第八話 後味の悪い勝利

 目の前に風間がいない。

「…しまった! 逃げられた!」

 どっちだ? 大学の建物の中か? それとも敷地の外に出たのか?

「あっちデス!」

 イワンが先に見つけた。風間は大学の正門に向かって走っている。

「何をする気だ? あいつにできることは降参しか残されていないはずだが…」

 まさか今から雨宮を呼ぶ気か? 疲弊したこの状態、増援が来てはこちらに勝ち目はない。

 正門を出た。すると風間は立ち止まる。

「風間俊樹! おとなしく降参しろ!」

「誰がそんなことするか! 俺は確かに負けた。でもどうだっていい。雨宮先輩が絶対お前らを始末する。俺は雨宮先輩を信じている!」

 そう言うと道路に飛び出した。

「やめろ――」

 もう遅かった。いきなり道路に飛び出した風間は大型トラックに轢かれた。

「ウワア…」

 イワンが絶句した。風間の体は数十メートル跳ね飛ばされた。目撃していた通行人が警察や消防に電話する。

 風間との戦いには勝ったが、良くない終わり方だった。


 陶児は警察が駆け付ける前にそこら中に散らばっている風間の私物や体の一部からあるものを見つけた。

「それハ…」

「見ればわかるだろう? 風間の携帯だ。風間は戦っている最中に連絡を入れていたようだな。壊れてしまって開けないがこれを持っていたということは俺のことや雨宮の情報を手に入れたことが雨宮にバレたと考えていい。雨宮は配下の召喚士を失った。このことに激怒するだろう。今まで以上に慎重に動く必要があるな…」

「そうでスネ…。陽一クンに連絡を入れておきマス。繭子サンにも伝えてもらいましョウ」

 探りを入れさせないために自害までするとは…。風間の持つ雨宮への忠誠心はかなりのものだ。寧ろそんな行動を取らせる雨宮に魔力があるのか…?


「あーあ、風間。死んじゃったよ」

「式神ヲ失ッタラ殺スツモリダッタンジャナイノカ?」

「ま、それはそうだけど。結構扱いやすい人だったのになぁ。もったいない」

 好恵は電話をつないだままだったので、風間が戦っていた状況は全て把握していた。

「それよりも面倒なのは召喚士が一人増えたことね。陶児とか言っていたっけ? 陽一たちの仲間ね。それがわかったわ。風間は仕事した。そういうことにしておきましょう」

「オ前…ソノ何デモ利用スル性格、直シタ方ガ良クナイカ?」

「何言ってるの[ルナゲリオ]? 私は物事を前向きに考えてるだけ。じゃないと損でしょう?」

 本名を知られた。そして在籍している学部と学科もバレた。でもすぐに自分のところに来るとは思えない。土曜日はあの二人は自分にボロ負けした。向こうも向こうで必ず何かしらの準備をするはず。だとしたらまだ時間はある。こちらから仕掛けるか。

 好恵はスマートフォンを手に取った。

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