店はお買い得ですよ!」


「お店じゃない。授与所」


「ぎゃああああ!」


「おまもり大安売りですよ!」


「売らない。授与するの。というか値引きしない」


「ぎゃああああ!」


「料金六百円になります!」


「料金じゃない。初穂料はつほりょう


「ぎゃああああ!」


「まいどあり! 今後ともごひいきに!」


「……」


「ぎゃああああ!」


 頭がい骨の形が変わるかと思った。


「うーん。神社って独特の言葉づかいがあるのね。奥が深いわ」


「しずかの脳みそが浅すぎるんだよ」


 つぶやいたのどかの足を踏んでから、あたりを見まわす。


 よかった。みちるさんはちょうどいなかった。


「しずかちゃん、授与所でも元気いっぱいね」


 声をかけてきたのは、朝見かけた氏子のおばあさんだった。


「あれ、わたし、名乗りましたっけ?」


「昔会ってるのよ。まだちっちゃい頃だから、覚えてないわよねえ。二人ともこんなにかわいくなっちゃって。二人並ぶと神さまのお使いみたいね」


「えへへ、ほめても何も出ませんよ。そういえばその服、着替えたんですか?」


 朝は紫の和服だったのに、今は白衣に赤い袴、つまり巫女さんの服を着ている。


「ええ。授与所に立つときは、このほうがわかりやすいでしょう?」


「たしかに」


 普通の和服姿じゃ、神社の人なのかすぐにはわからないよね。


 おばあさんが社務所に立ったちょうどそのとき、みちるさんが戻ってきた。


「いつもお世話になっております」


 そして、おばあさんに深々と頭をさげた。


「こちらこそお世話になっています、宮司さま」


 と、おばあさんも礼を返す。


「今日もよろしくお願いいたしますね」


「はい。全身全霊をもってあたらせていただきます」


 そうしてお互いにお辞儀をくりかえす二人。大人ってたいへんだ。


「みちるさん、この後、何かするの?」


 と、のどかがたずねる。


「ええ。午後は祭祀があるの」


「僕たちは? 見学?」


 みちるさんは、一瞬、ほんの少しだけ顔をしかめた。


「いえ、今回はいいわ。後で祭祀が終わったら呼びに行くから、それまでは本殿周りの掃除ね。あそこ落ち葉がすごいのよ。しっかりね」


 と、みちるさんはわたしとのどかの頭をぐしゃぐしゃとなでた。


「それでは、授与所はよろしくお願いいたします」


 みちるさんはおばあさんにそう言いおいて、あわただしく去っていった。


 のどかと顔を見合わせる。


 何だろ? ちょっと変じゃなかった?

 言わないってことは聞くなってことでしょ。


「とにかく掃除しようか。きれいにしておかないと、また握りつぶされるよ」


 そう言って、のどかは歩きだした。

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