第26話 緑埜航平「どんな子?」

 まだ昼過ぎやけど、特警本部から出た。


 久々の自転車や。


 青砥さんに借りた自転車やから、ちょっとサドルが高い。




① 読書が趣味 → 本屋か図書館を探す


② 昨日の和菓子喫茶店で待ち伏せする


③ おそらくぬいぐるみが好き → そんな感じの店を探す




 葉菜さんに偶然出会うには、とりあえずこの3つや。


 僕は足に力を込めて、立ちこぎで自転車を走らせた。




「絶対、あの子を探し出したる!!」


「誰を探してんだよ!」


「せやから、葉菜さんやって言うてますやん! ……ふごわっ!」




 立ちこぎ自転車の僕に、ランニングで並走してるやん!!




 ギキキキキーーーーッ!




 僕は、急ブレーキかけて自転車を停めた。




「赤羽さん! 何してんすかっ!」


「ハナさんって誰だよ」


「……え?」




 ど、どないしょう……




「そ、そら、あれですわ。僕が、赤羽さんのコトが好きやから、絶対!って言うことですわ」


「ふーん」




 わー、人ってこんなにも、「信じてませんよ」って顔できるんや……




「で、どんな子?」


「いや、せやから……」


「どんな子! どんな! どんな子! どんな! どんな! どんな子! どんな!」




 あかん……、「どんなこ」でゲシュタルト崩壊してきた。


 赤羽さんがあんまりしつこいから、答えなしゃーないコトになってもた。




「で、どんな子? ……どこで知り合った? としは、名前は、性別は?」


「速い! 速い!! 『矢継ぎばや』って言葉、いつ使うか初めてわかったわ! ほんで、性別は女!」


「ほう! ミドにそっちの趣味はなかったか」




 そこからかい。




「で、こないだ青砥さんと行った店で知り合いました」


「いいじゃねえか! で、身長は?」


「身長?」


「おう!」




「んー、155くらいちゃいますかねえ」




 僕がそう答える直前に、赤羽さんが「としは?」って挟み込んできたから、変な空気になった。




「……」


「……ミドは、熟女好きか」


「ちゃうわ! 熟女にもほどがあるし、155歳の女なんか現存してへんでしょ!」


「そうか。で、指輪のサイズは?」




「は? そんなん知らんけど、8とか9とかちゃいますか」




 僕の「そんなん知らんけど」の直後に、赤羽さんが「としは?」って挟み込んできたから、変な空気になった。




「……」


「……ミドは、ロリ」「もうええわ!!」




 なんとか遮った。




「他は? 他は!?」




 なんで、そんなに興味津々やねん。




「んー、ワンピースが似合う、黒髪の美人で……」


「お! ワンピースってどっちの!? 洋服版? それとも?」


「海賊版は意味変わってくるでしょ! 洋服版ですよ」


「そうか。でも、ワンピースが似合う黒髪の美人なら、昨日見たぞ」




 赤羽さんは、言いながら歩道にしゃがんだ。




「どこでっすか?」


「小江戸屋」




 ちょっと期待したけど……、残念や。




「それはちゃいますわ。葉菜さんは、そんな小汚い店に行くようなタイプちゃいますもん」


「別に、そいつがミドの探してる女だなんて、言ってねえよ。単に、黒髪の美人が居たって話だ」


「いくら美人言うてもそんな女、葉菜さんに比べたら、月とスッポン。提灯ちょうちんがねですわ」


「そこまでじゃねえだろ。サニブラウンとケンブリッジ飛鳥、きのこの山にたけのこの里だ」


「新しいことわざ作らんといてください」




「邪魔」




 若い男の声が聞こえた。




 見ると、すぐ近くで背の高いアフロの男と、猫背のニットキャップの男が立ち止まって僕らを見てた。


 歩道を塞ぐように僕らが並んでたから、邪魔になってたみたいや。




「どけよ」




 アフロが言うた。




「あ、すんません」




 僕は自転車を移動させて、赤羽さんと縦一列になるようにして道を空けた。


 アフロが空けた道をゆっくり通った。


 ただでさえでかい上にアフロやから、身長以上にでかく見える。




 しゃがんだままの赤羽さんは、アフロの男を見上げて言うた。




「何の妖魔獣?」


「いらんこと言わんといてください」




 僕は小声で言うた。




 ドンッ!




「イテ」




 もおー、いらんことすんなや。


 明らかにわざとやん。




 ニットキャップの男は、しゃがんでる赤羽さんに足をぶつけて僕らを通り過ぎた。


 赤羽さんは当然、ニットキャップに言うた。




「おい! ニップキャット!」




 残念やけど、そいつは猫やない。




 ニットキャップは自分が呼ばれたことを理解したのか、立ち止まって振り向いた。




「はぁ?」


「お前、今、ぶつかっただろ」


「そうか?」


「おう。わざとじゃねえんだったら、謝れば許してやる。わざとだったら……、うーん、、、」




 考えてなかったんかい!




「わざとだったら?」




 ニットキャップは、余裕があるところを見せるためか、欠伸あくびをしながら右手を上着の内側に入れ、左胸をポリポリと掻きながら言うた。




「どうすんだよ?」




 慣れた感じの素早い動きやった。


 ニットキャップが上着の内側から出した右手に握られてる拳銃の銃口は、こっちに向いていた。

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