第六章 マヤのオムライス

 マヤの買い物も終えたし俺達と一匹は家に帰って来た。


「ただいま」

「ただいま〜」


 俺の後に続く声。

 これは嬉しすぎる。

 こんな小さな幸せ。

 俺以外に人がいる温かみ。


 マヤの敬語もすっかり消え去った。


「マヤに話聞いてもらってちっと楽になったわ」

「なら良かった」


 俺とマヤは食卓を囲んでいる。

 久しぶりの誰かと一緒の晩御飯だ。


「美味いよ、これ!」

「美味しい? 良かった」


 俺は薄焼き卵に包まれたオムライスにスプーンを入れてはたくさんのっけて口に一気に入れた。


 うめえや。

 ほんとに。

 俺が食べるたびにオムライスを作ってくれたマヤの顔がほころぶ。


「オムライスなんてさ、久しぶりに食ったなあ」


 俺はポトフを作ったがちょっと味が薄かったかな?


「ヒカルさんの作ったポトフも美味しいよ」

「味が薄くない?」

「ううん、ちょうど良いよ」


 なんだよ、これ。

 こんな食事の時間!


「すげえ嬉しいや」

「えっ?」

「誰かの作ってくれた美味い飯を食うのいつぶりだろう?」

「大袈裟だよ」


 はにかんだマヤの顔に見惚れてた。

 可愛い。

 腹もオムライスで満たされたが心に空いたたくさんの穴もいくつか塞がるような気になる。


 満足感があった。


 不思議な魅力だ。

 マヤに溶かされていく。

 俺はマヤを助けたんじゃない。

 マヤに俺の方が助けられたんじゃないのか?


 救われていく。

 生きる資格を失ったはずの俺という男がマヤに手を差し伸べてもらった気がした。




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