第17話 緑埜航平「緑の拳士 VS 漆黒の淑女」

 どないしょー! こんな格好で出て行かれへん!




 なんかの急用で、出て行くんはしゃーないとしても……


 葉菜さん、僕のスラックスまで持って行かんでも!!




 上が背広で下がスカートって……、今までに見たことない種類の変態やないか。




 けど、ボウエイジャーの出動命令が来たんや。迷てる場合やない!




 こんな姿になった経緯を知ってる店の主人は、あわれみの目で代金を受け取った。






 それにしても……


 ブレンドコーヒーを勧めてくれた葉菜さんに、コーヒーが濃いかどうかを訊いたとき、なんで「存じません」って答えたんやろ。


 知らんのやったら、勧めへんかったらええのに。






 店の裏側の人目につかへんとこに回った。変身するためや。


 そこには当然、誰もおらへん。


 せやのに、なんやろ? さっきまで、誰かおったような気配がする。




 まあ、気にせんと、スマホの変身用アプリを起動する。


 一応、決まりやから、掛け声もやっとく。




「変身!」




 アプリの緑色の「変身ボタン」を押したら、僕の身体全体を光が覆って、僕自身が光ってるみたいや。




 で、2秒で変身完了。


 僕の身体は緑色を基調としたレンジャースーツに包まれた。正直、かっこええ。


 一応、決まりやから、掛け声もやっとく。




「【特警戦隊ボウエイジャー】ボウエイ緑の拳士グリーン!」




 誰もおらへんけど、ポーズも決めた。


 その後すぐ、僕は現場に向かって走り出した。






 アプリで位置を確認したら、他の4人は既に現場近くまで来てる。


 しゃーない。


 空を高速で移動できるKAIDO[高速AIドローン]を起動させようとした。




 うおおおぉぉぉ! あれは!!




 道の端をゆっくり、こっちに向かって歩いてるお婆ちゃん。


 その更に向こう。僕とおんなじように走る、見慣れた後ろ姿!!




「待て! こらぁ!」


「ほほう、こんなところで出会うとはな! 良いのか? 急がずとも」




 振り向いたそいつは全身黒いスーツ、目には怪しげなマスク。


 予想通り、【漆黒の亡霊ブラックファントム】の幹部、漆黒の淑女ブラックプリンセスや!




「お前も遅刻してんのんちゃうんか!」




 漆黒の淑女ブラックプリンセスは、痛いトコを突かれたみたいな顔をした。




「ま、まあ、レンジャーの中でも一番弱いお前が行ったところで、結果はさほど変わらぬか」




 僕は、痛いトコを突かれた顔をした。




「少なくとも私は、貴様よりも数倍強い一般人を知っている!」




 そんなヤツいてるか! ……いてるんかな?




「くそ、腹立つやっちゃ! この場で倒したるわ!」




 僕が漆黒の淑女ブラックプリンセスに向かって走り出したら、急に苦しみだしたのは、歩いてたお婆ちゃんや。




「おい、お婆ちゃん! 大丈夫か! どないしたんや!」




 僕は、お婆ちゃんに近づいて声をかけた。


 あかん! 顔が真っ青や!




 お婆ちゃんを助けなあかんけど、現場にも急がなあかん。


 漆黒の淑女ブラックプリンセスの相手をするべきかもしれへんし……


 どないしたらええねん!




 頭を抱えてる僕の視界に、悪魔みたいな影が入ってきた。


 見たら、漆黒の淑女ブラックプリンセスが、ゆっくりこっちに近づいてきてる。




「その老婆は、放っておけば間もなく絶命するであろう」


「なんやと!」




「しかし、生産年齢の多くが汗水流して稼いだ金を、年金と称して悪びれもせずむしばむ極悪高齢者。


 そのような者が少しでも減った方が、この国は豊かになるのではないのか?」




「な、なにをアホなこと言うてんねん!!」




 漆黒の淑女ブラックプリンセスは右手を軽く上げると光を放ち、その手は瞬く間にお婆ちゃんの背中に向けて振り下ろされた。


 手刀が当たった衝撃音の後、お婆ちゃんはその場に崩れ落ちた。




 一瞬の出来事に、僕は何もできへんかった。




「お、お前! 何しとんのじゃ、コラァ!!」




 僕は漆黒の淑女ブラックプリンセスに殴り掛かったけど、瞬間移動でもしたみたいにあっさりかわされた。


 僕がヤツを睨みつけたそのとき、咳き込む声が聞こえた。




「おい! 大丈夫か! お婆ちゃん!」




 僕が近づいたら、お婆ちゃんは手のひらに乗ったものを僕に見せた。


 なんや、これ。……飴だま?? でかいな。




「ふぅ~、助かったよ」




 お婆ちゃん??




「飴を舐めながら歩いてたらね、全身緑色のアンタがすごい勢いで走ってきたら、びっくりして飴を喉に詰まらせちゃったんだよ」




 え? 僕のせい??




「助けてくれて、ありがとね。真っ黒のお姉さん」




漆黒の淑女おまえ、まさか……」


「ふんっ! 私の攻撃に難なく耐えるとは……、この老婆は若い頃、さぞかし鍛えていたのであろう」




「あ、それとアンタ」


「え? 僕っすか?」




 お婆ちゃんが僕に何を言うんや。


 ビビらせたから、しかられるんか?




「アンタ、ボウエイジャーの緑の男の子だね」


「え?」


「いつもありがとね。頑張ってね」




 ぼ……、僕に、感謝してくれてる人が、おった。




 世の中には、【特警戦隊ボウエイジャー】は4人構成やと思ってる人もおるのに。


 嬉しい。あかん、泣きそうや。




「くだらん」




 漆黒の淑女ブラックプリンセスは僕の感動に水を差しやがった。




「なんやとっ!!」


「いいか、貴様にこれだけは言っておく」




 漆黒の淑女ブラックプリンセスは、僕に顔を近づけて続けた。




「……弱いくせに、関西弁を使うなっ!!」




 どういうことやねん。

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